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Scene5 直接対決

 2勝目を挙げ、早くもオープンクラスに入ったインビジブルマンは、次走として有馬記念の週に阪神競馬場で開催されるラジオたんぱ杯2歳ステークス(GⅢ、芝2000m)に出走した。

 これまでの主戦騎手だった網走騎手は、関東の中山競馬場でのレースに騎乗することになったため、乗り代わりとなった。

 相生調教師は、当日阪神競馬場のレースに騎乗可能な騎手を調べた結果、逗子ずし騎手に依頼することにした。

 逗子騎手はデビュー5年目の騎手で、通算勝利数はここまで48勝。さらには今年24勝を挙げてブレイクし、今年は重賞にも何レースか騎乗した。

(ただし、まだ重賞に勝利したことはなかった。)

 相生調教師から連絡を受けた彼は喜んで騎乗を承諾し、早速インビジブルマンについて色々調べ始めた。


 レース当日、阪神競馬場に来た求次は、関係者エリアで武並と再会した。

「こんにちは、武並さん。」

「これはこれは、木野さん。今日はお互いの持ち馬が同じレースに出ますね。」

「そうですね。あの時セリで買ってきた馬が重賞で直接対決をするなんて、すごいことですね。」

「本当ですね。でも今日は負けませんよ。賞金の確実な上積みのために、朝日杯フューチュリティステークスを回避してここに来たんですから。」

 武並はこのレースに対する意気込みを語ってくれた。

 笑美子と可憐は彼らの会話を背後で聞いていた。

「お母さん。お父さん達、楽しそうだね。」

「そうね。レースを通じてこんな交流もできるのね。」

「でもレースでは敵同士なんだよね。」

「そうだけれど、こうやってしのぎを削りながら、色んな人達と知り合っていけたらいいわね。」

「うん!」

 彼女らはしばらくすると、武並を始めとするストライキンバックの陣営に入っていって会話に参加した。

 そしてみんなでレース前の和やかな雰囲気を楽しんでいた。

 それとは裏腹に、8頭立ての6枠6番に入ったインビジブルマンは、単勝倍率44.3倍の最低人気だった。

(ストライキンバックは1番人気から僅差の3番人気。)

 しかし求次や相生調教師、割出厩務員は、人気は関係ない。大事なのは結果だと言わんばかりに気合いを入れていた。


 やがて発走時間が近づいてきた。

「さあてと、いよいよだ。負けるもんか!絶対に勝つぞ!」

 さっきまで和やかに会話をしていた武並は、今度は目の色を変え、愛馬を見つめていた。

 ファンファーレが鳴ると、8頭の馬達は次々とゲートに入っていった。

(以下の文章で、『 』の中の文章は、アナウンサーによる実況です。)

『ゲートインは順調に進んでいます。奇数番の馬が入りまして、これから偶数番が入ります。』

『今4番のサンドストーム、それから6番のインビジブルマンが入りました。そして最後に8番のストライキンバックが入ります。』

『スタートしました。全馬きれいにそろいました。さあ何が行くのか?』

『どの馬も積極的に行こうとはしませんが…。押し出されるようにして1番のトランクトレインが先頭に立ちました。』

 多くの馬が並びながら走る中で、インビジブルマンに乗る逗子騎手は後方待機を選択した。

 先行した5頭は並走したまま1コーナーを曲がっていった。

『先頭は相変わらずトランクトレイン。その後を5番スキンヘッドランが走っています。』

『3番手にサンドストーム。』

『ストライキンバックは中段の外目、その後ろに6番のインビジブルマンがいます。』

 アナウンサーは一通りの馬の名前を読み上げると、また先頭集団に戻ってトランクトレインやスキンヘッドラン、サンドストームの様子に注目し出した。

 一方、後方にいたインビジブルマンは2コーナー付近で内にもぐりこみ、コーナーワークを利用して、少しずつ順位を上げていった。

(コーナーワーク:並走している馬がコーナーを走る時、内を走っている馬が前に行き、外を走っている馬が後ろに行くこと。)

「よし、ここで一旦ペースを落とせ。」

 鞍上の逗子騎手は向こう正面に入ると、そう指示を出した。

 元々気性のいいインビジブルマンは素直に従い、4番手を追走した。

「ストライキンバックはまだ後方か…。鞍上の坂江騎手は一体いつ仕掛けるんだろう…。」

 求次達から少し離れた場所では、武並が腕組みをしながらそうつぶやいていた。

 向こう正面では特に順位の変動もなく、レースは淡々と流れていた。

 3コーナーに差し掛かると、逗子騎手は再びコーナーワークを利用して少しずつ順位を上げる作戦に打って出た。

 一方、ストライキンバック鞍上の坂江騎手は、4コーナー手前でムチを入れ始め、一気にスパートをしてきた。

「よし、行けえ!」

 武並は組んでいた手をほどいて叫んだ。

『さあ、4コーナーで前との差がほとんどなくなってきた。』

『最後の直線に各馬入ります。先頭はトランクトレイン。2000メートルを果たして逃げ切れるか?』

『すぐ後ろにはスキンヘッドランとサンドストームがいる。外からはストライキンバックが懸命に走っている。』

 一方のインビジブルマンは直線で伸びあぐねていた。

「まずいな、このままでは。」

「馬群に沈むかもしれませんね。」

「せめて賞金がもらえる5着以内に入れればなあ…。」

「果たして入れるでしょうか…。」

 求次と相生調教師は厳しい表情で愛馬を見つめていた。

『スキンヘッドランが先頭に立った!トランクトレインは後退していく!』

『サンドストームは少し伸びが苦しいか!?』

『大外からはストライキンバック迫ってきた!迫ってきて、交わした!』

『先頭はストライキンバック!内ではスキンヘッドランが懸命に粘る!』

『ストライキンバック先頭!2番手はスキンヘッドラン!』

『ストライキンバックだ!ストライキンバック、ゴールイン!』

 1着入線はストライキンバック、その後にスキンヘッドランが入った。

 サンドストームは5着、逃げたトランクトレインは6着、直線伸びあぐねたインビジブルマンは7着になった。

「よおし!勝ったぞ!これで来年のクラシックに出られるだけの賞金が手に入った!」

 愛馬の重賞制覇に、武並を始めとするストライキンバックの関係者達はみんな大喜びをしていた。

 求次達は、その光景を少し離れたところから眺めていた。

「あーあ、やっぱり最低人気じゃ所詮しょせんこんなものかしらね。」

「重賞はレベルが高いってことよ。そんなに簡単に勝てるようなものではないわ。」

「だってお母さん。せっかく表彰式で全国放送のテレビに映りたかったのに。」

「気持ちは分からなくもないけれど、みんな馬を勝たせるために全力で努力しているんだから。それを忘れてはいけないわよ。」

「はーい…。」

 見せ場も作れずに惨敗したことを残念がる可憐に向かって、笑美子はいましめの言葉をかけた。

「先生、この馬じゃクラシックはきついでしょうか?」

「確かにこの結果を見る限りでは厳しいかもしれないな。」

「それでは、これからどのレースに出していきましょうか?」

「そうだな…。ちょっと木野さんにでも相談してみようか。」

 割出厩務員と相生調教師は2人で相談した後、求次のところにやってきた。

「そうですね。確かに大きなレースにも出たいですが、うちにとっては賞金を稼いで経営を安定させることの方が大事ですから、勝てそうなオープン特別に出すのがいいと思っています。」

 求次は自分の置かれた状況を踏まえた上で提案をした。

 その結果、相生調教師と割出厩務員は、年明けの1月に行われるオープン特別の若駒ステークス(京都、芝2000m)を提案した。

「いいでしょう。本賞金800万円だから斤量が重くなることもないし、それで行きましょう。」

 求次は迷うことなく承諾をした。

 もちろん、心の中ではストライキンバックのように大きなレースを勝って、自分も武並のような喜びを体験したいという思いもあった。

 しかし、600万円で買ってきた格安馬である以上、そこは割り切ることにした。


 2歳12月の時点におけるインビジブルマンの成績

 5戦2勝

 本賞金:800万円

 総賞金:1600万円

 クラス:オープン


 名前の由来コーナー その4

・逗子… 日本全国に存在する鉄道の駅名を英文字表記にしてアルファベット順に並べた場合、一番最後に来ます。(スペルはZUSHI)


・トランクトレイン(Trunk Train)(オス)… 「トランク」は競走馬育成ゲームで「トランク牧場」としてプレイしている時に付けている冠名。「トレイン」は列車です。僕は鉄道に関する名前をよくつけるので、これを採用しました。ちなみにゲームでトランク牧場を開設して最初につけた馬名です。


・スキンヘッドラン(Skinhead Run)(オス)… 「Oi-Skall Mates」の「Skinhead Runnin’」という曲から取りました。この曲は千葉ロッテマリーンズが2009年まで主要チャンステーマとして使っていました。


・坂江… 名古屋の「栄」から取りました。「トランクバーク号物語 ~牧場を救った競走馬~」に登場したキャラクターですが、登場シーンが少なかったので、改めて説明すると共に、ここで出演させることにしました。

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