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Scene25 走り終えて

 野辺山さんと割出君の2人は、インビジブルマンがセントウルSを走り終えた後、競馬場で一緒に馬の世話をしていた。

「とうとう終わってしまったわね。」

「そうだね。でも怪我と闘いながらよく走ってくれたよ。重賞制覇も達成できたし、この馬に出会えてよかったよ。」

「私も。元はと言えばこの馬、600万円で落札されたのよね。よく2億も稼いでくれたわね。」

「やっぱり、オーナーさんに馬を見る目があったからだろうな。」

「でしょうね。」

 彼らはインビジブルマンの前で、色々な思い出話をしていた。


 一方、相生初調教師と求次の2人は、関係者エリアで会話をしていた。

「木野さん。インビジブルマン、ついに現役生活をまっとうしましたね。」

「はい。屈腱炎を抱えながらよく頑張ってくれました。割出君を始めとする関係者の人達のおかげです。」

「どういたしまして。でもレースの結果は残念でしたね。」

「インビジブルマン15着、トランククラフト16着では確かにそうでしょうね。でも結果は二の次ですから、こちらとしては気にしてないですよ。」

「こちらも今は気にしてないです。最もレース直後はさすがにちょっと残念でしたけれど。」

「まあ、最後に勝って終わるってことはなかなかできませんからねえ。でも重賞勝ち馬という勲章が色あせるわけではないですから。」

「そうですよね。」

 2人は会話を一区切りさせると、一緒にインビジブルマンのいる場所に移動していった。

「ところで木野さん。ちょっと気になったことがあるのですが。」

 相生調教師は歩きながら話しかけた。

「何ですか?」

「できることなら、またうちの厩舎に馬を預けてほしいのですが、木野さんの牧場に0歳馬か1歳馬はいますか?」

「現時点では、トランクバークが4頭目の仔を身ごもっている状態で、0歳馬、1歳馬はいないですね。でも睦夫さんが「ナウアンドゼン」という1歳のオス馬を引き取ると言っていますので、その馬をそちらに預けたいと思っています。」

「それはありがとうございます。しかし、引き取るってどういうことですか?」

「実は、以前まで睦夫さんが働いていた牧場が閉鎖になりまして、管理していた馬を手放すことになったんです。それでまず1頭を引き取ることになったんです。」

「まず1頭ということは、まだ引き取るのですか?」

「そうなるかもしれませんね。これから睦夫さんが再び北海道へ飛んで、まだ牧場に残されている0歳馬を見て回る予定ですので。さらに睦夫さんは現地で働く場所を失った人を、うちの乗馬施設の従業員として若干名採用することも考えているそうです。」

「そうですか。それにしても閉鎖とは残念ですね。」

「こちらとしても残念です。でも、うちの牧場も、もしトランクバークが走ってくれなかったら閉鎖になっていたはずなので、他人事ではないですね。次は我が身として考えています。」

「同感です。厩舎も管理した馬が走らなければ、従業員に給与を支払えなくなりますし、最悪の場合閉鎖もありえますからね。」

 彼らが会話をしていると、インビジブルマンと野辺山さんと割出君の姿が見えてきた。

「インビジブルマン、本当にご苦労様。まずはうちの牧場でゆっくり休んでくれ。」

 求次は少し離れたところで立ち止まり、少し小さな声で語りかけた。

「すぐに乗馬にはしないんですか?」

「脚のこともありますし、疲労もたまっているでしょうから、まずはその疲れを取ってからにしたいと思っています。それからでも遅くはないでしょう。」

「そうですか。分かりました。」

 彼らは割出君、野辺山さんと合流すると、インビジブルマンを馬運車に乗せた。

 そして栗東に向かって出発していく馬運車を、彼らは優しい表情で見送った。


 求次はインビジブルマンを見送った後、今度は星調教師と合流した。

「木野さん、トランククラフトのことなんですが、ちょっとよろしいですか?」

「はい。何ですか?」

 求次は一瞬何があったんだろうと思い、少し不安げに問いかけた。

「鞍上の久矢騎手の話なんですが、トランククラフト、どうもレースを怖がっているようなんですよ。どうやら札幌記念で競争中止になった時のことがトラウマになっているようです。」

「トラウマですか…。それは困りましたね…。」

「はい。厩舎では弟や妹のいい見本になろうと張り切っていたんですが…。このままではそれを克服しない限りレースには出せませんね。」

「うーん…。まあ、レースであれだけの大怪我をしたわけですから、気持ちは分からなくもないのですが、それにしても頭の痛い問題ですね。」

「どうしましょう。お宅の牧場ではすでに乗馬施設も完成しているわけですし、それにトランククラフトはすでに重賞タイトルを持っているわけですから、ここを引き際にしてもいいと思うのですが…。」

「そうですねえ…。まずは笑美子や睦夫さん、それに可憐に相談してみます。それからでも遅くはないと思いますが、よろしいでしょうか?」

「分かりました。ではトランククラフトは一旦美浦に戻しますか?それともお宅の牧場に放牧させますか?」

「まずはうちで放牧させてみます。仮に引退になればそのまま牧場に置いておきますし、現役続行が決まれば美浦に送ることにします。それでよろしいでしょうか?

「分かりました。では今から馬運車に乗せに行きますので、私は失礼しますが、よろしいですか?」

「はい。わざわざありがとうございます。」

「こちらこそ。」

 星調教師はお辞儀をすると、トランククラフトと調教助手の村重君のところに向かっていった。

 一方の求次は、家族のいる場所に向かい、星調教師に言われたことを打ち明けた。

 そして話し合いの結果、トランククラフトの引退が決まった。

 結果、一度に2頭の馬が引退してしまうことになった。

 しかし、すでにマイロングロードが実績を残していることもあり、悲壮感はなかった。

 さらにはサンフラワーが間もなくデビューを控えており、ナウアンドゼンが来年栗東の相生厩舎からデビューすることが内定したため、これらの馬への期待に胸を膨らませていた。



 インビジブルマン号 全成績


2歳

7月新馬  阪神芝1400m 7着 (7頭立て6番人気)


9月未勝利阪神芝1400m 1着 (11頭立て1番人気)


10月かえで賞京都芝1400m 7着 (14頭立て3番人気)


11月もちの木賞京都ダ1400m 1着 (8頭立て1番人気)


12月ラジオたんぱ杯2歳S(GⅢ)阪神芝2000m 7着 (8頭立て7番人気)


3歳

1月若駒S京都芝2000m 3着 (16頭立て4番人気)


4月若草S阪神芝2200m 6着 (11頭立て4番人気)


(屈腱炎発症)


4歳

1月1000万下京都ダ1200m 4着 (13頭立て2番人気)


2月1000万下京都芝1200m 1着 (14頭立て1番人気)


3月武庫川S阪神芝1600m 1着 (15頭立て1番人気)


5月新潟大賞典(GⅢ)新潟芝2000m 13着 (15頭立て5番人気)


7月ストークS阪神芝1600m 5着 (12頭立て2番人気)


8月阿蘇S小倉ダ1700m 2着 (12頭立て1番人気)


11月京洛S京都芝1200m 7着 (18頭立て1番人気)


12月六甲アイランドS阪神芝1200m 1着 (16頭立て1番人気)


5歳

1月寿S京都芝1800m 1着 (14頭立て1番人気)


3月中京記念(GⅢ)中京芝2000m 2着 (10頭立て4番人気)


4月福島民放杯福島芝1200m 4着 (14頭立て3番人気)


7月プロキオンS(GⅢ)阪神ダ1400m 10着 (15頭立て5番人気)


(屈腱炎発症)


11月トパーズS京都ダ1800m 11着 (14頭立て6番人気)


12月ディセンバーS中山芝1800m 6着 (11頭立て4番人気)


6歳

3月阪急杯(GⅢ)阪神芝1200m 6着 (13頭立て4番人気)


4月マーチS(GⅢ)中山ダ1800m 3着 (14頭立て2番人気)


6月けやきS東京ダ1400m 5着 (14頭立て5番人気)


7月大沼S函館ダ1700m 12着 (13頭立て4番人気)


8月阿蘇S小倉ダ1700m 9着 (15頭立て4番人気)


10月福島民友C福島芝1200m 10着 (14頭立て4番人気)


11月トパーズS京都ダ1800m 7着 (11頭立て3番人気)


7歳

1月京都金杯(GⅢ)京都芝1600m 1着 (10頭立て5番人気)


2月根岸S(GⅢ)東京ダ1400m 15着 (15頭立て8番人気)


4月福島民放杯福島芝1200m 5着 (14頭立て4番人気)


7月バーデンバーデンC福島芝1200m 1着 (16頭立て7番人気)


9月セントウルS(GⅢ)阪神芝1200m 15着 (16頭立て6番人気)


 最終成績

 33戦8勝

 本賞金:8300万円

 総賞金:2億170万円


(次回が最終回です。)


 名前の由来コーナー その19


・ナウアンドゼン(Now And Then)(オス)… 意味は「時々」です。言葉の響きが良かったので馬名として使うことにしました。なお、ゲームにおいてこの馬は(作品掲載時点において)デビュー前なので、これからどういう成績を残すのかは読者の想像に任せることにします。


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