閑話・冒険者という存在1
いつもお読みいただきありがとうございます
前回同様、長くなってしまったので2話に分けることにしました
月曜日にはもう一話あげられるかと思います
それではどうぞ
20XX年
某所
魔物の出現から1年後
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タタタンッ
ズンッ
ズドン
夕焼けが美しい平原に、銃声と爆発音が連続で鳴り響いていた
どんな時代、どんな場所、どんな形でも必ず存在していた忌むべき行為
戦争
決して無くなることのないその行為は、ナノマシン技術が確立され、人間の生活を限りなく豊かにしたこの時代にも存在していた
ただし、争っていたのは金や権力を求めて戦う「人間」相手ではなく、ただ本能のままに人間を殺そうとする「魔物」と、だった
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「こちら第一小隊!ゴブリンの一団を発見した!至急応援を頼む!」
「こちら第二小隊!オーガの出現を確認!繰り返す!オーガの出現を確認した!」
平原のとある場所で、濃い緑色のテントが多数展開されている軍隊の駐留所があった
その数あるテントの中の一つ、司令室なのであろう場所で、通信設備から入ってくる部下の情報に苦い顔をしている男がいた
その男は簡単な指示だけを出し、部下に指令を任せ、別の通信機に向かって怒鳴りはじめる
「ああ!だから無理だって言ってんだろうが!
ゴブリンの団体さんにオーガまで出てきやがったんだ!
この場所はもう持たねぇって言ってんだろうが!さっさと撤退命令出してくれよ!」
この世界に魔物が出現してから1年が経過し、世界は大きく変わっていた
魔物達は総じて身体能力が高く、最低のものでも単体で虎や象を殺せるような能力を持っている
その上生命力が異常に高く、銃弾を数発食らった程度ではまったく動じない
おまけに皮膚が硬いものが多く、下手をすればそもそも銃弾を弾くような固体までいるのだ
なにより、魔物達は全てが全て、「人間」を敵と見なしている
彼らにとっての人間は、殺すか食らうかの2つしか選択肢が無い生物に見えているのだろう・・・
「―――――――!!!」
顔の見えない通信機の向こう側と話している間に、更なる報告があがってくる
その言葉を聞いた男は、さらに怒鳴る声を大きく、強くして叫んだ
「あぁ!?応援が来るまで持たせろだぁ!?
今最後の戦車がオーガにひっくり返されたとこだぞ!
こんな状況でどうやって持たせろってんだよ!?」
魔物の強さは人間が対抗できるレベルでは無い
それは一般人はもちろんのこと、銃を持った軍隊でも例外では無い
対戦車ライフル、砲弾、ミサイルといった大掛かりな装備を持ってして、やっと倒せるかどうかというレベルであった
魔物の中でも弱い部類、と言われるゴブリンでさえ、自動小銃では無傷で倒せる軍人はいない
オーガともなれば、戦車の砲弾を撃ち込んでも一撃で倒せるわけではない
そんな相手に対し、その戦車が全て無くなったという状況はもはや絶望以外の何物でもなかった
「30分だぁ!?
その応援ってのは使えんのかよ!?」
『――――――――――』
「あ?「冒険者」?なんだよそりゃ!?
もういい!30分だな!?30分持たせればいいってんならやってやる!
使えないヤツらだったら撤退するからな!」
男は通信機を乱暴に切り、苛立ちを隠そうともせず部下へと向き直る
しかしその態度とは裏腹に、頭は至極冷静なようで無意味な指示をするようなことはなかった
「全体に通達しろ!
30分後に援軍が来る!それまでどうにかして敵をひきつけろ!」
その命令を受け、通信設備に向かっていた人間達が一斉に通信を始める
さらに男が各隊に向かって個別に指示を出し始め、可能な限り犠牲を出さないように的確な命令をしていった
態度も言葉遣いも悪そうな人物ではあるが、誰も彼に逆らおうとしない
きっと彼の「犠牲を出さない」という姿勢が、信頼という見えないものを部下に与えているからなのかもしれない
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30分後
第一小隊
「くそっ!援軍はまだか!」
第一小隊を預かる隊長の男はそう愚痴っていた
実際に30分で援軍が来る、ということを信じたわけではない
しかしこのまま戦闘を続けても、どれほど持つかもわからない、きっかけさえあれば今すぐにでも全滅するかもしれない
むしろこの30分間を持っただけマシであったと言えるような状況だった
そんな状況にあれば、誰でもそう愚痴を言いたくなるというものだ
「援軍など!30分で来れるはずがっ・・・」
「来れるんっすよねぇ、これがまた」
「えっ!?」
隊長がさらなる愚痴を続けようとしたとき、不意に後ろから声がした
彼が後ろを振り返ろうとしたとき、突然風が彼に吹きつけ、思わず目をつぶってしまう
目を開けた時、そこには誰もいなかった
しかしそれは、「そこ」にいなかっただけで、声の主は別の場所にいる
「おるぁあああ!!!」
自分たちが相手をしていたゴブリンの集団
それがいた方向から叫び声が聞こえ、隊長はバッとそちらに顔を向ける
「なっ・・・なんだあれ・・・」
顔を向けたとき、最初に目に入ったのはゴブリンが空を飛ぶ姿だった
ジャンプしているわけではなく、声の主が吹き飛ばしたのだと理解するまでに時間がかかってしまう
それもある意味では仕方ないと言えるだろう
なぜならその声の主は、銃でも無く、ミサイルでも無く、特別な何かを使ったわけでは無かったから
その男はアニメやゲームの中でしか出てこないような、2メートルほどもある巨大な斧を振るっていた
なにより、その男自身がまるでアニメやゲームを見ているかのようだった
全身が黄色い毛に覆われ、黒い縞模様がところどころに入っている
さらに頭の上にはピョコンとかわいらしい猫耳らしきものが生えており、腰の少し下あたりからは尻尾のようなものも生えている
何より顔がまさに特徴的で、少なくともその姿を見て「人間」と認識できたものはいないだろう
男は、虎だった
虎が二足歩行しているような、人間が虎化したらこんな感じだろうというような風貌をしている
少なくとも隊長の男は、そんな「人間」を見たことが無かった
なにより彼を「応援」だと判断することは、彼だけでなくその場にいた全員ができなかっただろう
「お・・・お前は・・・?」
隊長がやっとの思いで出した言葉は、それだけだった
「俺か?俺は応援部隊のモンっすよ
今回は俺ら「冒険者組」が派遣されたっすね、他の部隊ンとこにも今頃行ってるハズっすよ?」
見た目は虎で怖い顔つきの男から聞こえた言葉は、20代の若者が使うような軽い言葉だった
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「こ・・・こちら第二小隊!
突然現れた蛇のような男がオーガを殲滅!応援部隊と名乗っています!
確認をお願いします!
蛇のような「俺はドラゴンだバカ野郎!」失礼!ドラゴンのような男が・・・」
司令室は混乱していた
各隊からあがってくる報告が、どれもこれも信じられないような状況ばかりだったからだ
ある隊はドラゴン男に助けられ、或いは虎男に助けられ、耳の長い美人(本人はエルフと名乗っているらしい)に助けられただの
火を吐いてゴブリンを焼き払っただの、巨大な斧で吹っ飛ばしただの、風が吹いたらゴブリンが細切れになっていただの
応援部隊の隊長を名乗る男が目の前にいなかったら、指示をしていた男は全員狂ったかと疑ったことだろう
疑わなかったのは、目の前にいる男の姿がまさにその信じられないような状況だったからである
普通の人間の、どこにでもいるような普通の身長に普通の体型、顔立ちもカッコいい部類なのだろうが、特に特徴も無い普通の顔
しかしその頭には、人間ではありえない青色の髪の毛、その隙間から人間には絶対に存在しない「角」が生えている
彼を目の前にしてしまえば、不思議とあがってくる報告にも納得できてしまうのだった
「・・・我々は先発隊です、後発隊は明日に到着します
こちらの戦況が落ち着くまでよろしくお願いします」
まさに「鬼」のような彼は、落ち着いた声でそれだけを言って司令室を出て行った
「・・・あれが「冒険者」・・・か」
どうして急に冒険者が出てきたかは次回で説明します
誤字脱字ありましたら報告していただけると助かります