プロローグ
神奈川県中学夏季硬式野球大会
決勝戦
横浜シニア 対 荏南シニア
『4番、ピッチャー、寺嶋くん ーーー』
オレは、9回表 2アウト・ランナーなし で打席に立った。
オレのチームは、全国ベスト4にもなったことがある名門・横浜シニアだ。
いつもなら県大会なんてすぐに勝つのに今日は1-0で負けている。
そして、オレは一本もヒットを打っていない。
むしろ一回もバットに当たってない。
こんな無名のチームに負けるのか…
そんなことを考えているうちに相手の投手が投球動作に入る。
ビシュッ
ストレートか…オレは打ちにいくと
その球は途中でカクンッと曲がった。
シュートだった。
ブンッ、ズバン!ストライーク
こいつの変化球はキレがすごく良い。
打者の手元で鋭く曲がるから打ちづらく、
誰一人としてヒットを打っていない。
そしてまた、投球動作に入る。
ビシュッ、ズバン! ストライーク
今度はストレートだった。
こいつのストレートは120km/h後半の打ちごろの球だ。
でも何故か打てない。全部打ち損なう。
オレは一度バッターボックスから出て、深呼吸をして、軽く素振りをし、再び入る。
目の前のあいつが振りかぶり、足を上げ、地面に付き、腕が出る。ボールが放たれた。
オレは全力で振った。
しかしボールはスルリとバットの右下を通りぬけ、外角低めいっぱいに決まった。
あいつの決め球ーーー スクリューだった。
ストライーク、バッターアウト。
ゲームセット。整列!
1-0で荏南シニアに勝ち。礼!
((あざした!!!!))
初めて格下のチームに負けた。それもノーヒットノーランで。みんな泣いている。
だけどオレは泣かずにただ、ボーっと空を見上げていた。
あれから9ヶ月が経ち、オレは高校生となった。
オレが入学した学校は、去年2年生と
1年生だけで県大会ベスト8までになった、
神奈川県立剣山高校だ。
オレは数々の名門校からスカウトが来た。
だけど全て断った。
何でかって?強いやつと勝負して勝ちたいからだ。
だから、オレはこの学校に3年間の全てを尽くす。
そう、絶対あいつに勝つためにーーーー