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Scene18 逆転の発想

 休養中に再び走る気力を取り戻したインビジブルマンは、9月の末に再び相生厩舎に戻ってきた。

 そして割出厩務員の調教によって調子を上げ、10月の福島民友カップ(OP、福島、芝1200m)に出走した。

 当日、相生厩舎からは相生初調教師と割出翼厩務員が駆けつけたが、木野家から駆けつけたのは求次一人だった。

(笑美子は仕事、睦夫さんはトランクバーク、トランククラフト(故障中)、マイロングロード(休養中、現在2勝)の世話、可憐は勝てないと予想して出かけてしまったため、来なかった。)

 14頭立ての6枠9番に入ったインビジブルマンは、スタートすると少し控えて3番手集団に入った。

 レースはそのまま淡々と進み、鞍上の逗子 一弥かずや騎手は4コーナーで外に持ち出し、スパートをかけた。

 しかし、残り200mを切ってから逗子騎手の意図に反してどんどん後退していき、結局10着になってしまった。

 レース終了後、相生調教師は逗子騎手と念入りに話し合いをした。

「一弥君。最後の直線についてなんだが、何か故障でもあったのか?」

「いえ、特に故障が発生したわけではないです。」

「それにしては結構急激に失速してしまったな。」

「多分、距離が短かったために、ちょっとドタバタした展開になって馬がペースを乱したせいだと思っています。」

「そうか。それなら今度はもう少し距離を伸ばした方が良さそうだな。」

「はい、そうですね。」

 逗子騎手からの話を受けた相生調教師は、割出騎手や求次にそのことを伝えた。

 そしてそれを踏まえた上で調教をしていくことになった。


 インビジブルマンの次走は11月のトパーズステークス(OP、京都、ダート1800m)に決まった。

 レースはハンデ戦で、11頭立ての6枠7番に入ったインビジブルマンの斤量は51kgだった。

 トップハンデはGⅢを2勝しているダンシングヒロインで、57kg(牡馬で言えば59kgに相当)だった。

 レースはトランクエリーゼ(斤量49kg)が軽ハンデを活かして先頭に立った。

 2番手にはファンタジーパワー(斤量52kg)がつけ、インビジブルマンが3番手を追走した。

 人気のダンシングヒロインは5番手、それをマークするようにサンドストーム(斤量53kg)、オークランドシティ(斤量54kg)が続いた。

 人気の一角であるリヴィンラビダロカ(2番人気、斤量57kg)、ブレーヴストーリー(3番人気、斤量56kg)は後ろから行ったため、場内からは少しざわめきが起こった。

 インビジブルマンは向こう正面でファンタジーパワーに並びかけると、そのまま3コーナーに入っていった。

 そして4コーナーで仕掛けて単独2番手におどり出ると、最後の直線に入ってすぐにトランクエリーゼを交わして先頭に立った。

「よし、そのまま行け!粘りきれ!」

 勝利に飢えていた求次は、ありったけの声を絞り出すようにして叫んだ。

「少し仕掛けが早かったかもしれませんね。」

「かもしれないな。」

 割出厩務員と相生調教師は興奮する求次の横で、少し渋い表情を浮かべた。

 インビジブルマンは残り150mまで先頭で粘り続けたものの、そこから徐々に失速していった。

 そして残り100mを切ってからは次々と後続馬に抜かれていった。

「んーーー、ダメか!?」

 求次は両手を後頭部に置きながら顔をしかめた。

 インビジブルマンを交わした馬達はゴール前で一斉に並び、1着から4着までがタイム差0.1秒での決着となる大混戦になった。

 レースは後方から一気に追い込んだブレーヴストーリーがダンシングヒロインを首の上げ下げでハナ差交わして1着となり、ダンシングヒロインはトップハンデに泣かされる形になった。

 一方のインビジブルマンは7着に終わった。

 レース後、逗子騎手と相生調教師は再び話し合いをした。

「先生、今日はちょっと仕掛けが早過ぎました。すみません。」

「気にすることはないが、何か理由でもあったのか?」

「後ろから別の馬が追い上げてくる気配がしたので、ダンシングヒロインが来たと思って、それで4コーナーで仕掛けました。」

「そうか。だが、それで作戦を変更してしまったのがアダになったな。」

「すみません。僕自身も、このレースが勝てる最大のチャンスだと思っていたんですが…。」

「まあ、かと言って君をインビジブルマンから降ろす気はないから、また今度頑張ってくれ。」

「はい、分かりました。」

 逗子騎手は、相生調教師との話し合いが終わると、すぐに次の最終レースの準備に取りかかっていった。


 レース後、厩舎に戻ってきた割出翼厩務員と相生初調教師は、次走をどうするか色々と議論を重ねた。

「先生、インビジブルマンですが、51kgで7着では、もう限界ではないでしょうか?」

「僕もそう思ったことはある。しかし、オーナーの木野さんは『馬がまだ闘志を失っていないから、どうか引退させないでください。』と言っているから、こちらとしてはまだ走らせるつもりだ。」

「でも、走らせたところで勝てるレースはあるんでしょうか?」

「分からん。オープン特別のレースでこれでは、確かに勝つのは厳しいけれどな…。」

 2人の間には重い空気が漂った。

 勝てる要素が見つからない以上、引退を考えるのは無理もない。

 しかし、オーナーが現役続行を望んでいる以上、こちらから引退を提案するわけにもいかない。

 八方ふさがりのような状況の中、仕事をしながらかたわらで話を聞いていた野辺山高子厩務員が「あの…。」と言いながら2人のところにやってきた。

「どうした?野辺山さん。」

「先生、私の考えなんですが、インビジブルマンをいっそのこと、重賞に出してはどうでしょうか?」

「重賞か?しかし、オープン特別も勝てないのに…。」

 相生調教師は少し冷めた表情で野辺山厩務員を見た。

「確かに普通に考えればそうなるんですが、私としてはちょっと逆転の発想で考えてみたくなりまして…。」

「逆転の発想か…。それが通用すればいいけれどなあ…。」

 相生調教師はすぐに同意する気にはなれず、腕組みをしながら考え込んでしまった。

「それだと勝てるレベルのレースで負けて、強敵の集う大レースで勝つ、まるで『新聞を読める馬』みたいだな。」

 割出厩務員も思わず突っ込んだ。

「はい、それなんです。もしかしたら、インビジブルマンはそういう馬なのではないかと思いまして。」

 野辺山厩務員は厩務員になる前、競馬で穴狙いをするのが好きだったので、その時の考えを提案した。

「……。」

「……。」

 相生調教師と割出厩務員は2人そろって腕組みをしたまま、考え込んでしまった。

「ダメモトで言ってみたんですけれど、やっぱりだめでしょうか?」

「…まあ、よかろう。その意見を取り入れることにしよう。」

 相生調教師は腕組みをしたまま野辺山厩務員の意見に賛同した。

「先生、いいんでしょうか?」

 割出厩務員は耳を疑うような表情で言った。

「勝てるかどうかは分からんが、とにかくやってみる。木野さんも重賞制覇を目標にしていることだし。」

 相生調教師は組んでいた腕をほどくと、きっぱりとそう言い切った。

「先生、ありがとうございます。」

 野辺山厩務員はお辞儀をしながらお礼を言った。

「こちらこそご提案どうも。そういうわけで、次は重賞に出走させる。割出君、それを頭に入れた上で調教をしてくれ。頼んだぞ。」

「はい。やってみます。」

 割出厩務員は、最初は重賞に出してもどうせ勝てないと決め付けていたが、相生調教師の決断に押される形で同意をした。

(重賞に出すと決まった以上、やるしかない。故障の不安はあるけれど、やってみるまでだ!)

 彼はそう考えて気合いを入れると、早速今後のインビジブルマンの調教メニューを考え始めた。


 6歳11月の時点におけるインビジブルマンの成績

 28戦6勝

 本賞金:4950万円

 総賞金:1億3230万円

 クラス:オープン


 名前の由来コーナー その17


 一弥… JUN SKY WALKER(S)のボーカル、宮田和弥から命名しました。これまで逗子騎手の下の名前を出していませんでしたが、初登場時から名前は決めていました。

 本作ではせっかく下の名前を決めてもなかなか使う機会がなかったため、これまで逗子騎手と網走騎手の下の名前を省いていました。

 なお、網走騎手の下の名前は特に考えていないため、登場予定はありません。

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