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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第七章「意思」
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悪魔の囁き

戦争が始まりますが、始まる前の一幕です

早く始めろよとか言わないで(笑)


次話で予定している行動がやりたいがためだけの1話だったりするのですが・・・話はそんなに進みません

それでもよろしければ本編をどうぞ

轟々と燃える巨大な炎の塊

サイズを縮小した太陽にさえ見えるその塊が、地上から遥か上空を隕石のように、しかしゆっくりとした速度で落下していく

向きから考えて、それは魔法学園のど真ん中に向かっていた


クエエェェェェェェ!


鳥の鳴き声のようなものがわずかに聞こえる

凝縮された炎が内部で連続的に爆発している音に霞んでしまい、聞こえたかどうかさえよくわからない


しかしその泣き声こそが、人が抗えないとさえ思えるような炎の塊へと対抗する手段であった


ひらり


そう表現するのが正しいような優雅な動きで、鳥のような存在が空を舞った

超がつくほど巨大な、という説明と、赤と金というやたらに派手な色合いであることの説明が無ければただそれだけのこと

炎と学園の間をくるくると旋回しているだけの、状況が状況であれば心和むような光景でしかない

それが人には為しえないほどに、強力な魔法陣を展開しているのだと気づかなければ


鳥が旋回をやめ、回っていた空中からやや地上のほうへと下がる

描いていた円の中心あたりへで静止し、両の翼を大きく広げて求愛行動のような姿勢をとった


その瞬間、旋回していた場所が唐突に変化する

旋回していた軌跡がそのまま魔法陣の外円となり、その内側にはびっしりと意味を込められた様々な図形が描かれる

金色で描かれた魔法陣は赤い光を纏い、炎へとその平面を向けたまま空中で停止していた


ゆっくりと落下してきていた隕石のような炎はやがて魔法陣と接触する

膨大な質量があると思われるそれの前に、薄っぺらい紙のような魔法陣など容易く消し飛ばされてしまうだろう

そう思えるような圧倒的な差が、二つの存在にはあった、少なくとも見た目の上では


炎と魔法陣が接触した瞬間、轟音が周囲に木霊する

大爆発、音だけで衝撃波が感じられそうなほど、大音量で爆発音が響く


その音のあと、空中に残っているのは一枚の魔法陣だけであった


だが空から降ってきていたものは、炎だけではない

次は巨大な氷の塊が同じように落下してきていた

氷だけではない、雷を纏った巨大な竜巻のように渦巻く黒い雲も見える

岩としか表現できない、ただただ巨大なだけの石の塊も見える


様々な超常現象のような災害が、空中から全て学園に向かって飛来してきている


しかし、そうしかしである

学園を守るようにして空中にいる存在は、鳥だけではなかった


龍が耳をつんざくような叫び声を上げ、再び魔法陣が空中に描かれる

鳥のときと違い白の魔法陣が青い光を纏ったそれは、雷を纏った雲を完全に遮断した

白い虎が、竜のような亀が同様に魔法陣を展開する

緑と白の魔法陣が、青と緑の魔法陣がそれぞれ展開され、同様に災害を遮る

巨大な岩も、氷の塊も、1つとしてその壁を越えることはできなかった


4つの存在は、自らの主の側へと戻るようにして学園の上空へと戻っていく

4つの存在の中心に居るのは、他でもない


魔法学園現学園長ファルケン=ナウレアその人であった



――――――――――



「チッ、さすがだな

おい!攻撃の手を休めんな!遠距離部隊はこのまま大魔法連発させとけ!」


学園を見下ろす小高い丘の上で、ライアン=ローレンスは誰かに指示を飛ばしていた

指示を受けた魔法使いのような男は、彼らの後ろに広がる暗い森の中へと小走りに消えていく


「ふん、とりあえずこれで学園長は身動きできねぇ

地上のやつらが到達すれば終わりだ」


言ってから、学園と自分たちとの間に広がる黒い波を見下ろす

その黒い波が全て魔物であると言われても、にわかには信じられない光景だった


「学生程度と国の騎士団連中じゃ相手にならねぇレベルだぜ?

どう抵抗するつもりなのか、教えてくれよ学園長さん」


くっくっくっと余裕の笑いを浮かべるライアン

自分が勝つことを疑いもしていない、どうやって勝つか、それだけしか考えていない

色々な考えを頭に浮かべるものの、しかしその中に「負ける」という考えは微塵も存在していなかった



――――――――――



「きっついのぅ」


学園の遥か上空で4つの存在を周囲に従わせ、今も飛んでくる様々な災害レベルの攻撃をじっと見据える学園長

それを先ほどと同じようにして、魔法陣を展開させて危なげなく防いでいく


しかし逆に言えば、それ以上のことをできていないのが現状であった

4つの存在を同時に使役することは、精霊と化した今の学園長にとっても多大な負担を強いられている

防御に徹する以上のことができず、しかも敵との距離が離れている今の段階では迂闊に攻めることもできない


攻撃のために1体を出せば、他の3体で防げない攻撃がきたときに対処できない

1つ1つが災害級の攻撃であるために、1つでも攻撃を通してしまえば形勢など無関係に、いきなり自分達の敗北が決定していまうことだってありえる

今の時点で学園長にできることは、ただ防ぐことだけ


自分の命を削りながら、という条件がなければ、それでよかったのかもしれないが


「・・・ワシ、負けるかも」


軽口を言うように笑い、まるで冗談を言っているかのような口ぶりでそう言った

遥か空中では、それを聞いてくれる者は誰もいないはずなのだが


「お主なら来てくれると信じておるぞ、グラハルト」


この場にいないはずの彼に願いをかける

この事態を知っているかさえわからないはずなのに


それでも信じようと思うことを、学園長は間違っているとは思わない


彼は、正義が鎧を着ていると言われているのだから



――――――――――



学園を包む都市の城門

その前に広がる大草原


そこに展開している王国騎士団と、戦う意思を持った魔法学園の生徒達

その生徒達の中には、アリサ達一行も含まれていた


戦場は微妙な雰囲気に包まれている


その原因は、大草原の遥か向こう側に見える地面を埋め尽くすほどの黒い波

相当な距離が空いているはずなのに、最後列の人間にまで伝わる地響き

その全てが魔物で、その中には人間に相手ができるとは思えないほど強力な存在も混ざっている

それをその場にいるほぼ全ての人間が、理論ではなく知識でもなく、直感でそれを悟っている


生きて帰れないかもしれない

そもそも勝てるかどうかさえもわからない


恐怖は伝染し、自らの意思でこの場に来た学生達でさえもその意思が揺らぎそうになっていた


「まずいですね」


学生達は隊列を組まず、城門を中心に展開している騎士団の左右に自分達のパーティー毎に纏まっていた

学年も年齢も関係なく、自信があるものから前のほうにいるのも当然の結果かもしれない

そんな中で当然のごとく最前列にいたアリサ達の中で、グレイが後ろを見て呟いた


「ああ、まじぃな

これじゃ勝てるもんも勝てねぇぞ」


バスカーは後ろを見ていないが、それでもこの空気を敏感に察知している


「仕方ありませんわ、そもそも勝てるかどうかさえわからないんですもの」


戦う貴族に生まれ、戦場を知っているレディだからこそわかる

わかるからこそ、一度こうなってしまうと中々立ち直るのが難しいこともわかっている


「・・・」


マキアは何を考えているのか、目を瞑って腕を組み、ただじっとしている


「それでも、それでもやるしかない」


アレックスはそう決めている

アリサが戦場にいる限り、自分も戦場にいると決めている

学園のためでもなく、他の誰かのためでもなく、ただアリサがそこにいるから

アリサが戦う限り、自分も戦い続けると誓っている

本人にそれを伝えたことが無いので、一歩間違えればただのストーカーではあるが


「・・・何か来た」


マキアとただ立っていたアリサが、ふいに上空へと視線を向けた

ただし学園長がいる学園の上空ではなく、展開している騎士団の中心、つまり外側の方向へと



――――――――――



「ヒャハハハハハハ!人間ども!我らが王のありがた~~~いお言葉を伝えてやりに来たぜ!」


上空に1体の魔物が出現した

悪魔デーモンと呼ばれ、下級悪魔レッサーデーモンとは放つ存在感からして違う異様の存在

人間と大して変わらないような見た目から放たれる圧倒的な魔力

さらさらに流れる金髪の隙間から生えた4本の角、ドラキュラのようなマントと服装をし、口を三日月のようにして顔に貼り付けた見た目美麗の青年男性

それが悪魔だと知っていなかったなら、現代であればモデルでもやっていたかのような男がそう叫んだ

恐らく魔法を使って伝えているのであろうその言葉は、その場の広範囲に展開している何百人もの人間全てに聞こえていた


「悪魔っ!」

「ひっ」

「・・・ぅ・・・あ」


警戒するもの、怯えるもの、圧倒的な魔力を感じ取り、絶対的な支配者に対して硬直してしまうもの

様々な感情が交じり合う中、悪魔の男は言葉を続けた


「我らが王は寛大な御心の持ち主だ!

我々に従うというのなら命だけは助けてやると仰せだ!」


悪魔の取引


求めるモノと引き換えに、何かを差し出すことで成立する

例えば力と引き換えに誰かの命を

例えば金と引き換えに見た目麗しい美女を


例えば、命と引き換えに、自分が守るべき何かを・・・


人は自分にはどうしようもない何かが起こったとき、自分以外にそれを求める

そのどうしようもない何かが、どうしてもどうにかしたいことであったとき、人はそれに手を伸ばす

たとえ手を伸ばした先が、悪魔との取引であったとしても


彼らの目の前に広がっている光景は、まさにそれであった

どうしようもない事態、どうにもできない絶望、どうしても回避したい未来

悪魔の囁きは、確実に彼らの心に侵入していくのだった


誰もが何も言い出さなかったのは、寝返るという行為を咎められてこの場で背中から殺されることを怖がったからであろう

あるいは本心から、その言葉を全く聞き入れなかったものが多かったからなのかもしれない


「あと少ししたら本隊がここまで到達する!

到達してからこっちにつこうとしても無駄だぞ!あいつらにそんな知性はねぇからな!

ヒャハハハハハハハハ!」


心は揺れる

人間の心は弱い

強い人間もいるが、弱い人間は多い

自分だけが良ければ、そう考える人間も多い

生きてこそ、そう考える人間も多い

その全てを持っているある一人が、自分の生きる道を進むべく、裏切りという行為をするために一歩進めようとした瞬間




ワアアアァァァ!!!




騎士団の両翼にいた、学生達から歓声があがった

悪魔の囁き・・・怖いです


ちなみに教室で戦ってたレッサーデーモン3体とのシーンですが、展開を先に進めたいばっかりにすっ飛ばしました

あっさり勝利して、あっさりすぎて描写する必要もないよね、という判断をしたということにしてくださいOTZ←土下座


今後ともソウケンをよろしくお願いします

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