Scene4 競走馬デビュー
栗東の相生厩舎に所属することになったインビジブルマンは、割出厩務員の指導の下、毎週調教に励んだ。
そして半年後の7月に、新馬戦(阪神、芝1400m)でデビューの時を迎えた。
当日、求次と可憐は名古屋駅から新幹線に乗り、電車を乗り継いで阪神競馬場に到着した(笑美子は仕事。馬の世話は求次の知り合いの人に頼んだ。)。
競馬場では相生調教師が待っていた。
「おはようございます。木野さん。」
「おはようございます、先生。今日は自分の娘を競馬場に連れてきました。」
「初めまして。木野可憐と申しまーす!(申しまーすの「ま」にアクセントを置いて言っています。)よろしくお願いしまーす!(さっきと同じ)」
「こちらこそよろしく。元気な娘さんですね。」
「はーい!元気が取り得でーす!」(今度は「で」。)
相生調教師と初対面になる可憐は、茶目っ気たっぷりにあいさつをした。
(おいおい。初対面でこれかよ…。)
求次は口にこそ出さないものの、内心では少し冷や汗をかいていた。
「えっと…、ところで先生。インビジブルマンですが、7頭立ての6番人気とは意外に低い評価ですね。」
「まあそうなんですが、まだ最初ですからねえ。いきなり勝利するよりも、まずはレースに慣れてほしいという思いの方が強いです。ですから気楽に構えていますよ。」
「そうなんですか。分かりました。それで、騎乗する網走騎手には何か指示を出しましたか?」
「何も出していません。関西No.1の騎手ですし、今回は全てお任せしました。」
「なるほど。本当に気楽ですね。」
「まあ、レースの度に緊張していたら体が持ちませんからねえ。」
相生調教師は、人気や結果は二の次として考えているようだった。
6枠6番に入ったインビジブルマンは、レースがスタートすると、外を回りながら先頭集団を追走した。
しかし、4コーナー途中でスタミナ切れになったのか徐々に後退し、最後の直線に入ると最後方になってしまった。
結局インビジブルマンはいいところなく、そのまま7着とシンガリ負けをしてしまった。
しかし、陣営には全く悲壮感はなく、鞍上の網走騎手も
「今日はレースの雰囲気を感じ取ってくれただけで、とりあえずは十分と考えています。」
と答えていた。
ただ、ちょっと調子が落ち気味のようなので、少し放牧に出した方が良さそうだとも付け加えてくれた。
「それじゃ、木野さん。お宅の牧場に放牧に出しましょうか?」
網走騎手のアドバイスを受けた相生調教師は、求次に向けて打診した。
「そうですね。そうしましょうか。」
「じゃあ、厩舎には戻さずに、このまま馬運車でそちらの方にお送りします。」
「分かりました。お願いします。」
「私からも、お願いしまーす!」
求次と可憐は喜んで引き受けた。
木野牧場で1ヶ月の休養をしたインビジブルマンは、8月に再び厩舎に戻ってきた。
相生調教師はデビュー前は割出厩務員に対し、勝負根性を伸ばすために併せ馬を多用していた。
しかしデビューしてからは一転して単走に切り替え、じっくりと仕上げていく調教を施していた。
9月。相生調教師はインビジブルマンについて割出厩務員に確認を取った。
「割出君、仕上がり具合はどうだ?」
「調子は上がってきています。いいレースができそうな雰囲気ですよ。」
「それなら今週の未勝利戦に登録することにしようと思うのだが。」
「いいですよ。それなら、馬主の木野さんにそのことを伝えようと思います。」
「分かった。よろしく頼む。」
「はいっ!」
割出厩務員は会話を終えると早速電話をかけ、求次と連絡を取った。
レース当日、2歳未勝利戦(阪神、芝1400m)は第1レースで朝10時発走だったため、求次は朝5時に起きて名古屋駅に向かい、6時20分に名古屋始発の新幹線に乗って阪神競馬場に向かった。
(可憐は牧場でトランクバークとこの春に生まれたばかりの仔馬、トランククラフトの世話のために来られず、笑美子はパートで働いているスーパーがこの日は特売日で、人手が足りないからという理由で急きょ借り出されたため、来られなかった。)
インビジブルマンは11頭立ての4枠4番に入り、単勝2.6倍の1番人気に指示された。
「いやー、やっぱり1番人気は見てて気分いいもんだなあ。」
競馬場に到着した求次は、モニターの映像を見てうれしくなった。
彼はいつもどおりに相生調教師と会い、色々な話をした。
(割出厩務員はインビジブルマンの世話をしていた。)
レースがスタートすると、インビジブルマンは先頭集団の後ろをマイペースで追走した。
4コーナーでは集団に割って入っていき、最後の直線入り口で網走騎手は一気にスパートをかけた。
最後の直線ではアナウンサーが次のように解説をしていた。
「先頭は2番のトランクホープ!しかし、外からインビジブルマンが並びかける!」
「インビジブルマンが先頭に立った!トランクホープはちょっと伸びが苦しいか!」
「大外からは6番のオークランドシティが追いかける!」
「残り200を切った!インビジブルマン完全に先頭!このまま逃げ切ってしまうのか!?」
「大外からはオークランドシティが懸命に追う!オークランドシティ差を詰める!」
「インビジブルマンか?オークランドシティか?2頭の争いだ!」
「内、インビジブルマン!外オークランドシティ!2頭並ぶか?並んでゴールイーーン!!」
「わずかにインビジブルマンが体制有利でしょうか!?」
レースはインビジブルマンが追い込んできたオークランドシティをクビ差振り切って1着になった。
「よし!2戦目で勝ちあがった!」
「網走君、ナイス騎乗だ。」
求次はガッツポーズをしながら、相生調教師は腕組みをしたまま喜びを表現した。
ウィナーズサークルでの記念撮影が終わると、求次は携帯電話を取り出し、可憐に連絡を取った。
「もしもし。」
『あっ、お父さん。レースどうだった?』
「勝ったぞ!ちょっとゴール前で際どくなったが、見事に初勝利だ。」
『本当!?わーい!でも私も見に行きたかったなあ。お留守番している時に勝っちゃうなんて。』
「そんなこともあるさ。とにかく600万円で買ってきた割には、結構走ってくれるかもしれんぞ。」
『そうなるといいわね。それで、お父さんはこの後どうするの?』
「今日、相生先生や厩務員の人と一緒に競馬場で、食事をしながら今後のことについて色々話し合おうと思う。それが済んだらおみやげでも勝って今日の夕食の時までには帰ろうと思う。」
『分かった。おみやげ楽しみにしているわね。』
可憐は勝ちレースを見られなかったことを残念がりながらも、素直に喜んでくれた。
その日の夜は、笑美子を加えた3人で広島風お好み焼きを作りながらインビジブルマンの初勝利を祝っていた。
次に中4週で出走したかえで賞(京都、芝1400m)では5着に敗れた後、陣営はさらに中4週で11月に行われるもちの木賞(京都、ダート1400m)に出走させた。
もちの木賞は8頭立てで、インビジブルマンは1枠1番に入った。(単勝は2.4倍で1番人気)
4戦連続で手綱を取った網走騎手は好スタートを切るとすぐに先頭に立ち、逃げるような形で走り続けた。
3コーナーで早めにムチを入れて仕掛けると、外に降られることもなく内ラチ沿いを走り続け、コーナーワークを利用して後続との差をどんどん広げていった。
「残り200!インビジブルマン先頭!2番手はオークランドシティとサンドストーム!」
「しかしインビジブルマンは完全に抜け出している!このまま押し切りそうだ!」
「網走騎手はもう追うのをやめている!インビジブルマン差をつける!差をつけてゴールイン!」
「圧勝です!2着にはオークランドシティ!3着にはサンドストームが入りました。」
結果はインビジブルマンが2着に4馬身差をつける圧勝だった。
「やったーーー!やっとうちの馬が勝ったレースを見ることができたーーー!」
可憐はやっと勝ちレースを直接見ることができたこともあって、大喜びだった。
「よし。これでクラシックにつながるレースに出走できそうだな。」
早くも2勝目を挙げたインビジブルマンを見ながら、求次は先のことを考え始めた。
相生調教師や割出厩務員も、インビジブルマンのオープン入りを喜びながら、クラシックレースへの挑戦や、厩舎にとっては久々となる重賞制覇に向けて意気込んだ。
2歳11月の時点におけるインビジブルマンの成績
4戦2勝
本賞金:800万円
総賞金:1600万円
クラス:オープン
名前の由来コーナー その3
・網走… 日本全国に存在する鉄道の駅名を英文字表記にしてアルファベット順に並べた場合、一番最初に来ます。(スペルはABASHIRI)
・トランククラフト(Trunk Craft)(オス)… 「トランクバーク号物語」に答えが書いてあります。途中まで読めば分かります。
・トランクホープ(Trunk Hope)(オス)… 「トランク」は冠名(トランクバークに由来)、「ホープ」は希望という意味です。
・オークランドシティ(Auckland City)(オス)… サッカーのクラブワールドカップに出場したことのあるニュージーランドのサッカークラブの名前です。なお、「シチー」の冠名で有名な友駿ホースクラブとは無関係です。
・サンドストーム(Sand Storm)(メス)… 「Darude」が発表した「Sandstorm」というインストゥメンタル曲に由来しています。阪神の金本知憲選手の入場曲にもなっています。
※僕はゲームでは「キノ牧場」と「トランク牧場」をパラレルでやりました。
その際、キノ牧場でプレイした時には馬名に冠名なし、トランク牧場でプレイした時には「トランク」という冠名をつけました。