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02アミュレット



訳の分からぬまま外に連れ出された私は、周囲の白い目を浴びながら女の部屋にたどり着いた。




「どんどん食べて下さいね」





テーブルの上に並ぶ色とりどりに盛り付けられた皿。


人間の食事が山のように用意されており、女はさらに温めたスープを鍋ごと運んで来た。



「ずっと飲まず食わずだったから、きっとお腹が空いてると思って、たくさん用意しました!」






「ふん」



わたしは鼻で笑い、ちらりと見ただけで顔を背けた。




「愚か者め。人間と同じ物を悪魔が食せる訳がなかろう」



「そういうの、食わず嫌いって言うんですよ」




子を叱る母親の顔をして女は腰に手を当てる。





「食事だと言うのなら…」



私はおもむろに女の胸ぐらを掴み上げた。











「お前の血を捧げろ!」





皿がいくつか床に落ち、スープがぶちまけられた。

不味そうな女を食らう趣味は無い。ただの脅しのつもりだった。しかしーー。



ばちん!



雷が弾けるような音がし、掴み上げてた私の腕が一瞬で黒こげになる。

炭に力は無く、指先から崩れていき、女は床に放り出された。




「ガナフさん!」




服の汚れも気にぜずに女は飛び起きた。



「ああ、痛そう…」




肘から下をほとんど無くした私の右腕を、女は申し訳なさそうに両手でそっと包んだ。



「ごめんなさい。わたしのアミュレットが反応してしまったみたいです」




「ふん」





うっとうしそうに女の手を振り払い、私はおもむろに肩に手刀を入れる。

腕はあっさりともげ落ちた。


切り口からは黒い液がしたたり、その液体は空気に触れて次々と気化して消えゆく。

切り口そのものは黒の空洞が広がっていた。



グッと無くなった肩から先に力を込めると、新しい腕が生えた。


服はないが、焦げる前と変わらない腕がそこにある。





「うわぁ!悪魔って便利なんですね」




感心したように女は目を丸めた。

このくらいは悪魔にとっては日常茶飯事だ。


いちいちうるさい。



「でも、それはそれ。これたこれ。ガナフさん騙されたと思って一口食べてみて下さい」




女は私を椅子へと押し戻し、無理やりナイフとフォークを持たせた。





女が私に害をなすぶんにはアミュレットの反応はないらしい。


つまり、私はこの女に逆らえないわけだ。



「…ふん」




ごくつまらなそうに鼻を鳴らして両手の道具を放り捨てる。

私は幾つかあったスープの皿に空いた手を伸ばした。


汁ものであれば、不味くとも流し込めると思ったからだ。




女が固唾を呑んで私の様子を窺っている。




「人間の食事など不味いに決まって…










…美味いな」







一口飲んだとたん、鼻にトウモロコシのの良い香りが抜け、口の中には甘さとしょっぱさの丁度良い具合の味わいが広がった。

牛の肝よりも美味いかもしれない。



ぱぁっと女が顔を輝かせる。





「やったぁ! コーンスープはわたしの得意料理の一つなんですよ。えへへ、気に入ってもらえて嬉しいです」






せっせと床を片付けながら顔をはにかませた。

どうにも、切り捨てた腕を持ちながらだと奇妙な光景となる。




「どんどん食べて下さいね。お代わりはいくらでもありますから」





人間の食事がこれほどまでに美味いとは思わなかった。


封印される前も同じだけの料理があったとも考えにくいが、しかし、こんな事であれば封印される前にも食べておくべきだった。






「…フン」




再び鼻を鳴らし、私は次の皿に手を伸ばした。



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