第6話 『異性』への気持ち
休日も終わり、月曜日。
俺は学校に着き、机に突っ伏していた。
やべえモヤモヤする……。どう翔太と接したらいいんだ……。
あの後、俺は帰る時、翔太の顔をまともに見れなかった。見ようとしたら顔が熱くなるのだ。
俺はうすうす感じている。
『女』の俺が翔太を好きになりかけていると。『男』の俺が完璧に消え、心まで『女』になったら、俺はどうなるのだろう。俺は家に帰ってから、ずっと考えていた。
姉ちゃんにも「大丈夫?」と言われてしまった。顔に出てしまっていたらしい。でも姉ちゃんには相談できない。こんな事で心配かけたくないし、どう説明したらいいのか分からない。
「おはよー」
ビクッと反応してしまった。翔太が登校してきて、皆に挨拶をしながら自分の席に向かってきたのだ。
翔太は俺の前の席に座ると、カバンを置き、後ろを向いて、俺にも挨拶をしてきた。
「よっ! 楓」
くそ……。今までとは違って妙にカッコよく見える……。この気持ちを認めてもいいものか……。
「お、おはよう。翔太」
「ん? どうした、楓? 顔赤くないか? 熱でもあるんじゃないか?」
そう言って翔太は、俺の額に手をあてて熱を測ろうとした。
「ちょ、ちょっとトイレ行ってくる」
「ん? そうか」
俺は急いで女子トイレに向かい個室に入った。
…………。やべえーー! めっちゃ変な気持ちになった。恥ずかしくなった。前まではこんな感情無かったのに……。これも『女』になりかけているからか。でもまだ女子をみて興奮するからセーフ。興奮するのはセーフなのか?
俺は個室を出てトイレの鏡で自分の顔を確認した。やはり『女』の俺が映っていた。
男の時の俺の顔ってどんなんだったっけ……。やばい、うっすらとしか思い出せない……。
このまま『女』になっていっていいのだろうか。俺が翔太の事を好きだといったら皆、どんな反応をするだろう。あのクラスの事だ。気持ち悪がったりはしないだろう。
でも翔太はどう思うだろう。翔太は迷惑するだろうか――やめよう。この考えは。
翔太の事を考えると変な気持ちになってしまう。
でも翔太って星の事が好きなんだよな……。…………。また考えてる! ダメだダメだ! 考えたらダメだ!
なんだよ、俺乙女かよ。うん、今、俺は乙女だな。それは認めよう。
よし! いつも通りいつも通り!
俺は頬を両手で叩き、気合を入れなおして教室に戻った。
「やっぱ調子悪かったのか?」
席に着くなり翔太が心配した表情で言ってきた。
こういう事を平気で言うから……。とにかくいつも通りいつも通り。
「お、おう大丈夫。ヘイキダヨ」
「なんでカタコト!?」
あれ、カタコトになってた? とにかく、いつも通りいつも通り。…………。いつも通り? いつも通りってなんだっけ? 俺のいつも通り? いつも通りってどういう意味? とにかく、いつも通りいつも通りいつも通りいつも通り…………。
「…………」
「どうした楓!? 無になってるぞ!?」
「へへへ、いつも通りいつも通りいつも通りいつも通り」
「楓が壊れたーー!」
その後、十分間ぐらい頭が真っ白でした。
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「楓、昼飯食べに行こうぜ」
星が俺を昼食に誘ってきた。その隣には翔太もいる。
「おう」
「じゃあ俺、購買で何か買ってくるよ。楓、星、何がいい?」
改めて思うとこいつめちゃくちゃ優しいな……。変態さをもっと抑えればいいのに……。
「あたしはクリームパン」
「楓は?」
「え? わ、俺はカレーパンよろしく」
「じゃあ買ってくるわ、金は後で渡してくれ」
「オッケ~。じゃあいつもの場所に行こうぜ、楓」
「お、おう」
俺と星と翔太は基本的にいつも三人で昼食を食べている。
先日は姉ちゃんと食べる約束をしていたから、誘われて断ったわけだが。食べている場所は広場だ。皆よく食べにくる人気スポットでもある。ベンチに座る人、芝生に座る人様々だ。
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俺と星はベンチに腰を下ろして、翔太が来るのを待った。俺は、ふと思った。
翔太は星の事が好きだが、星は翔太の事をどう思ってるのだろう。
そう思うと聞かずにはいられなかった。
「なあ星」
「なんだ?」
「毎日翔太からアプローチうけてるけど、実際どう思ってるんだ?」
「う~ん。いい奴だとは思うけどキモイな」
星は嘘をついているようには見えなかった。そうか好きじゃないのか……。喜んでいいのか? 親友が気持ち悪いと言われているのに、喜んでいいのか?
でも、翔太の事を話す星の表情は楽しそうだった。
今は好きじゃなくても将来は――フラグを立てるのはやめよう。
その後、翔太が来て三人で楽しくパンを食べた。第三者がいると、翔太と普通にしゃべれる事が分かったのが今日の収穫。
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夜、俺は姉ちゃんから「一緒にお風呂に入らない?」と誘われた。俺は「いいよ」と言った。了承したのは、まだ男の気持ちが残っているか確かめたかったのだ。
今、俺は姉ちゃんと向かい合わせになってお風呂に入っていた。
「なんか落ち着いたね。なんかあった?」
うっ! するどい……。でも言うわけにはいかない。てか言えない。
「ん? 何もないよ?」
前ほど変な気持ちにはならないが、多少はそういう気持ちもある。
良かった。まだ『男』の俺は消えてないみたいだ。
俺は姉ちゃんに頭を洗ってもらった。ただその後、姉ちゃんが前と同じように、「体、洗ってあげよっか」とニヤニヤしながら言ってきた。俺は拒否したのだが、また無理やり体を洗われてしまった。
この時も変な気持ちにはなったので、『男』としてはセーフ。
ただ、『女』としてはアウト。
リア充爆発しろ。
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
評価などお願い致します。