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Scene3 栗東へ

 セリで求次に落札されたインビジブルマンは、木野牧場で1ヶ月を過ごした後、育成施設へと移って行った。

 求次はトランクバークの世話をするかたわら、頻繁ひんぱんに育成施設に連絡を取り、インビジブルマンの近況を確認し続けた。

 その結果、とても落ち着いた馬であること、やや短距離向きであること、勝負根性がありそうなことが分かった。


 翌年の1月、インビジブルマンは2歳になった。

 ある日の夜、求次は預託する厩舎きゅうしゃを決めるために、牧場の事務室にあるパソコンや競馬に関する本で色々な情報を集めていた。

 すると「求次。」という声と共に、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい、どうぞ。」

 求次がそう言うとドアが開き、笑美子が「失礼します。」と言いながら入ってきた。

「どうしたんだ。」

「まだ考え事をしているんですか?」

「ああ。どの厩舎にしようかなかなか決まらなくてな。」

「トランクバークの時と同様に、美浦の星厩舎にすれば簡単ではないですか?あそこなら喜んで預かってくれますよ。」

「最初はそうしようと思っていたんだが、星君のところにはトランクバークの仔を預けようと思っている。だから今回は別の厩舎にしたいんだ。新しい人脈もほしいしな。」

「それで、候補は絞れましたか?」

「いくつか候補はある。だが人気厩舎では定員オーバーで入れないこともあるから、絞り過ぎてもいけないし、そこが難しいところだな。」

「そうなんですね。でも、さっき可憐がお風呂を出ましたので、入っていないのはあなただけですよ。早めに入ってくださいね。」

「分かった。じゃあ、今日はここまでにして、お風呂に入ることにしよう。」

 求次はそう言うと、パソコンをシャットダウンし、資料を棚にしまい始めた。

 笑美子はそれを見ると、「お願いしますね。」と言って、事務室を後にしていった。


 1週間後、インビジブルマンは栗東の相生あいおい厩舎に所属することになった。

 相生厩舎は重賞を通算2勝しており、オープンクラスの馬を何頭か輩出したことのある、中堅クラスの厩舎だった。

 調教師である相生 はじめという人は、求次よりも年上の55歳で(求次は46歳)、6~7人の厩務員を従えていた。


 インビジブルマンが入厩する日、求次は自ら馬運車を運転して栗東のトレーニングセンターまで出向いた。

 センターの入り口では、連絡を受けた相生調教師が厩務員の一人を連れて待っていた。

 求次は馬運車を止めると早速車から降り、2人と対面した。

「はじめまして。木野求次と申します。」

「調教師の相生初と申します。」

「これからインビジブルマンの調教を担当することになります、割出わりだしつばさです。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 3人は自己紹介を済ませると、早速トランクに行き、インビジブルマンを連れて降りてきた。

 相生調教師と割出厩務員はこの馬の特徴を調べるために、早速馬体のチェックを始めた。

 一通りのチェックが終わると、相生調教師が笑みを浮かべながら求次のところに歩み寄ってきた。

「それでは、木野さん。預からせていただきます。名前はこのままでいいですか?」

「はい、このままでOKです。よろしくお願いします。」

「こちらこそ。」

 求次と相生調教師はお互いお辞儀をしながら会話を交わした。

「あ、そうそう。木野さん、預かる前に一つ確認をお願いしてもいいですか?」

 相生調教師が何かひらめいたように問いかけた。

「何ですか?相生先生。」

「この馬を放牧する時には、お宅の牧場に戻しますか?それとも育成施設に預けますか?」

「うちの牧場で放牧させます。その時はぜひ連絡をしてください。」

「分かりました。それでは、これからよろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 相生調教師と求次は再びお辞儀をした。

「僕の方からも、よろしくお願いします。これからインビジブルマンが悔いの無い競走馬生活を送れるように、精一杯努力をしていきます。」

 割出厩務員もお辞儀をしながら言った。

「こちらからもよろしくお願いします。」

 求次は彼の方を向くと、再びお辞儀をして言った。

 この日から、インビジブルマンの栗東における長い長い競走馬生活が始まった。


 名前の由来コーナー その2

・相生、割出… 日本全国に存在する鉄道の駅名を五十音順に並べた場合、相生駅(2ヶ所あります)と相老駅(読みはすべて「あいおいえき」)が一番最初に、割出駅が一番最後に来ます。


・初… 「相生」を選んだ理由にちなんでこの名前にしました。


・翼… 少年マガジンで連載されていた「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」から取りました。


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