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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第六章「収束」
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動き出す世界

いつもお読みいただきありがとうございます


閑話に近いけど一応本編なお話です


グラハルトもアリサも出てきませんけどよければどうぞ

霊峰と呼ばれる地域がある


高く、険しく、道らしい道も存在せず


それだけでも厄介な場所であるのに、そこには魔物が生息している


環境に適応できるだけの能力を持った魔物が


環境のせいで少ない食料を奪い合う魔物達が


生存競争を生き抜いた・・・いや、今も必死に生き抜いている強力な魔物達がいる


人間がそこに入り込む余地など無い


文明を築く時間は愚か、ただの一日、半日でさえも生き延びることが難しい場所


霊峰と呼ばれるその地域で、生きている存在の中に人間という種族はいなかった



――――――――――



『ほう・・・人間か』


言葉だけで他者を圧倒するような気配を纏わせ、ある存在がそう言葉を放った

厳密に喋ったわけではなく、テレパシーのようなものに近い

しかしそれも当然と言えば当然だった

なぜならその存在は、とても人間の言葉を話せるような口の形をしていなかったからだ


「ああ、なかなか苦労したよ

まぁしかしあなたに会うためには仕方ないからね、そうだろう?


古龍エンシャントドラゴンアレクタリウス』」


アレクタリウスと呼ばれた存在は、鼻をふんと鳴らした

それだけの動作であるのに、突風のような風が巻き起こる


『その名前で呼ばれるのは久しぶりだな』


そう答えた存在は、まさにドラゴンだった


腕だけでも人間の横幅より太い

体にいたってはその小規模な5階建てのビルくらいはありそうな巨大さだ

まるでティラノサウルスの首だけ長くなったようなその体の表面は、赤黒い鱗に覆われている

背中に生える巨大な悪魔のような翼を持ってしても、その巨体を持ち上げられるところは全く想像できないだろう


そんな巨大なドラゴンは、山の頂に広がる広大な平地に、伏せるようにして一人の人間と会話をしていた


『一体人間が何をしにきた、今更戦えと言うつもりでもあるまい?』


そのドラゴンと相対する一人の人間は、この世界にあって異様とも言える顔立ちをしていた


日本人的な黒目黒髪、学生のトレードマークとも言える学生服

その上に銀製の胸鎧ブレストプレート足具グリーブ手甲ガントレットを装備した、軽装と言うには若干不安な装備をしている

しかしその装備の一つ一つが、ただの銀製品で無いことは魔力をそれなりに操るものなら一目でわかるだろう

さらには背負った大剣が、その細腕からは持つことさえ疑ってしまうほど重量を感じさせる

重量だけでなく、特殊効果の宿った強力な装備だと一般人でも理解できそうな代物だった


そんな装備に身を固めた人物は、ドラゴンという圧倒的強者に怯えることなく、語り始めた


「ああ、自己紹介がまだだったね

僕の名前はケビン、こっちの世界ではケビン=デュラスと名乗ってるよ

向こう側の名前は・・・いるかい?」


ケビン=デュラス


かつてアレックスに異界からの来訪者であることを告げた男が、一人ドラゴンと話をしていた


『向こう側・・・なるほど、「ダウンロード」されてきたわけか』


ただそれだけで彼が異界の人間だとドラゴンは気づいたようだった


『向こう側の人間が俺に何の用だ?

もう戦争は終わったようなものだろう、今更出て行くには・・・時間が経ちすぎた』


ふっとケビンではなく、空の彼方へと視線を向ける

その表情は哀愁を感じさせ、まるで「人間」のような感情を晒しだしていた


再構築リ・コンストラクション


ケビンが放ったその言葉に、ドラゴンは改めてケビンへと視線を移す


『・・・ふん、もう十分すぎるほど生きた

かつての仲間はもうほとんど残っちゃいない・・・

勝手にやってくれって感じだよ』


だがそれも一時のことで、その言葉を言うとすぐにまた明後日の方向を向いてしまう

その目には、寂しさという感情が感じ取れる


ケビンはそれを気にした風もなく、さらに言葉を続けた


「それがかつての世界を変える可能性があるとしても・・・かい?」


ドラゴンはピクッと体を反応させ、再び視線をケビンへと移す

その目には先ほどまでには無い、希望のような力強さを感じられる


『・・・どういう意味だ?』


「それは――――――――――」


突然、突風が吹きつけた

轟々と音を鳴らし、会話どころか立っているのも辛いはずの強風

ケビンの言葉は、強風に吹き飛ばされて誰にも聞こえなかった


ただ「一人」


あらゆる生命体の頂点に存在すると言われている、目の前のドラゴン以外には


『ふ・・・ははは』


ドラゴンのテレパシーからは、心底愉快そうな感情が伝わってくる

それは決して馬鹿にしたような感情ではなく、純粋に喜んでいる歓喜の感情だった


『はははははは!いいだろう!

その話に乗ってやろうじゃないか!』


ドラゴンはその巨体をゆっくりと起こし、後ろ足で立ち上がる

空気を大きく吸い込みながら顔を持ち上げていき、顔を天空へと向ける


「――――――――――ッ!!!!!」


空間が弾けるような咆哮を上げ、霊峰と呼ばれる一帯全てに大音響の叫びが響き渡った


『小僧!

剛龍アレクタリウスの名において!

この霊峰に存在する我が眷属全てが協力してやろう!』


その言葉に反応するようにして、周囲に風が吹き荒れた

それは翼をはためかせ、圧倒的な量の空気を押し出したせいで生まれる風

一つ、また一つ、どんどん増えていくその風の流れは、ある存在が集まっていることを意味していた


「これはまた・・・圧巻だね」


やがて周囲に集まってきたのは、他でもないドラゴンの群れだった


一頭や二頭でも脅威と言われる存在の群れ


その数たるや、実に三十頭を超えていた


普通の人間がその光景を見たならば、この世の終わりに見えたかもしれない・・・




大量のドラゴンの咆哮が、霊峰を震え上がらせた



――――――――――



場所は変わり、どことも知れぬ森の奥地


やはりここもまた、人間という存在が足を踏み入れることはできないような場所


その場所にあって、集落を築いている集団がいた


ただしそれは、人間という存在ではない


「エルフ」と呼ばれる、巨体の頂点にいる存在に対し、人間大のサイズの頂点にいると言わしめる存在だった


さらにその集落の奥地、祭壇のような場所で、神像のようなものに祈りを捧げる一人のエルフがいた


「・・・そう、デュラン=マクスウェルがそう言っていたのね」


その言葉に返事をしたのは、祈る姿を後ろから見守る別のエルフだった

緑色の髪の毛が肩甲骨あたりまで伸びており、毛先が若干カールしている

スレンダーな体系とあいまって、モデルのような美しさを持つ美女

リリーナ=クレセント

学園長やレディの父親と同様、精霊の試練を乗り越えた世界レベルで有数の実力者がそこにいた


「はい、お婆様

遠からず決戦の時を迎えるであろうとのことです」


お婆様と呼ばれた女性は、お婆様という言葉が全く似つかわしくない容姿だった


見た目20台の後半に差し掛かったようにしか見えないその顔立ち

美しい金髪はさらさらと流れるようにキメ細やかで、光を反射して輝いているようにさえ見える

肌も、体系も、とてもお婆様と呼ばれるようには見えない

しかし彼女こそ、このエルフの集落において長の立場を務め、齢500歳を超える最年長な存在であった


「・・・いいわ、私たちも向かいましょう」


膝を突き、聖職者が祈るようなポーズをしていた彼女は、すっと立ち上がる


振り返ったその姿から、500歳という年齢を感じることは誰にもできないであろう


「リリー、あなたに指揮を任せます

戦えるもの全てを連れて、決戦に向かいなさい」


「はい!」


深くお辞儀をし、リリーはすぐさまその場を後にする


一人残ったエルフは、再び神像を肩越しに見つめ、誰にでもなく一人呟いた


「初代よ・・・この戦いが未来へ続くことを祈らせてください・・・」




祭壇から石のアーチを潜り、集落へとリリーが足を進める


進むは集落の中央、演説をするような壇へ向かう


迷い無く真っ直ぐ進む歩きは、迷いなど微塵も存在しない


決戦という、生が死を生み出す場へと向かうというのに、躊躇いも戸惑いも存在しない


ただ悠然と、ただ真っ直ぐに、ただ己の言葉を伝えるために


リリーは壇上へと向かう


壇上に立ったリリーは、壇の向こう側を、待ち構えていたたくさんの仲間を見る


ある者は剣を、ある者は槍を、あるいは弓を、槍を、杖を


戦う意思を全身から発する「戦士」達を・・・


言葉はたった一言だけで十分だった


リリーはここまで歩いてきたときと同じように、迷いなく、真っ直ぐに言葉を放つ




「・・・戦いの時は来た!!!」




エルフ達は静かに闘志を剥き出しにする


騒ぐでもなく、叫ぶでもなく、ただ静かに・・・静かに・・・

着々と周囲は動き始めていますよ、というお話です


終盤に向けて盛り上がってきたー・・・と見せかけて彼らが再登場するのは大分先だったりして(笑)


実は終盤じゃなかったり?え、まだ中盤じゃね?っていう状況だったり?したりしなかったり?


今後ともソウケンをよろしくお願いします!




※誤字脱字ありましたらそっと教えてください・・・

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