第17話 まるでカップル
「せーんぱーい! 一緒にかえりましょー」
放課後、教室のドアを開けて俺に向かって、相変わらずの元気の良さで話しかけてくるのは、みなさんご存知の咲夜ちゃんです。う~ん。周りの目を気にしないんだなぁ……。『空気読め』略してKYですね。
まあ、予想通りクラスメートがざわざわする。「え、二人って付き合ってるの?」「今度はお兄様……」「爆発しろ」「殺すよ? リア充は」
うるせえなぁ……。あと最後の奴やべえだろ。
「はい、説明するから静かにしろー」
俺はこうなった経緯と、これから咲夜と色々な事(意味深ではない)と言う事を言っておいた。これで変な噂はたたないだろうし、咲夜にも迷惑はかからないだろう。
「まあ、そういうことなんで。じゃあな翔太、星」
俺が手を振りながら咲夜の元へ向かうと、翔太と星も「じゃあなー」「また明日ー」と手を振り返してくれた。
まあ、そういう事で咲夜と共に帰ることになりました。……ちょ、ちょっと緊張するよぉ……。
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帰り道俺と咲夜は並んで歩いている。そして思った以上に会話をも弾む。
「あの、お前はさぁ……」
俺はなおも歩きながら、咲夜の方を見ず話しかける。
「咲夜」
「え?」
俺はどうして咲夜が急に、自分の名前を言ったのか分からなかった。ただ、その疑問はすぐに消えることとなった。
「『お前』って言われるのは何か嫌です。お姉様が呼んでいたのと同じ咲夜と呼んでいいですよ」
咲夜は俺の方を見てニコッと笑った。
……思わずドキッとしてしまった。下手したら好きになってしまいそうになる。
「な、なら咲夜」
若干の気恥ずかしさも覚えつつ、『咲夜』と呼ぶ。すると咲夜も笑顔で応じてくれた。
「はい、何でしょうか」
「咲夜は俺と一緒に帰っていて大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
咲夜は首を傾げ俺に聞き返す。
「いや、俺と一緒に帰ってたら変な噂されるかもしれないと思ったから」
「あー……。まあ、お姉様に会うためには仕方がないです。先輩と噂されるのは胸糞気分が悪いですが……」
いや、女子がそんな言葉使っちゃダメだよ? しかも表情めっちゃ歪んでるじゃん……。あいかわらず俺を傷つけるのがうまいなぁ。尊敬の域に達するよ。
そうこう話しているうちに、俺の自宅前に着いた。
「じゃあ先輩また明日」
「おう、じゃあな……。……家まで送って行こうか? ここから結構近いんだろ?」
彼氏でもないのにこんな事言ってもいいのかと思ったが、最近不審者が出没していると聞く。夕暮れの道を女子一人で歩くのは危ないだろう。
「え、何で私の家知ってるんですか……。気持ち悪いです」
「いや、女の俺が咲夜の家に行ったことあったろ!?」
俺は全力で否定する。
「ふふふ。冗談です。まあ、一人で大丈夫ですよ」
咲夜は笑みを浮かべる。ただ、それでも俺は心配だった。……あれ? なんか俺親心みたいなの芽生えてない?
「本当に大丈夫か……?」
「はい」
「う~ん。ならまた明日な」
「はい、また明日」
そして咲夜は自分の家へと向かって、歩いて行った。すると少し歩いた所で立ち止まりこちらに向き直り、手を振ってきた。俺が振り返すと、咲夜は笑ったように見えた。そして咲夜は再び前を向いて歩いて行った。
「う~ん。なんか自然」
俺はそう独り言をつぶやき、家に向き直る――とそこに居たのは、ニヤニヤしている姉ちゃんだった。
「あ……」
「いつのまにそういう関係になったのかなぁ?」
なおも姉ちゃんはニヤニヤしている。やめろよ、からかうなよ。「お前ら付き合ってんの?」みたいな中学生みたいな目で見るなよ。
「いや、姉ちゃん。これは誤解で……」
何が誤解か分からないが、とりあえず誤解と言っておいた。
「まあまあ、詳しい話は家の中で聞くから~」
「ちょっ。マジで違うんだって……」
「まあまあ」
姉ちゃんは誤解を解こうとする俺の背中を押して、家に入って行く。
ああ……説明するのめんどくせえな……。
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「なーんだ。そういう事だったのかー」
「そういう事です」
「つまんないのー」
姉ちゃんは俺の説明に納得してくれたようだ。
てか姉ちゃんさすがに女子が大の字になって寝るのは……。あれ? 胸のふくらみが見えないなぁ……。まな板かな?
ちなみにキスの事は姉ちゃんにはまだ黙っている。理由としては、俺がした事、された事ではないからだ。もしかしたら女の俺が言ってほしくないと思ってるかもしれない。キスをした咲夜には言えても姉ちゃんには言えない。てか言う必要があるのかも分からない。
「でもさー」
姉ちゃんは起き上がり、あぐらを組んで俺の方を向く。
「なに?」
「なんか、二人本当にカップルみたいだったよ?」
「そうか?」
「うん、いい感じだった」
周りからはそう見えてたのか……。いや、だからと言って付き合ってるわけじゃないんだけど……。
「でも散々ヒドイ事言われてるけどな」
俺は苦笑する。
「でもさ、それは照れ隠しかもよ?」
「それはないだろ」
「そうかなー?」
「ああ」
だってあの人を殺せそうな目本物だもん。気持ち悪そうな目で俺を見るのも一級品。全国大会に出場できるレベル。
てかそもそも咲夜が好きなのは女の俺だからな。しかも多分女の俺の事異性として好きだし。咲夜は女の俺と会えなくて耐えられるのだろうか。
咲夜のためにも早く、女の俺と今の俺が入れ替わった原因を探さなくてはいけない――そう俺は思った。
いやぁ~乱世乱世!
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
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