第16話 先輩
こっからの展開どうするか……。
「あの、誰ですか……」
咲夜は突然話しかけてきた俺に最初は驚いたようだが、気を取り直したようで、ごみを見る目で俺を見てくる。
あれ? さっきより俺の見方がひどくない?
男に戻っている俺は、咲夜よりも10cmぐらい背が高い。175cmぐらいだ。だから自然と見下ろす感じになる。そんな俺をビビらないとは……。さすがですわぁ……。
「ホントに誰ですか?」
咲夜は若干イライラを含みつつ、俺に話しかけてくる。
もう少し上目遣いな感じで見てくれると嬉しいんだけど……。てかさすがに咲夜に何か言わないと全力で殴られるまである。
「お姉様です」
「いや、もうそんなのいいんで。それよりお姉様います?」
あれ? 蔑んだ目で見られるのもいいかもしれない。
咲夜は女の俺の事をお姉様と呼んでいる。クラスの皆もしれは知っている。それを知っていて咲夜は俺に「お姉様います?」と聞いてきたんだろう。
でもその『お姉様』が俺なんだよなぁ……。
「俺、お姉様」
いや、こんな言い方したらもっと不審がられるだろ。
「いや、マジでキモイんで……。お姉様もしかして休みですか? なら教室に帰ります。では」
「ちょっ! 待って!」
俺は教室に帰ろうとしている咲夜の肩を慌てて掴む。すると咲夜は
「触んないでください。私の体に触っていいのはお姉様だけです」
と一言。なら俺もOKじゃね? と思ったが口にしない。だって信じてもらえないから。
「とりあえず俺の話を聞いてくれ!」
俺がからかいで絡んでいるのではないと思ったのか、咲夜は呆れながらも了承してくれた。
「はぁ……。分かりましたよ。なら今、屋上にはあまり人がいないでしょうからそこに行きましょう」
「え?」
「ほら、いいから行きますよ」
「お、おう……」
え? なんで屋上? もしかして俺殺されんの? さすがに悪ふざけが過ぎたか?
そう思いながらも俺は屋上に向かっていく咲夜の後を追った。
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屋上は俺ら以外に誰もいなかった。
俺何されんだよ……。その気持ちでいっぱい。
屋上の中央辺りに俺らは行くと、ここまで黙っていた咲夜がこちらを振り向いた。
「はい、どうぞ」
そんな嫌そうな顔しなくても……。とりあえず言える事を言っておこう。
でもどう説明すればいいんだ?
俺が言うのをためらっていると咲夜はため息をついた。
え、ついに俺殺られるんですか?
「告白するなら早くしてくださいよ……。昼休み終わっちゃうんですけど」
え? 告白? 告白って「好きです!」の方の告白? え、俺そんな事しないんだけど。
「え、その……。告白とかしないんだけど……。いや、ある意味告白かもしれないな……」
「はあ? じゃあなんの用ですか?」
うん。イライラするの止めてね? 怖いから。女の俺と態度違いすぎない?
「えっと……その……」
「早くしてくれません?」
「ああもう分かったよ! 俺はお前のお姉様なんだよ!」
「はあ?」
今日何回目だよその『は?』は。とりあえず、一つずつ説明しないと。
説明は長くなったので割愛。
「そ、そんな……。お姉様が男に戻るなんて……」
「やっと信じてくれたか……」
俺は疲れてしまい、ため息をついた。咲夜は驚いて固まってしまっている。
「な、ならもうお姉様とは会えないんですか?」
咲夜が焦りながら俺に詰め寄ってきた。まあ、憧れ――好きなお姉様にもう会えないのかもしれないのだ。焦るのは分からないでもない。
「いや、会えなくないかもしれないんだ」
「ど、どうやったら会えるんですか?」
咲夜は息をのんで俺の次の言葉を待つ。いや、この言葉言ったら殴られそうなんだけど……。
「えっと……」
「早く教えてください!」
そんなに必死にならなくても……。……分かったよ、言うよ。
「お前ともう一度キスしたらお姉様に戻るかもしれない」
――ドゴッ!
「な、殴らなくても……」
「しょうもない事言ってないで早く教えてください」
本気で腹を殴るなよ……。体女子なんだから……。あ、今は男子の体なのか。
「いや、冗談じゃないんだよ」
俺は痛みに耐えながら立ち上がる。咲夜は俺が本気だと分かったのか不安そうな顔になる。
「ど、どういう事ですか……?」
「この前俺の家で女の俺とキスしただろ?」
「え、あ、はい……」
昨日の事を思い出して恥ずかしくなったのか、咲夜は頬を赤らめる。なおを俺は話を続ける。
「そのキスが原因で、女の俺と男の俺が入れ替わったんじゃないかと思ってるんだよ」
「そんな事がありえるんですか……?」
咲夜は信じきれないのか、疑惑の目を俺に向けてくる。
「いや、俺も今日の朝はありえないと思ってたけど、昨日したいつもと違う事なんてそれぐらいしかないし」
「なるほど……」
少し考えた様子になり、咲夜は完ぺきではないようだが納得してくれたようだ。
「で、どうするんだ?」
「ど、どうするって?」
咲夜は不安そうな目を俺に向ける。
「キスするのか? 俺と」
「な!? するはずありません! 汚らわしい」
「そ、そうか……」
そこまで言わなくても……。泣きそうだよ。
「でも多分俺とキスしないと、女の俺とは会えないんだぞ?」
「う~……。でも嫌です! 私はお姉様としかキスしません!」
それはどうなの……? 女同士でガチキスって。てか女の俺はキスしていいと言っていないんだけど……。
「それに!」
突然咲夜は大きな声を上げる。その声に俺はビクッとしてしまった。
「それに?」
「まだキスが原因で入れ替わったとは断定できてないんですよね?」
「まあ、それはそうだな……」
咲夜の言う通りまだ確定はしていない。でも今の所それ以外には考えられないんだが……。
「なら先輩とはキスはしません! てかしたくありません!」
そこまで言わなくても……。もう少しオブラートに包んでよ……。てか俺の事『先輩』って呼ぶのな。『お兄様』って呼んでもいいんだぞ?
「でもお姉様とは会いたいです!」
なおも元気よく咲夜は俺に向かって話す。若いっていいよね。
「ならどうするんだよ……」
「協力してください!」
「協力?」
「はい! これからどうやったらお姉様に戻るのか色々な事をしましょう!」
色々な事……? 何か深い意味はないけど変にとらえてしまう……。まあ思春期ですし。
「色々な事ってなんだ?」
「う~ん……」
咲夜はあごに手をあてて、可愛らしく首をかしげる。かわいいな。男子が好きになるのも分かる気がする。俺も男子だけど。
「何か一緒に買い物に行ったり、遊んだりして、どうやったらお姉様に戻るのか調べましょう」
え、それってデートじゃないの? 俺がそう思っているのが分かったのか、咲夜は一歩後ずさった。
「あ、深い意味はないんで勘違いしないでください。先輩の事なんてなんとも思ってないんで」
うん、知ってた、あと、マジなトーンでそれ言うの止めてね? 泣いちゃうよ? 俺。メンタル豆腐だから。
てか今の感じだったら女の俺に会いたくて、男の俺は消えても大丈夫みたいに聞こえるんですが。まあ、咲夜にとって俺は何でもない存在だからな。
――キーンコーンカンコーン
ここで昼休み終了のお知らせです。
あー、昼飯食べれてないんだけどな。まあそれは咲夜も同じか。
「あー、チャイム鳴っちゃいましたね……」
咲夜はショートカットの髪を風で揺らしながら、苦笑いを浮かべる。あれ、デレてね?
「そうだな……」
「じゃあ先輩これからよろしくお願いします」
咲夜はそう言い、小走りで屋上から三階につながっている階段を下って行った。
う~ん。やっぱなんかカップルみたいじゃね? 俺彼女出来たことないからよく分かんないや。
まあ、これから大変な日々になりそうなのは俺でも分かる。よし、午後の授業も頑張るか。
俺はそう思い、会談を一つ一つ下って行った。
最近アニメを見るのにはまってます。勉強とかどうでもいいです。
明日から本気出す。
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
評価などお願い致します。