表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想剣客伝  作者: コウヤ
月の名医と蓬莱の姫
18/92

月の名医と蓬莱の姫 壱

 射命丸が号外としてばら撒いた謝罪記事は、幻想郷中をあっと驚かせた。


 人里は勿論のこと、郊外の竹林にも噂は伝わっていた。


 鬱蒼うっそうと生い茂る竹林の奥底に佇む広大な武家屋敷、永遠亭。


 多くのウサギ妖怪たちが家来として働き、幻想郷第一の名医としてその名も高き八意永琳やごころえいりんが、薬の調合の合間に鼻歌を口ずさみながら記事を流し読みしている。


「ふ~ふん、ふ~ふん、助けてふ~ふ~ん……あらまぁ、天狗に謝罪させるなんてトンデモナイ外来人のようね。道場を始めるということだけど、道場破りが来るかもしれないわよ? 剣客さん」


 新聞を折りたたんで永琳が背伸びをしていると、研究室の戸がノックされた。


「師匠~。姫様がお呼びですよ~」


「はいはい。今行くわ」


 永琳が戸を開けて廊下に出ると、彼女の弟子である鈴仙れいせん優曇華院うどんげいん・イナバが控えていた。


 清潔なブレザーにキュッと締めたネクタイが真面目な人柄を示している。

 鈴仙のトレードマークたる頭に載せたウサギの耳の形をした通信機は、彼女が人里に置き薬を届けに行く際に役に立っていた。


 永琳が屋敷の居間に行くと、永遠亭の主である少女が、出来のいい日本人形の如くチョコンと座布団に正座していた。事実、彼女は人形のように目鼻が整い、肌は雪のように白く、黒く長い髪はさながら雪原に墨を垂らしたようだ。


 その名も蓬莱山輝夜ほうらいさんかぐや。かの有名な輝夜姫その人である。


「姫様、お呼びですか?」


「ええ。確かに呼んだわ。今朝の天狗の新聞、もう読んだわね?」


「はい。今しがた目を通しました」


「ふふふ。面白そうな外来人じゃないの。いずれ此処にお呼びしたいものね」


「珍しいですね。あれほど求婚した男たちを弄んだ姫様が」


「あら心外。わらわはあの者たちの覚悟を試したに過ぎない。それに、この外来人は妾に婚約を求めるような俗物では無さそうだし、何よりも退屈しなさそうだもの。永琳、次に置き薬を届ける際、彼を永遠亭に招待しておいて。あるいは、向こうから来るかもしれないけれど……クスクス」


 輝夜は着物の袖で口元を隠し、子供っぽく笑った。


「確かに普通の外来人ではありません。天狗に謝罪させるなんて……」


「長生きしているとね、たまにああいう面白い人間が現れるのよ。竹取の翁然り、藤原の娘然り……永琳だって分かるでしょう?」


「はい」


「楽しみね。彼が永遠亭に来る日が……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ