第9話 後輩
「じゃあ、前までの楓とは違うのか……」
「うん」
私の好きな人――翔太が尋ねてきて、私が答えた。
体育会の代休も終わり、私は学校に来て、翔太と星と話していた。
自分の意志で学校に登校するのは初めてだったので、なんか新鮮な感じだった。
一応、皆には私の人格が変わったと言ってある。そしたら皆、あっさり人格が入れ替わったと信じてくれた。
「じゃあこれからは、ちゃんとした女子扱いでいいんだな?」
星が言った。
「うん、これからは着替える時も一緒に着替えるよ」
今までとは違って、体も心も女なので別々に着替える必要もない。
……あれ? でも私、男の楓の中に居る時、男子の体たくさん見てるような……。
そうしたら、これからは私の中にいる男の人格は、女子の裸をたくさん見るんじゃないか?
私は自分の意志で動けなくても、男の私が見ている光景は見ることができた。てことは、私が見ている光景は、男の私も見れるんじゃないか?
まあ、私が知ったこっちゃない。男の私には女子の体をたくさん見てもらおう。
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昼休み、私は日直なので昼食を食べて、先生に頼まれて職員室に何か分からない資料を持っていっていた。
私が廊下の角を曲がろうとした時、誰かとぶつかって倒れてしまった。
「いてて……」 「いったーい……」
私ともう一人の誰か、女子の声が重なる。ぶつかった衝撃で私が持っていた資料は、床にバラバラに落ちてしまっている。
「ごめんなさい……」
私が相手の方を向きながら言うと、そのぶつかった相手も私の方を向いて言った。
「いえいえ、こちらこそ……」
その女子は私の方を見て、大きく目を見開いて言ってきた。
「あなたは……!」
「え?」
「2年の藤宮先輩じゃないですか!」
私はその元気の良さに、若干引いてしまった。
「いや、確かに私は2年の藤宮だけど……」
するとその女子生徒は私の手を両手で握って、ブンブンと振った。
「一度会いたかったんですよ~!」
「あ、そうなんだ……」
「そのショートカットの髪! 整った顔! 小柄な体! そしてその胸! かわいい……」
「おーい」
私が呼びかけても、自分の世界に入ってしまっているようで、何も聞こえていないようだ。
「もしもーし」
改めて私が、彼女の顔の近くで言うと、彼女はハッ! となった。
「あ、勝手な事言ってすいません!」
そう言って頭を下げた。ただその頭が私のでこにクリーンヒット。
「いったー!」
「すいませんせいません」
彼女は何度も頭を下げた。
てかこの子誰? 覚えがないんだけど……。
「あの……」
私が恐る恐る話しかけると、彼女は元気よく返事をした。
「はい!」
「とりあえず、落ちた資料を拾ってくれると嬉しいんだけど……」
「あ、すいません……」
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先ほどの不思議な後輩と一緒に、資料を拾って職員室に届けた後、私とその後輩は広場のベンチに二人で腰かけていた。
「本当にさっきはすいませんでした……」
「気にしなくていいって」
「でも……」
「てか、あなた誰?」
「あ、これは申し遅れました! 1-Aの白瀬咲夜です!」
「あ、そうなの……」
元気良すぎてまた若干引いてしまった。
「はい! 藤宮先輩のファンです!」
「ファン?」
「はい! そうです! 藤宮先輩を初めて見た時からかわいいって思いまして!」
ファンまでいたとは……。ん? でも……。
「え、でも私元々男だったって知ってる?」
「はい! もちろん! 男の藤宮先輩は興味なかったんですけど、女の藤宮先輩には興味あります!」
男の私かわいそうすぎる……。
さらに咲夜は続ける。
「心も女になったって聞きまして! それでますます好きになったんです!」
「いや、心が女になったってわけじゃなくて、人格が女になったんだけど……」
「そうなんですか! 関係ないです!」
「あ、そう……」
「はい!」
それからしばらくお互い沈黙してしまう。
ん? 何か隣から視線を感じるような……。
私は恐る恐る横を向いた。すると、咲夜が私をジーッと見ていた。
「え、なに……」
「カワイイ……」
「え……」
「カワイイ……」
これはいけない。女子から言われてるのに恥ずかしくなってしまう。ちょっと反撃をしないと。
「そういう咲夜も可愛いよ?」
「えっ!?」
予想だにしない一言だったのか、咲夜は驚いた。そして、頬を赤らめてしまった。
「何言ってるんですか~!?」
でも嬉しそうだ。私は追撃をかける。
「ホントに可愛いよ? ショートカットの髪で、なんか……。この……。ロリっぽい感じで可愛いよ?」
私褒めるのへただな。ただ、ますます咲夜は顔を赤くする。
「そんな事ないですよ! 先輩の方が可愛いです!」
「そんな事ないよ、咲夜カワイイから男子にモテてるんじゃない?」
「いや、そりゃ告白されますけど……。いろんな言葉言って泣かせてきてます!」
怖すぎる……。なんで笑顔でそんな事言えるのか……。
「でも、先輩の方がカワイイです!」
「そ……そう……」
無理だ。言葉で勝てそうにない。
「あの……。先輩……」
「ん? 何?」
「ん?」
「えっと……」
咲夜はモジモジとして、何かを言うのをためらっているようだった。
「遠慮しなくていいから言って?」
私はできるだけ優しく言った。すると、咲夜は勇気づけられたのか、私の目を見て言った。
「お姉様と呼んでもいいですか!?」
「へ?」
なんでお姉様……?
今日、7月24日は僕の誕生日です。祝ってください(切実)
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
評価などお願い致します。