第三章
「へーいろいろあるんだな。こんな世界にも。」
俺は端末に表示された食べ物のリストを見て呟いた。
「そりゃ。食べ物がまずいと、クレームの嵐だよ?」という、リオンは隣で屋台を見てどれを食べようかと真剣な顔で考えている。
そういう真剣なリオンの顔は、幼い少女だと思う。
まだ、幼さが残るその表情が俺は見ていられなかった。
いつか、この少女も死んでしまう。
俺が殺すのか、または別の人間に殺されるのか。
それは、誰にもわからない。
少女の死を目の前にして、俺は仕方ないと言えるだろうか。
俺は、出会ったばかりのその少女にそんなことを思った。
それは、彼女がどこか親しみやすいからなのかも知らない。
「おーい。朝日!何、ぼーっとしてるの?」
「あっ。ごめん。ちょっと考え事してた。」
すると、リオンは厳しい顔で「そんな隙があったら、殺されるよ。」と言った。
「ああ。わかってる。」俺は後頭部に手を置いてため息をついた。
「あんた、心配になってきた。さっさと死ぬんじゃないよ?」
「わかってる。」俺はそういってうつむいた。
「なに、不安そうな顔してるの。私が居る。だから、あんたは大丈夫。」リオンはそういって力強く笑った。
「ほんとに、たくましいな。いつか殺し合いになった時に負けないか心配になってきた。」
「でしょう?まあ、その時は負けないけどね。それより、なにか食べよう。腹が減っては戦はできないって言うでしょ?ね。」リオンはそういって、俺の腕を叩いた。
不器用な彼女なりに心配してくれたのだろう。
ほんとうに・・良い奴だ。
「そうだな。なにか食べよう。おれ、焼きそば食いたい。」
「焼きそばは・・・っと。そこのお店みたい。いこう。」リオンは俺の手を引いて、店の中に入っていった。
外見はいたって普通のお店で期待・・・できるようなものだもないと思っていたが、店の中は、予想外に綺麗だった。
センス良く並べられた机や椅子や装飾。
「いらっしゃいませ。」カウンターのNPCが迎えてくれた。
「あの。焼きそばって売ってますか?」
「はい。ありますよ。」NPCは笑顔で答えた。
愛想の良いNPCだ。
俺たちは、空いてる席に適当に腰をかけた。
「へー。すごいな。こんなものもで、神は作り出したというのか。」
「すごいねー。」
俺たちは周りを見回して言った。
「ほんとに、不自由はさせないから、安心して殺しあえってところだ。なんか、やだな。」
「仕方ないわ。それが、この世界の意味なんだから。」
「そうだな。」
その時、ちょうど焼きそばを先ほどのNPCが「どうぞ!」と焼きそばを持って来たので、俺たちは並んで食べ始めた。
同時刻。
「ついに始まったなー。まあ、私は見てるだけだけど。はー。朝日君はこれからどう頑張っていくのかな。楽しみ。」
神は、自分の部屋の椅子に腰を掛けていた。
ここから、ゲームの様子は全部見えるようになっている。
プレイヤーにも、部屋はどこにあるかは非公開になっている。
「リオンという友達を作って・・。後で、殺しあうことになる可能性だってあるのに。さあ、その時君はどうする?楽しみ。」
神は楽しそうに笑った。