帰省
帰省すべきかしないべきか、毎年この時期になると悩む。
都会での暮らしは華やかで、自由すぎて。
いつしか故郷を振り返る時間が減っていった。
しかし唐突に、帰りたくなった。
今の暮らしに不満がある訳でも、壁にぶち当たった訳でもないのに。
郷愁の念に駆られた訳じゃない。
ただ何となく、「地元の友人に会いたい」と思っただけ。
昔の友人が今、何をしているか気になった。
もしかしたら、新しい自分に繋いでくれるかもしれない。
温故知新ってやつさ。
……何か違うかな?
そんな訳で、帰省の準備。
荷造りしている途中で手が止まった。
ふと、思い出したから。
君の、手の温もりを。
そうか、実家に帰るということは……
君にも出くわさなくちゃいけないんだね。
大好きな人。
大好きだった、人。
帰省を試みる時は、いつもそう。
君を想い、帰るのを諦める。
今回も、また揺らいできてる。
今年こそは「帰ろう」って思ったのに。
君のせいじゃないって思いたいのに、心の何処かで君のことばかり責めている。
「私が帰れないのは君のせいだ」って、思い込んでる。
会いたいけど、会いたくないよ。
……ただの我が儘なんだけど。
もう、いっそ離れ離れでも良いのかな。
依存する位なら、もう干渉し合わない方が良いんだろ。
大っ嫌いで大好きな君へ。
会いたいけれど、もう二度と顔も見たくない。
部屋の片隅に放置された旅行鞄
私と、愛しかった君との写真
思い出の海で拾った貝殻
昔の思い出だけを残して、私は今も暑く気だるい部屋の中で寝転がっています。
聞こえるのは、扇風機の羽の音だけ。
そしていつでも、「帰省しない」を選んでしまう。