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Scene11 重賞への挑戦権

 新潟大賞典を終えたインビジブルマンは、その後2歳戦が始まるまでの間、しばらく厩舎で調整された。

 2歳戦が始まり、オープンから1600万条件に降級となると、陣営は早速レースに使うことを決めた。

 しかし、降級初戦のストークステークス(阪神、芝1600m)は5着、格上で挑んだオープン特別の阿蘇ステークス(小倉、ダ1700m)は2着に終わり、すぐにはオープンクラスに復帰することができなかった。

 阿蘇Sの後、夏バテ気味で調子を落としたインビジブルマンは、相生調教師の判断で木野牧場に放牧に出されることになった。


 木野牧場には、現在3頭目の仔を身ごもっているトランクバークと、1歳馬のマイロングロードの計2頭がいた。

(2歳のトランククラフトは、かつてトランクバークが所属していた星厩舎でデビューに向けて調整が進められていた。)

 インビジブルマンが牧場に到着すると、求次はトランクバーク、マイロングロードの面倒を見ながら笑美子や可憐と協力し、連日超音波を脚に当てるなどして馬の疲労回復に努めていた。


 1ヵ月後、脚に異常がないこと、そしてすっかり疲労が取れたことを確認した求次は、相生調教師に連絡をし、インビジブルマンを再び厩舎に戻した。

 厩舎では割出厩務員と逗子騎手が協力しながら、調教を施していた。

(このままでは乗り替わりになるかもしれないな。何とかして結果を出さないと。)

 そんな危機感を持っていた逗子騎手は、時間さえあればインビジブルマンを始めとする、競走馬のビデオを見てどのように騎乗すればいいのか作戦を練った。

 そして疑問に思ったことや、自分なりのアイデアが思いつくと厩舎の人に報告したり、相談したりしていた。


 インビジブルマンは11月に行われた京洛ステークス(京都、芝1200m)で復帰して7着になった後、12月に六甲アイランドステークス(阪神、芝1200m)に出走することが決まった。

 レース数日前、逗子騎手と割出厩務員は厩舎で作戦について念入りに相談した。

「逗子君、とりあえず外枠は回避できたし(16頭立ての4枠7番)、先行策を取るには悪くはないな。」

「そうですね。距離が短いから、出遅れさえしなければスタートダッシュするつもりでいます。」

「でも内枠の馬に逃げ、先行馬が多いので、そこだけは気をつけてくれ。」

「はい。かからないようにうまく抑えながら、内枠の馬の後ろにつけようと思っています。」

「それが良さそうだな。内に入れば距離のロスを最小限に食い止められるし。」

「あとは最後の直線で逃げた馬の間をうまく突くことができれば、十分に勝算は出てくると思います。」

「よし。作戦としてはそれで決まりだな。頼んだぞ、逗子君。」

「任せてください。」

 勝利に向けて確かな手応えをつかむことができた2人の表情には自信が満ち溢れていた。


 レースがスタートした瞬間、インビジブルマンは半馬身程出遅れてしまった。

「あっ!」

 スタートダッシュを考えていた割出厩務員は思わず叫んだ。

 一方で、逗子騎手は至って冷静だった。

(かえって内に入りやすくなった。よし、先行馬の後ろに入ろう。)

 彼は素早く作戦を切り替えると少し手綱を引いて抑えた。

 そして内が空いたのを確認すると、素早く内ラチ沿いに馬を誘導した。

 インビジブルマンはその後、6~7番手を走り続けた。

(思ったより後ろにはなったけれど、4コーナーを曲がりきる頃にはコーナーワークで順位を上げられるはずだ。最後の直線まではこのまま抑えよう。)

 逗子騎手ははやる気持ちを抑えながらコーナーを曲がっていった。

 最後の直線、先頭集団にいたトランクゼンリョクとトランクエリーゼが懸命に粘り続けた。

 インビジブルマンはその2頭の間を抜けようとしていたが、その時に両馬が接近したため、一瞬不利を受けてしまった。

 不利を受けた時間は約1秒程度だったが、その間に馬は20m近く走るため、逗子騎手とインビジブルマンにとっては痛いロスになった。

 しかし、あきらめない彼は再び間が空くと素早くインビジブルマンにムチを入れ、ダッシュをかけた。

 トランクゼンリョクとトランクエリーゼは懸命に走り続けたが、ゴール50m手前でついにインビジブルマンに交わされた。

 しかしほぼ同時に外からティアズインヘヴンが強襲してきた。

 内インビジブルマン、外ティアズインへヴン。2頭が並んだところがゴールだった。

 関係者エリアにいる割出厩務員と相生調教師はスローで映し出されたゴールシーンを見て息を飲んだ。

「これはまさしくクビの上げ下げになりましたね。」

「そうだな。肉眼ではほとんど分からない程の微妙な差だからなあ。どっちが勝ってもおかしくはないだろうな。」

「でもやっぱり勝っていてほしいです。どんなに善戦したとしても、やっぱり2着じゃ悔しいですから。」

「それはこちらも同じだ。まあ結果はどうであれ、不利を受けながらもあきらめずにここまで持ってきた逗子君をまずはほめることにしよう。」

「そうですね。その上で結果が伴えば、こちらとしては言うことなしです。」

 2人は写真判定の結果が出るのを今か今かと待ちながら、あれこれと会話をしていた。


 しかし、それから5分経っても写真判定の結果は出なかった。

 着順掲示板の1着と2着の間の部分には、相変わらず「写真」の文字が出ていた。

 割出厩務員と相生調教師の表情には焦りの色がにじみ出ていた。

「長いですね。」

「そうだな…。」

「もしかしたら同着かもしれませんね。」

「それはないと思うがな。」

「それにしてもこの間は嫌です。早く結果が出てほしいです。」

「そのうち結果は出る。それまでの辛抱だ。」

 2人が話をしていると、ついに掲示板の「写真」の文字が消え、着順が表示された。

 出てきた数字は1着が「7」、2着が「14」だった。

「やったーーーっっ!!勝った勝ったーーーーっ!!」

「よくやった!逗子君!!」

 彼らはその数字を見て喜びを爆発させていた。

 かたわらでは可憐が求次に抱きつきながら、やはり喜びを爆発させていた。

 レースはハナ差 (2cm)でインビジブルマンに軍配が上がった。

 少し離れた場所ではティアズインヘヴンの関係者がみんなで敗れた悔しさを分かち合っていた。


 インビジブルマンは年が明けて5歳の1月に行われた次走の寿ステークスも勝ち、見事に2連勝を飾った。

 レース後、相生調教師は再度重賞に挑戦することを明言した。

(重賞か。しかも調教師のあの目は本気だ。これからはこれまで以上に厳しい挑戦になると思うが、かえって楽しみだな。いつか馬の体にレイをかけて、大勢の観客に囲まれて、手綱を握りながら全国放送のテレビに映りたいな。)

 求次はインビジブルマンがその夢への挑戦権を獲得したことに、大きな期待を寄せていた。


 5歳1月の時点におけるインビジブルマンの成績

 16戦6勝

 本賞金:4100万円

 総賞金:9830万円

 クラス:オープン


 名前の由来コーナー その10


・ティアズインヘヴン(Tears in Heaven)(オス)… エリック・クラプトンの曲「Tears in Heaven」から取りました。セリでこの馬を買う直前に、所有馬を1頭(Scene17で名前が登場します。)予後不良で失ってしまったため、その馬への追悼の意味も込めてこの名前をつけました。

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