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プロローグ《魔道書を廻る物語》

草木も眠る丑三つ時、という言葉を体現するに相応しい夜だ。


しかし、その諺とは少しばかり掛け離れている程の、静かなる闘争が行われている。


それは剣戟か、それとも喧嘩か、少なくとも派手に騒ぎ、火花を散らし、大きく幕を開けた攻防が静まり返る森に響き渡る。


敵は紛れも無い各上、それらの一撃一撃が、確実に人という部類を殺す技術を体現している。


片や一方、剣としての輝きを失い、鈍として大差が無い片手半剣(バスターソード)を扱う。


火花が散り、鉄と鉄の激しい打ち合いによる音は、紛れも無くその剣によるものだ。


この二人は闘争をするには理由がある、それには、たった一つの埃に塗れた一冊の本が原因であった。


それは言うなれば、世界を歪ませる程の一撃を齎せる、破壊兵器。


持つ物に力を与え、神代の時代を体現させる空間崩壊の書物。


その書物、別称"魔道書"を廻る抗争が、この場に展開し、神話の再現を体現させる。


片手半剣を所有しているが、相手の攻撃は早くなる、見切るに見切れなくなり、一手二手を防ぐ度に三手目で剣が自分の頬を伝う。


紛れも無く、相手は自分と同じ"魔道書"の所有者、それも第三級"神話体系"の部類。


黄金の剣が身体を貫く度に、身体能力の低下が目に見える。


そうなってしまえば、最早動く事自体が軌跡だ、防戦一方の状態は瞬時に虐殺へと変貌し、段々とその剣戟が遊戯へと変わる。


最早この空間は相手の独占場、役目を終えた配役(キャスト)に待つのは天幕という名の終焉。


相手に勝利が確信される、自分自身、相手にとってこれが最高潮である事は分かっていた。


満身創痍、手指一本動かすことも出来ず、ただ反撃を待つまで、最後まで剣を離すことは無かった。


そして、空間が曲がる、一転した世界、回り回ったのが、自分自身が撥ねられた首だと分かるのは数秒もしない事だった。


血流が巻き上がる、綺麗な花が咲きあがる、しかしそれを楽しめるのは皮肉にも勝者だけ。


敗北は即ち死、今こうして再現されているのは処刑場、ギロチンに掛けられた、哀れなる罪人の首は何処へと。


あぁ、最悪だ、胴と首が離脱し、血液の水溜りはまるで首と胴体を結ぶ赤い糸。


勝敗は決した、敗北は揺ぎ無い、けれど、もうそろそろ、"俺の役目は終わる"。


そこで聞こえるノイズ、タイミングの良すぎる通信機から聞こえる少女の声は、走るノイズに紛れて"作戦終了"の言葉を口にする。


その"合図"は、言うなれば自分が買って出た"時間稼ぎ"の終了、首と胴体を切り捨ててまで身体を張った行いは功を奏した。


ならば、もう俺の役目は終わった、首の無い胴体は"生きているかのように身体を動かし"、首は"血液へと変貌する"。


まるで吸血鬼(ドラキュリーナ)の様だ、しかし残念、俺はそれを超える"怪物"なのだから。


敵が剣を振り下ろす、今度は先程の一撃よりも強く早い、雷光の一撃。


今まで本気を出していなかったのか?それとも力を振り絞った最高の一振りか。


どちらにしても避ける術は無い、視認を超えた最高速。


だが、避けれないなら、最初から避けなければいい。


右肩から抉る剣は豆腐を斬る様に右腕を切断する、迸る血液、そのまま地面に転がる右腕。


不思議と痛みは無い、怒りも、悔しさもない。


ただ、転がる右腕を見て、再三自分は"怪物"になったのだと痛感する。


乖離した右腕は血液となり、綺麗な右肩の切断面に群がる、血液が硬直し、骨を再現し、肉を再現し、神経を再現し、そして先程の傷は消えて、右腕が元通り。


炎の様に舞い上がる首元の血液は凝固し、右側から順に自らの顔を形成する。




「―――さて、任務は終了した訳だが」




一歩、踏み出すたびに、磁石のS極とN極の様に離れる"英雄"。


目の前に広がる"怪物"に、一体何の恐怖を抱いているのか、俺にはまったく分からない。




「―――ここから先は、勝敗など関係の無い、一方的な私情で行われる闘争を、始めようじゃないか」




口を大きく開く、喉の先からあふれ出す、"怪物"に食われた"英雄"が、泣き叫び助けを乞う。




「始めようか"英雄"、俺を"怪物"にしてくれた礼を今この場で返してやる」




これは私情の闘争。




我は複合(キメラ)合成獣(モザイク)、全てを鵜呑み、醜き最強の(けもの)(なり)










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