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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第七章「意思」
92/96

覚悟と実力の溝

長らくお待たせしました


別の小説のほうが筆が進む進む・・・これがスランプか!違うか


仕事が若干落ち着いてきたので少し更新

そろそろ佳境です・・・あれちょっと前からか?(笑)

「来るぞ!」


ズササッと小気味いい音と共に、予め決められていた順番に整列する生徒たちの一団

何人かは屈んだ体を覆い隠すほど大きな盾を正面に構え、ひざ立ちになって盾をしっかりと握り締める

何人かは剣を持ち、盾を持つ生徒と背中合わせになって支えるようにして待機する

あるものは弓を持ち、できるだけ姿勢を屈め、あるものは杖を手に魔力を集めていつでも使えるようにしている


4人ほどで廊下の横幅を埋め尽くし、ねずみ一匹進入を許さないとでも言いたげな緊張を持って彼らは「敵」を待ち構えていた


ズンッ


「・・・っ!」


ズンッズンッ


敵の足音が近づいてくる

正面に見える廊下の中ほどにある曲がり角の向こう側から聞こえてくる

一瞬で彼らの仲間を葬り去った恐怖がそこにある

何の準備もせずに勝てるような相手ではない敵が、例え準備を万全にしていたとしても、彼らが挑むべきではないほど強い敵がそこにいる


「GUUU・・・」


ぬぅっと頭と体が一緒になったような顔をだし、巨大な体を構成する黒い腕と顔が曲がり角から出現する


「ヒッ!」


「恐れるな!倒せない相手じゃない、自分を信じるんだ!」


恐怖からわずかな悲鳴をあげる一人の生徒を叱責する男子生徒

恐怖が伝染することを彼はわかっていた、その状況になってしまえば、例え勝てる相手でも勝てないこともわかっている

恐怖があろうがなかろうが、勝てない相手かもしれないということもわかっていて、それでも彼は言わずにいられない


「大丈夫、大丈夫だ

俺たちは生き残るんだ・・・っ!」


それは誰に向けて言ったのか、ほかの誰でもない自分に対してなのかもしれない


ぐるっと体の向きをこちらに変え、「敵」はその巨体を全て通路から出して生徒たちに向き直った


「来るぞ・・・」


うなり声のような音を鋭い牙がならんだ切れ目から漏らす目の前の「レッサーデーモン

彼我の強さの差を知るものからすれば、絶望という単語が頭に浮かんだかもしれない

この場でそれが浮かんでいるのは、指揮をしている男子生徒ただ一人だったのが幸運だったのかもしれない


「GUUAAAAA!!!」


「構え!スキルを起動させろ!耐えろおおお!!!」


「「「うおおおおお!」」」

「ディフェンサー!」

「プロテクション!」

「「パワーシールド!!!」」


各々がスキルを発動させ、突進してくるレッサーデーモンのタックルに備える

闇魔法を使えるはずの彼がそれをしてこず、ただ力任せの突進をしてくる

それは相手の力量差を正確に理解しており、相手を馬鹿にするように嬲り殺そうと考えているからに他ならない

その証拠に、レッサーデーモンの凶悪な顔は愉悦に染まったようにニンマリとしていた


ピシッ


ほんの一瞬だけだった


誰も気づいていない


指揮をしている男子生徒も

目の前の脅威に視線が釘付けになっている他の生徒も

圧倒的優位に酔いしれているレッサーデーモンも


誰も気づかなかった


ビキィッ!


音に気づいたレッサーデーモンは、避けるだけの時間も理解もなかった


ズドゴンッ!!!


突然生徒たちから見て右側の壁が破裂した

壁の向こうには中庭が広がっており、その向こう側にはさらに校舎が建っている


「邪魔っ!だあああああ!!!」


壁を粉砕しながら出てきたのは、青い毛色をした巨大な鎚を構えた獣人と、その鎚に頭を殴りつけられながら吹き飛んでいる別のレッサーデーモンだった


粉砕された壁と、新たなレッサーデーモンの衝突によって突進は中断される

二体のレッサーデーモンはさらに反対側の壁を突き破り、講義用の教室へと突っ込む


「・・・え?」


生徒達は唖然としている

目の前の脅威が別の脅威に吹き飛ばされ、さらにそれを吹き飛ばしたのは他でもない、自分たちと同じ生徒の一人だったのだから

獣人の腕に巻かれている腕章が、彼も自分たちと同じ学生であることを示している


「油断するな!反撃きてるぞ!」


その言葉と同時に、今度は獣人の前に闇のように黒い壁が生まれる

生徒達の位置からは見えなかったが、レッサーデーモンが吹き飛ばされながらも魔法で反撃していたらしい

闇の塊のようなものが壁にぶつかり、破裂したかと思うと壁に吸い込まれるようにして消えていった


「おい、お前ら逃げるならとっとと逃げろ!

いいな!俺は忠告したからな!」


「あ・・・お、おい!」


青い獣人はそれだけを言うと教室の中へと飛び込んでいく

同時に響いてくる地響きのような音、獣人の攻撃なのか、レッサーデーモンの攻撃なのかはわからない

しかしその音は連続して響いており、少なくともまともに戦っていることがわかる


「レディ早くしてください!

バスカー一人じゃ長くは持ちません!」


「わかってますわ!」


「先に行くぞ!」


数秒して、真っ黒なローブを纏ったアリサ一行大好き連合の栄誉会員グレイと

まさにその一行であるレディ・マキアが姿を現した


それと同時にマキアが体を炎と化し、バスカーの入っていった教室へと突っ込んでいく


「私も行きます!

レディは他の人を!」


「わかりましたわ

そこの人たち!」


そこで二人は別れ、レディが急ぎ足で生徒達へと向かう


「早く避難を!正面玄関に向かいなさい!

そこに教師達がいますわ!とりあえずそこで指示があるまで待機なさい!」


「で・・・でも!」


「でもも何もありませんわ!

緊急事態です!急ぎなさい!」


生徒の一人が何かを思い、反論する

しかし事態の全容をぼんやりとつかんでいるレディにとって、一刻の猶予もない現状では聞いている余裕はなかった


「急ぎなさい!いいですわね!?正面玄関ですわよ!」


それだけ言って踵を返すレディ

反論をしようとした女生徒はしかし、指示に従おうとせずにその場に突っ立っていた


「おい、何してるんだ

さっさと避難するぞ」


男生徒が促すが、それでも彼女は動こうとしない


「いやだ・・・」


「おい、何言って・・・」


「いやだ!私も戦う!

もうヤだ!もう誰かに死んでほしくない!」


「あ、おい!」


言葉を言い切った直後、教室へと駆け出す女生徒

呆気にとられてしまい、すぐにとめられなかった男生徒も追いかけるように駆け出し、そして教室へと踏み込んだ


瞬間


「とおおおおおおるはああぁぁんまあああああ!!!」


本当に雷が落ちたかのような轟音

耳が痛くなるほどの音と共に、レッサーデーモンの頭部へとバスカーが一撃をお見舞いしている瞬間だった


アイスの・・・」


その後方上空でレディが飛び上がり、緩く回転しながらレッサーデーモンへと向かって落下していく


コフィン!!!」


バスカーの一撃によって後ろに倒れるようによろめいていた姿勢に追い討ちをかけるように、すれ違いザマの一撃を与えるレディ

斬れるイメージがしずらい黒光りする皮膚を綺麗に切り裂き、肉と肉が離れた場所が一瞬で凍結する

凍結は空気にまで及び、アイスコフィンの名に相応しく、棺のように長方形の氷が出現する

レッサーデーモンの下半身をすっぽりと覆う氷は、完全に身動きを奪っていた


「GUAAA!」


奥にいた別のレッサーデーモンが魔法の矢を放つために、空間に無数の闇の塊を生み出す

人間のそれとは格が違うその攻撃は、同じ魔法でもあってもレベルが全く違う威力を発揮する

はっきり言ってくらってしまえば終わりである


「させま・・・せんっ!ダークシールド!」


しかしそれはやはり、さきほどバスカーを守ったのと同じ黒い壁に遮られる


「マキア!」


「わかって・・・るって!」


言葉の途中で一気に熱量を増し、右手にその熱量を収束させていくマキア


「炎撃・正拳!!」


一瞬で魔法の矢を放ったレッサーデーモンの目の前へと移動し、正拳突きをまさに正しい姿勢で打ち込む

小規模な爆発と共に打ち込まれ、相手を思い切り吹き飛ばしながらダメージを与えた

小規模と言ったが、周囲を襲った衝撃波から考えて相当な威力があったようだ

その証拠にレッサーデーモンは目に見えてダメージを負ったようによろけている


「すご・・・」


「これが・・・アリサパーティー・・・」


それを目撃した二人の生徒は驚愕だった

自分たちとはレベルが違う戦闘


例えば自分が、あの中の誰か一人でも代わりになるだろうか?


例えば一撃でレッサーデーモンをよろめかせられるだろうか?

例えばレッサーデーモンの魔法耐性を超えて動きを停止させられるだろうか?

例えば高速で飛んでくる魔法の矢を防ぐだけの防御魔法を、あれだけ素早く展開できるだろうか?

例えば強力な防御を貫通できるほどの強力な一撃を自分は持っているだろうか?


どれもできない、どれをやろうとしても、自分では中途半端だ

少しずつならどれもできる、でもレッサーデーモン相手に通用するほどのそれらをできるだろうか

できない、少なくとも彼女にはできない


「・・・っあぶない!」


だが、できることもある


彼女が第三者的立場にいたからわかったことがある

教室の向こう側、窓からこちらへ向かって何かが飛んできている

立ち位置から考えて、氷に封じられたレッサーデーモンの近く

渾身の一撃を叩き込もうとしているバスカーに直撃するルートだった


「っ!?」


間一髪でバスカーは大きく飛びのいた


先ほどと同じようにして、壁を破壊しながら新たなレッサーデーモンが現れる

現れると同時に豪腕を振るい、氷を破壊して仲間を助けるというおまけつきで


「チッ、三体いっぺんにはきついぜ!?」


「アイスコフィンも解除されてしまいましたわ、これは中々厳しいですわね・・・」


「マキア、そっちはどうだ?」


「ダメージは与えた、でも倒すにはまだかかりそうだな」


教室の中央へと集まり、互いに背を合わせる形で三体のレッサーデーモンと向き合うレディ達


「そんな・・・」


「くそっ、仲間・・・を・・・」


仲間を呼ぼうと、後ろを振り返った男生徒は不意に黙り込む


「どうし・・・え?」


それが気になった女生徒が、そちらを振り返ろうとしたところで


「鬼神光剣」


青白い光が一閃した

女生徒の目の前、まさに目の高さをまっすぐに飛んでいった光

それがその直線上にいたレッサーデーモンの右肩を貫いた、彼女がそのことに気づくのはもう少し後になってからだが


「あ、あんたは・・・」


「アリ・・・サ・・・さん?」


薄い青色の髪が美しく靡き、服についた血の色さえもどこか神々しさを感じさせる女神が立っていた

わずかに浮かべる微笑だけで、女生徒はなぜか安心感を覚えたのだった

アリサ達が戦ってたレッサーデーモンはどうしたかって?

倒しましたよ、速攻で

アリサの服についてた血は相手のレッサーデーモンのものです

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