表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

Scene20 もっと速く!

 雨が少しずつ小降りになる中、京都金杯がいよいよ発走した。

 レースは4番のチェリーブロッサムがいきなり出遅れ、場内にはどよめきが起こった。

 一方で、好スタートを切った5番のインビジブルマンは一瞬先頭に立った後、少し抑え、2~3番手につけた。

 先頭に立ったのは2番のファンタジーパワーで、ハナに立つと後続との差を少しずつ広げていった。

 一方のイントゥザバトルは、すぐに後方に控え、内にもぐりこんだ。

「イントゥザバトルは抑えてきたか。意外だな。」

「ゼッケン8番で外枠の方ですし、内につけたかったんでしょう。」

「6番のブレーヴストーリーは中段ですね。この後どうするんでしょうか?」

「分からん。あの馬は変幻自在だからな。とにかく惑わされないことが第一だ。」

 求次と割出厩務員はレースを見ながら気になる馬について話し合った。

 先頭はファンタジーパワー。リードは2馬身から3馬身だった。

 2番手には7番のトランクゼンリョク。インビジブルマンはそのすぐ後につけていた。

 さらにすぐ後ろには1番のマシーンヴォイス。

 ブレーヴストーリーは9番トランクエリーゼと並んで5~6番手辺り。

 イントゥザバトルは後方から2、3番手。最後方からはチェリーブロッサムという展開になった。

 先頭からシンガリまでは12~3馬身程度となり、やや縦長になった。

 先頭のファンタジーパワーは大逃げをするわけでもなく、一定のリードを保ちながら内回りコースとの分岐点を通過し、外回りの3コーナーに入っていった。

 続いてトランクゼンリョク、インビジブルマンが続々とコーナーに入っていった。

「ペースは不良馬場の割にはまあまあ早いかな。」

「そうですね。ちょっと早いかもしれませんね。」

「このままだと先行馬が不利になるかもしれんな。」

「インビジブルマンに乗っている逗子騎手は気付いているんでしょうか?」

「どうだろう?ただ末脚はブレーヴストーリーやイントゥザバトルの方が上だから、その2頭より後ろに行くわけにはいかないしな…。」

「言われてみれば、確かにそうですね。」

 相生調教師と割出厩務員は他馬を気にしながらも、じっとインビジブルマンの動きを見ながら話をしていた。

 そのブレーヴストーリーは相変わらず中段のまま、イントゥザバトルは後方の内馬場を走りながらじっと脚をためていた。

 4番手を走っているマシーンヴォイス(鞍上は網走騎手)は、最内でインビジブルマンの半馬身程度後ろを走り続けていた。

 まるでインビジブルマンを内に入れないようにしているようだった。

 さらにすぐ後ろにはブレーヴストーリーが走っていて、じっと前に出る機会をうかがっていた。

 しかし正面にはインビジブルマン、内にはマシーンヴォイス、外にはトランクエリーゼがいて3方を囲まれているため、現時点では出るに出られない状態だった。

 いよいよ4コーナー。ファンタジーパワーとトランクゼンリョクとの差は少しずつ縮まり始めた。

 どうやらファンタジーパワーがバテ始めたようだ。

「よし、今だ!行け!」

 逗子騎手はこの時を狙っていたかのようにムチを振るい始め、一気に仕掛けに入った。

 インビジブルマンと逗子騎手はトランクゼンリョクの外側に並びかけ、2番手まで順位を上げた。

「少しスパートが早くないかな?逗子騎手。」

「でも雨で馬場が良くないから、早めの方がいいんじゃないかしら。」

「確かに今日の馬場なら早め先頭が良さそうじゃの。」

「とにかく行けえーーっ!透明人間!」

 求次、笑美子、睦夫さん、可憐も言葉を交わしながら懸命にレースを見守った。

 いよいよ最後の直線。インビジブルマンはトランクゼンリョクを一気に抜き去ると、ファンタジーパワーも交わし、先頭に踊り出た。

 ファンタジーパワーはその後少しずつ後退して行き、次第に勝負から脱落していった。

 トランクゼンリョクはインビジブルマンに交わされた後も懸命に粘り続けていた。

 後ろではやっと馬群を抜け出すことができたブレーヴストーリーが大外から追い上げを開始していた。

 一方、内につけているイントゥザバトルは後退してきたファンタジーパワーが壁になって、スパートが1秒程遅れた。

 しかし素早くファンタジーパワー交わすと再び内に入り、比較的馬場の良い内ラチ沿いいっぱいを走りながら追い上げてきた。

 出遅れたチェリーブロッサムは後方のまま外に持ち出し、最後の直線にかける作戦に打って出た。

 しかし、出遅れた上に距離のロスもあったため、とても届きそうにない状態だった。

 道中4番手を走っていたマシーンヴォイスは、ファンタジーパワーとトランクゼンリョクこそ交わしたものの、イントゥザバトルとブレーヴストーリーに交わされ、結局4番手を維持する形になっていた。

「このまま突っ走れ!重賞制覇まであと300だぞ!」

 インビジブルマン鞍上の逗子騎手は懸命にムチを打ちながら逃げ切りに打って出た。

 2番手まで上がってきたブレーヴストーリーとの差は、この時3馬身以上にまで開いた。

「よし!このまま行けえっ!」

「頑張って!お願いっ!」

「もう少しの辛抱じゃっ!」

「早くゴールインしてえっ!」

 求次、笑美子、睦夫さん、可憐は懸命に叫んだ。

 残りあと200m。インビジブルマンは3~4馬身のリードを保っていた。

 それでも逗子騎手は懸命にムチを振るい続けた。

「まだだ!まだこのリードでは逃げ切れない!もっと速く!もっと速く走り抜け!」

 普段ならインビジブルマンに屈腱炎を発症させないように気をつけている彼でも、この時ばかりは発症を覚悟の上で追い続けた。

 後ろには大外からブレーヴストーリー、内からイントゥザバトルが不良馬場の中、懸命に追い込んでいた。

 残り150m。先頭はインビジブルマン。もはやセーフティーリードを取ったか!?

 そう思えた矢先、イントゥザバトルがさらに加速し、内からぐんぐん迫ってきた。

 一方、外にいるブレーヴストーリーは少し伸びが鈍く、勝つのは厳しい状態になった。

 残り100m。リードは2馬身に縮まった。

「やっぱり来たか、イントゥザバトル!」

「頼む!粘りきれ!」

 相生調教師と割出厩務員が大声で叫んだ。

「あと少しだ!頑張ってくれ!」

 逗子騎手はまだムチを振るい続けていた。

 残り50m。リードは1馬身に縮まった。もはや先頭争いは2頭にしぼられた。

 インビジブルマンか?イントゥザバトルか?

 悲願の重賞初制覇か?シルバーコレクター返上か?

 インビジブルマン逃げる!イントゥザバトル迫る!

 場内からは大歓声がこだました。その中で2頭は並ぶようにしてゴール板を駆け抜けていった。

 勝ったのは…!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ