01地下牢
闇が広がっていた。
唯一私に刃向かった勇者との勝負に敗れた私は、奴の命と引き替えにこの地に封印された。
その上から人間共が幾重にも封印を重ね、私は身動きすら許されぬ闇へと落とされた。
この闇は永遠に消え失せる事はない。
過去も。
現在も。
未来永劫に。
「わぁ!ここにガナフ・クォフィードが居るんですねッ」
不意に響く馬鹿みたいに明るい声。
私の闇はこの瞬間にして、唐突に終わりを告げた。声の主は若い女だった。
「あの…」
「あ、案内ありがとうこざいます!ここから先はわたし一人で大丈夫ですから。外で待ってて下さい」
「そうですか」
案内した兵士があからさまにほっとした声を上げいそいそと引き上げていく。
「さて」
女はたいまつをやけに重たそうに抱え、階段を下り始めた。
私はたいまつで揺れる炎の眩しさに目を細めて、その光景を見ていた。
――ああ。永く闇にいたから目が潰れたものだと思っていた。
「きゃわあ!」
奇妙な叫びとともに、女は足を滑らせて階段を見事に転げ落ちた。
「あたた。ひどいめにあっ…きゃあ!!」
転げ落ちたのはたいまつも一緒だった。
女の服に火が移る。
「いやぁ〜!燃えてるうぅッ」
バシバシ自身の体を叩きつけ、何とか消火に成功する。
下手をすればいきなり丸焦げになる所だった。
「ふう。びっくりしました」
汗を拭う仕草をするなり、女は何事も無かったかのようにたいまつを拾い上げる。
女は再び歩き出した。
たいまつに浮かび上がった部屋は広く殺風景なところだった。
床一面に、ぎっしりと書き込まれた魔法陣の檻。
女は封印の上を事も無げに跨いでゆく。
女、正気か?
魔法陣を跨ぐほとに、私を封印する力は弱まっていくというのに。
それでも、女はついに最後の一つですら躊躇いを見せなかった。
「お待たせしましたガナフ・クォフィードさん!」
「…なかなか、面白い物を、見せて、もらったぞ」
久しぶりに開く唇はかさつき、のどは酷く震えてしわがれた声をしていた。
「もう!からかわないで下さいよぅ」
ぱたぱた手を振り、恥ずかしさを誤魔化す。
何というか、頭の中が年中春のような女だな。
「さあ、早くここから出ましょう」
「…何を、戯けた事、を」
「あ、信用してませんね?ちゃーんと許可は貰ってますよ。さあ早く行きましょう」