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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第七章「意思」
88/96

開戦

※残酷描写・グロ描写あり!

といってもそこまで具体的な表現をしたわけではありませんが、苦手な人はご遠慮ください


新章スタートです、どうぞ時間つぶしにお読みください

空白・改行込み4999文字です、今までの私の文章からすると少し長いかな?

一番最初に「それ」に気づいたのは、1年生の青年だったらしい


その青年は特に秀でた能力も無く、魔法の腕がたつというほど魔法が使えるわけでもなかった

どちらかといえば肉体系の前線向きかなぁ?という程度の方向性しかなく、魔法学園という難関に合格できたのも、運の部分が割りと高かった

だからこそ、彼は気づけた


巧妙に魔力で隠蔽され、気配を遮断され、目視以外で見ることはできない「それ」

周りの同じクラスの生徒たちと、模擬戦を行う授業中

大して強くも無い彼は、まさにぼっこぼこにされ、にべもなく地面に倒れる


仰向けに


運が良かったと言っていいのかもしれない

運が悪かったと言う人もいるかもしれない


彼はたまたま空から落ちてくる「それ」を見つけ、自分のいる場所にまっすぐ落ちてくることだけを理解した

どれだけボロボロにされていたとしても、命の危機を感じた彼はあらん限りの力を振り絞ってすぐにそこを飛びのき、できるだけ離れようとした


彼が急に起き上がり、必死になってその場から離れたわずか数秒後


「それ」は大音量と共に地面に激突した


彼が目撃した「それ」


巨大な悪魔のような羽に、人間の3倍は軽くある体長とそれに比例するように太くなっている筋肉の鎧、人のような形はしているものの肌は黒く、岩のように見えるその表面はヒビ割れが入っており、そのヒビからは赤いマグマを思わせるような禍々しい赤色が滲み出している

顔らしきものはあるが首はなく、体の上端部分がそのまま顔になっているかのような姿、サメを平たく潰したような顔の形は、大きく裂けている口の端をあげ、にたぁ~っと笑っているように見えた


下級悪魔レッサーデーモン


下級レッサーと名につくが、そもそも悪魔デーモンそのものがこの世界においては最強の座を争う種族の一つ

その力は人間一人で、しかも冒険者の卵でしかない学生では相手になるわけがない

その事実を証明するように、ただ落下しただけで発生した衝撃に巻き込まれ、周囲にいたはずの学生達はみな吹き飛ばされていた


いや、吹き飛ばされていた学生達は運が良かったのかもしれない


ギリギリで吹き飛ばされず、下級悪魔レッサーデーモンの近くで呆然と立っている学生達に比べれば・・・




メキッという骨が砕けたような音が響く

それと同時にブチブチと、肉が千切れるような音が一瞬遅れてした


目撃者の彼だけが、その場で何が起こったのかを正確に目撃していた、いや「してしまった」


下級悪魔レッサーデーモンがその豪腕とも呼べる腕を一振りし、一番近くで棒立ちになっていた学生の一人を襲った

その腕が、その学生の体を上下に真っ二つに引き裂いていく

すぐに事態を理解することは、今の彼にはできることではない

ただその学生の体が二つに分かれる瞬間を見ていることしかできなかった


ベチャッと気味の悪い音がしたが、彼にはそれが今しがた二つに分かれた学生の体が、地面に落下した音だとわかるまで時間がかかった

なぜなら、その音がするまでの間、時間にすればほんの数秒だったのだろう

その数秒で、下級悪魔レッサーデーモンの周りにただ立っていただけの学生達は、最初の学生と同じようにして宙を舞い始めていたのだから・・・




逃げる




それしかできない

それ以外を思いつかない

その行動すらも、自分で考えたことなのかわからない


ただ彼は動いた

唯一、その場で逃げ出した

誰かの叫び声が聞こえ始めたころには、彼以外にまともに動ける学生は一人もいなかった・・・


彼が走りながら、最後に見た光景


それは最初と同じように、空から同じものが幾つも降ってくる光景だった




彼は運が良かったと言っていいのかもしれない

その場で最初に死ぬという悲劇を回避し、生き延びることができたのだから



彼は運が悪かったと言う人もいるかもしれない

この後に起こる悲劇を知らず、地獄のような状況で生きることを強いられたのだから

誰よりも先に、誰よりも苦しまずに死ぬ機会を逃したのだから




――――――――――




「・・・来た」


ガタンと大きめの音を出し、授業中であるにも関わらずアリサはイスから立ち上がった

学園は広い、授業中であることも相まって、校庭に脅威が現れたという報告はまだ届いていない

にも関わらず、アリサは立ち上がり、校庭がある方向へと顔を向ける


「なにが来たんですの?」


当然ながら、その行動はアリサ以外に理解できない行動だった

一番付き合いが長いであろうレディでさえ、彼女の行動を理解することはできない

なにかあったんだろうという程度はさすがにわかったようだが


「・・・」


何も返事をせず、ただ壁を見つめるアリサ

しかしその視線は壁ではなく、壁の向こう側、ずっとずっと離れた校庭を見ている

まるでそこにいる「下級悪魔レッサーデーモン」を見つめるかのように


すぐに教室の外へと向かい、歩き出す

教師の呼び止める声も聞かず、迷いの無い歩みで廊下へ出て行った


普段はまじめなアリサの突然の行動に、教師を含めた全員が呆気にとられているとき、その教室へ一人の人物が入ってきた

彼が告げた言葉は、そこにいる全ての人間を地獄の入り口へと導いた


下級悪魔レッサーデーモンの大群が・・・っ!」




――――――――――




アリサは廊下を走りはじめていた


さっきすれ違った人物が色んな教室、色んな人物に今の事態を報告してまわっているのだろう


その報告のせいで、普段は静かなはずの学園の廊下は騒然となり始めていた

あるいは脅え、あるいは逃げようと、あるいは戦いの準備を始めるものなど

様々な様相の学生達が、思い思いの行動をとっていた


アリサ達が使っていた教室は普段はあまり授業にも使われないエリアだったが、校門へ近づくにつれて喧騒が激しくなってくる

どんどん武装している学生も多くなってくるが、アリサにとっては邪魔になってうまく進めない状況になってしまっている

なにより、アリサから見ても下級悪魔レッサーデーモンに勝てると思わせてくれるような生徒は一人もいなかった

このまま戦闘が始まれば、それは戦闘ではなく蹂躙が始まるだろうというのが簡単に予想できる


かくいうアリサも、一対一ならともかく複数を同時に相手にできるかと言われれば、厳しいと言わざるを得ない

そこはきっと仲間が来てくれるだろうとは思ってはいるが、自分と同じようにうまく進めない可能性も高い


そんなことを考えていたが、それもすぐに中断せざるを得なくなってしまった


進行方向はL字型の曲がり角になっており、今現在アリサは壁を正面に見据えながら進んでいる状態

必然的に、その壁に何か異変があればすぐに気づく

窓がついていないせいなのか、外の様子はわからず、壁の異変だけでしかそれを知ることはできない

故に、アリサ以外にそれに気づいている人物はほとんどいなかったようだ

何も気づかず、一瞬後に自分がどうなるかも想像さえせずに、壁の近くで何かを話し合っている二人の男子生徒

同じようにして、装備を点検している女子生徒三人組、それ以外にも五~六人ほどの生徒が壁から近い場所にいる


「あぶなっ・・・!」


アリサが見ていた壁には、小さなヒビが入っていた

杭でも打ち込んだかのように、中心部分から蜘蛛の巣状に広がったヒビ

間違いなく蜘蛛の巣のように小さなものなのだが、それはこちらが「内側」だからなのであろう

おそらくそれを「外側」から、もっと言うならそれを発生させた「原因」がいる部分から見たならば、きっと壁の近くにいる者達は一目散に逃げ出しただろう

それをしないで落ち着いているのは、報告があるころから定期的に鳴り響いている地鳴りのような振動音

それとほぼ同時に揺れる校舎が、どこにでもある光景の一つとして認識されてしまっているからに他ならない

その油断が、自分だけは大丈夫だろうという慢心にも近い油断が、彼らの命運を分ける結果となるとも知らずに


声を出そうとしたときには、もう手遅れだった


豪快な破砕音と共に、壁が一気に盛り上がり、盛り上がったということを認識するころには壁が「爆発」していた

壁際に一番近かった二人の男子生徒は、壁を爆発させながら突進してきた下級悪魔レッサーデーモンの巨体にのまれ、その超重量の下敷きとされた

少し前まで壁であった石は、今は大砲の弾頭と化し、装備を点検していた女子生徒三人に襲い掛かる

正しく弾のごとく高速で飛来する石の塊に、装備を点検していて構えもしていない三人には防げるはずもない

腕が千切り飛び、足はあらぬ方向に折れ曲がり、頭は見たくないものを撒き散らしながらその一部が石と一緒に吹き飛んでいく

一瞬で何人もの命が消え去り、かろうじて生き残った者も大きな被害を受けているものがほとんどだ

かろうじて生き残っている、虫の息、死んではいない、それ以外に彼らを表現することはできない


壁から遠く、巻き込まれなかった生徒達はその光景に唖然とした

その光景を生み出した存在、壁の向こうから現れた下級悪魔レッサーデーモンがゆっくりと歩み始め、そこでやっと生徒達は行動を起こした


「うわあああああああああああ!!??」


「きゃあああああああああああ!!??」


逃げる、という行動を


しかし、その行動をとるために「声」を出したのがまずかった


耳らしきものが存在しないというのに、耳障りだと感じたのだろう

人間ならば大胸筋と呼ばれる部分の、その上方が少し盛り上がったような部分と一体化している顔、そこについた横長の口

人間のものとは明らかに違う、一本一本がナイフほどの大きさをしたその口を、にやにやとしていた形から不快そうな口角を下げた形へと変化させる

それと同時であったのか、ずれていたのかはわからないが、アリサが表情の変化を確認したころにはもう事が起こっていた


下級悪魔レッサーデーモンの影から何かが飛び出し、それが放物線を描くようにして叫びを上げた生徒達に飛んでいく

それが闇魔法の初級「ダークアロー」であると気づけたのは、声をあげず、逃げることもせず、ただ脅えて動くことができなかった生徒達だけだった

人間の使うそれとは桁違いの威力と速度を誇るその魔法に、背を向けて逃げ出した生徒達は何が起こったかもわからず死んでいった

恐らくは自分が死んだことさえ気づかなかったかもしれない、正確に頭を貫かれ、ちょうど頭一つ分がきれいさっぱり消え去ってしまったのだから・・・


血を派手に噴出しながら次々と倒れていく生徒達

脅えてその仲間に入ることが無かった生徒達も、目の前の地獄絵図のような光景に、もはや半狂乱になりかけている

圧倒的な力の差と、逃げることさえ叶わない絶望的な状況

いっその事目の前で首の無くなった彼らと同じように、大声を出して何もわからないうちに死んでしまいたい衝動に駆られる

それをしなかったのは、目の前を悠然と歩く一人の女性が目に入ったからかもしれない

単純に恐怖で喉さえも声を出すという動作ができなかっただけかもしれない

だが少なくとも、彼女達は死ぬことは無かった


なぜなら




「・・・許さないっ!」




両手に美しい鉄色の剣を構え、地面に垂らすようにして構えるアリサが、下級悪魔レッサーデーモンを前に堂々と立ち向かっていたから

目に見えるほどの怒りを全身から発する彼女の姿は、下級悪魔レッサーデーモンでさえ怯ませるほどの気迫を放っている




一瞬後、青白い光が彼女から放たれた瞬間、下級悪魔レッサーデーモンの体にそれが吸い込まれるように突き刺さり、その岩のような黒い肌を爆発させるようにして抉り取った


下級悪魔レッサーデーモンが地響きのような泣き声をあげ、その表情を怒りに染めてアリサを睨み付ける


そのころにはアリサはすでに飛び上がり、下級悪魔レッサーデーモンの目の前に跳躍し、両手に構えた剣を振りかぶっていた


「・・・ハッ!」


下級悪魔レッサーデーモンの血飛沫が舞い、悪魔と人間の戦いが始まった

タイトル通り「開戦」です、戦闘なのです

しばらく戦闘描写が続く予定ですが、何分自分の表現力では読者様のイメージを沸き立たせることができるかどうか・・・


暖かい眼差しで鼻で笑いつつ見守ってください


今後ともよろしくお願いします

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