第14話 初キス
「もう一週間経つのか……」
「そうだなー」
「そうだねー」
翔太の一言に私と星は反応する。この会話をしているのは教室。そう、学校だ。もう夏休みが終わって一週間。特にいつもと変わりない日常。
ただ、いつもと違うのは――
「お姉様! 食べに行きましょう!」
「うん、わかった。じゃあね翔太、星」
「じゃあな」
「おう」
私は昼食を食べに、咲夜とともに広場に向かった。
本当は翔太と一緒に食べたいのだが、咲夜が「二人きりで食べたいです!」と言うので仕方がない。
それにしてもここ最近、咲夜の私に対するアプローチが日に日に増している気がする。
こうして隣り合わせに座って食べていても、なんか距離が近い。
「あの……。もう少し離れてくれない……?」
「嫌です。お姉様の近くにいたいんです」
ハッキリと咲夜は言った。前までは私の言うことは聞いてくれていたのに……。あの勉強合宿の時から、妙に積極的になっている気がする。
しょっちゅう私の家に来るし……。まあ、迷惑とまではいかないけどちょっと困るかも。
ふと横を見ると、咲夜が上気した顔で私を見ている。
「な、なに……?」
「え? あ! な、なんでもありません!」
そう言って私から目をそらし、お弁当を咲夜は食べ続ける。
前まではこんな反応じゃなかったような……。まあ、別に深く考えることではないだろう。
私達は食事を済ませると、二人でいろんな話をした。咲夜に「好きな人っているんですか?」とか聞かれたりした。それに対して私は「いないよ」と答えた。
本当はいるのだけど。「いる」と言ったら咲夜が悲しみそうだから、嘘をついておいた。
ついさっきまでの事を思い出しながら、隣に座っている咲夜を見る。
咲夜は私の事をどう思っているのだろう。
単純に尊敬の意味を込めて、『好き』と思っているのだろうか。
それとも本当に心から私の事を愛しているのだろうか。
ただ後者だった場合、私はどうすればいいのだろう。
結果的には咲夜の事を傷つけてしまうのかもしれない。
でも咲夜の気持ちに答える事は出来ない。私には好きな人がいるのだから。
まあ、でも咲夜が私の事を本気で愛しているはずはないだろう。
ただ、この咲夜の存在が、私を今後大きく変えていく事になるとはまだ私は思いもしなかった。
~~~~~~~~~~~~~
今、私は家に帰っている。ただ一人ではない。私は隣に並んで歩いている後輩を見る。
「ん、どうしたんですかお姉様」
「いや、なんでもないよ」
「そうですか」
そんな何気ないやり取りをしていても、咲夜はやけに上機嫌だ。今から私の家に行くのがそんなに嬉しいのだろうか。
なぜ、私の家に咲夜が来るとかと言えば、さっき咲夜から「このままお姉様の家に行ってもいいですか!?」と言われたからだ。
あんなに目をキラキラして言われれば断れない。
そんな事を思いながら歩いていると、咲夜が私の方を向いて恥じらいながら言った。
「あ、あの……。手を繋いでもらえませんか……?」
「え、うん。いいよ」
「ありがとうございます!」
私は左の手で、咲夜の右手と手を繋いだ。
こう手を繋いでいると、勉強合宿で翔太と手を繋いだ時の事の事を思い出してしまう。思い出すだけで体が熱くなってしまう。
「お姉様、どうかしたんですか?」
「い、いや……。何でもないよ……?」
「そうですか……?」
「うん」
そもそも女子同士で手を繋ぐのは不自然ではないのだろうか。でも通行人の人達は、別に私達の事を変な風には見ていないように見える。姉妹に見えているのかもしれない。
でも、男同士で手を繋ぐのはどうなのだろう。それはマズイ気がする。なんか……。色々と。
そうこうしているうちに私の家に着いた。家に入る時に咲夜と手を放すと、咲夜は「あ……」と言ってしょんぼりしてしまったが、こればかりはどうしようもない。ずっと手を繋いでいるのも意外に大変なのだ。
今、この家には私と咲夜の二人きりだ。お姉ちゃんは陸上部の部活に行っている。もう引退はしているのだが、後輩を指導するために行っているらしい。
「お姉様、はいどうぞ」
咲夜はソファーに座っている私に、グラスに注いだお茶を手渡してくる。
「あ、ありがとう」
こういう風に咲夜が私に色々やってくれるようになったのはつい最近だ。
私は「しなくていいって……」と言っているのだが、咲夜は「お姉様に尽くしたいんです!」と張り合ってしまっている。私に対して色々してくれているので、咲夜はこの家の事をかなり知り尽くしているかもしれない。
「咲夜も座ったら?」
「はい!」
咲夜は私の横にチョコンと座ってくる。かなり距離が近い。
「お姉様」
「なに?」
「頭をなでてもらえませんか……?」
「え、うん。いいよ……」
私は咲夜の頭をなでなでする。もう慣れたものだ。咲夜は私に対してお願いをするのだが、圧倒的に多いのは『頭をなでて』だ。まあ、それくらいなら私もしてあげている。
「ふぁ……」
気持ちよさそうな声を咲夜はあげる。
そんなにあまたをなでられるのは気持ちいいのだろうか。なでられた事がないから分からない。
あ、でも『男の私』はお姉ちゃんに頭なでられたような……。気持ちよかったのだろうか。それは私には分からないが。
「もういい?」
「もう少し……」
「う、うん……」
なで続ける。さすがに手が疲れてきた……。
「あの、手が疲れてきたからもうやめていい……?」
「あ……。それなら分かりました……」
私が頭をなでるのを止めると、咲夜はシュンとしてしまった。
まあ、いつもの事。もう慣れた。
それから私達はテレビを見たり、何気ない話をしたりした。
私と咲夜がテレビを見ていると、咲夜は急に私の名前を呼んだ。
「お姉様」
「ん、なに?」
私が何気なく咲夜の方を向いた瞬間――
「んっ」
「!?」
何が起こったのか分からなかった。
あれ? 私の目の前に咲夜の顔がある。口と口が触れているような……。あれ、私キスしてる? キス? キス!?
数十秒くらいキスをすると咲夜は私から離れた。
「えへへ。我慢できなくてついしちゃいました……。あ、もうこんな時間ですね。じゃあ私もう帰ります。それではまた明日学校で」
咲夜は自分のカバンを持って、この家から出て行った。
ただ私はまだ事態を飲み込めていなかった。
あ、なんで私と咲夜が……。キスしたっていう事は本気で私の事が好きだったのか……? てか私、初キスなんだけど……。どうしたらいいのこれ……。
「ただいまー」
どうやらお姉ちゃんが帰ってきたようだ。お姉ちゃんは私の姿を見るなり言った。
「うわ、どうしたのぼーっして。さっき咲夜ちゃんが妙に上機嫌だったけど何かされたの?」
「いや……。なんでもない……」
どうやら入れ替わりでお姉ちゃんが帰って来たようだった。
私は若干放心状態のまま、自分の部屋に向かった。
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「どうすればいいのよ……」
私はベットに横になりつぶやいた。
まさか咲夜があそこまでしてくるとは思わなかった。これから先、もっとアプローチがひどくなるかもしれない。やっぱりはっきり咲夜に「こういう事しないで」と言うべきだろう。咲夜が落ち込んでしまっても関係ない。これは問題なのだから。
よし、明日はっきりと言おう。
その後、私はお姉ちゃんの作った食事を食べ、お風呂に入り、明日はとても大変な一日になりそうな気がする。そう思いながら私は眠りについた。
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翌朝『俺』は目を覚ました。ただ今までとは違う事があった。
「体が思い通りに動かせる……!」
そう、俺は『女の俺』と入れ替わったのだ。それだけじゃない。
胸が軽い。身長が伸びた気がする。股間に『ナニ』かついている。
「まさか……」
俺は急いで一階に降りて、洗面所の鏡の前で自分の姿を確認した。
そして俺は叫んだ。
「男に戻ってるーーーー!!!!」
とりあえず前半はここまで。
ここから終わりに向かって進んでいく事になると思います。
誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。
評価などお願い致します。