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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第二章「過去編」
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出会いまでの道

「彼女」は祝福されてこの世に産まれた


「彼女」は祝福されるべくしてこの世に産まれた。


「彼女」は祝福をもって歓迎されるべきだ


「彼女」はあらゆるものに祝福されるべきだ


「彼女」は虹色の輝きを目に宿していた



――――――――――



「彼女」が目を開けたとき、まず両親をその目に捉えた

そのとき両親は「彼女」の目の輝きを捉えた。


両親は「彼女」を祝福をもって歓迎した


やがて両親の仲間がやってきて、虹色の輝きを知った

両親の仲間もまた、祝福をもって歓迎した


やがて村中の人間が「彼女」を知り、全ての人間が祝福した


人間だけではない


あらゆる動物が祝福した

あらゆる植物が祝福した

あらゆる精霊が祝福した

大気や大地でさえもが、彼女を祝福し、歓迎した



――――――――――



やがて五年が経ち、「彼女」は愛らしく育った


虹色の輝きが彼女を支え、「彼女」は神童と呼ばれた


やがて十年が経ち、「彼女」は美しく育った


その美しさは周辺の村に伝わり、大きな街に伝わり、やがて王国にまで伝わった


「虹色の目を持つ絶世の美女」として・・・


それは一人の貴族の耳に入り、貴族は「彼女」のもとへとやってくる


そして貴族は「彼女」の美しさに心奪われ、「彼女」に愛を捧げ、求婚する


だがそれが受け入れられることはなかった


貴族はさまざまな贈り物をした


花束や宝石に始まり、ドレス・装飾品、果ては豪邸を建ててプレゼントするとまで言い出した


だが「彼女」はその全てを受け取ることはなかったし、貴族の愛を受け入れることも無かった


貴族は「彼女」に問う


「何故我が愛を受け入れてはくれぬのか?」


「彼女」は十歳とは思えぬはっきりした声で答えた


「だってあなたの愛はあなたのご両親のお金で得たものだから。

あなた自身の力で得たもの以外は私にとって愛の証になりはしない」


貴族は「彼女」の言葉で自らの愚かさに気づく


自分はなんと浅はかであったのかと、なんと愚かであったのかと、「彼女」を含めた世の中の女性をどれだけ見くびっていたのかと


貴族は「彼女」の前から姿を消した


そして貴族は一つの決心をする


いつか「彼女」に認められるほどに強い自分になろうと

自らの力で様々なものを手に入れられる存在になろうと

「彼女」にこの世で最高の贈り物を、自らの手で掴み渡そうと


貴族は家督も私財も全て捨て、家を飛び出した


愛のために全てを捨てて生きていく決心をしたのだ



――――――――――



そして一年後


貴族は死体で発見される


死因も原因も不明、なぜそんな場所で死んでいたのかさえわからない


これに怒ったのは貴族の両親であった


両親はあらゆる手を使い、息子の死んだ理由を探った


部下に調べさせた


ギルドに依頼も出した


直接出向いて話を聞きに行ったりもした


だが両親が理由を知ることはついに出来なかった


そんなときにある情報が両親に届く


貴族が死んだのは、ある女性が原因なのだと

その女性は貴族が惚れていたのを疎ましく思い、彼に無理難題を押し付けたのだと

まさに無理難題であるその条件は人には到底叶えられるものでは無いのだと


貴族はその難題を果たすべくあの場に向かい、そして命を落としたのだと


貴族は彼女に殺されたようなものだと


その女性は、目に虹色の輝きを持つ女性なのだと・・・


両親は怒った


我を忘れるほどに怒った


誰がその情報をくれたかもすでに覚えていない


両親は「彼女」をどうやって苦しめるか、どんな罰を与えるか、それ以外に考えることはなかった



――――――――――



やがて「彼女」の村に、王国の神官と名乗る集団が訪れた


神官は言う


「我らは国王の命により虹色の輝きを探しに参った。

国王自ら祝福を与えたいとのお話だ。

国王は多忙ゆえにご足労願いたい。」


国王自らの祝福に、村の人間達はすぐさま「彼女」を送り出した。


「彼女」も国王の話を無下にはすまいと、すぐさま村を発った


だが・・・、そう「だが」と続いてしまう


神官たちは貴族の両親が送った者達で、「彼女」を苦しめるための一手であった


「彼女」が向かったのは王国ではなく、地獄だった・・・


やがて「彼女」は野盗に襲われてしまう


神官達はやられたフリを、あるいは逃げ出し、「彼女」を置き去りにしてしまう


野盗に捕まった「彼女」は奴隷に身を落としてしまう


虹色の輝きをもった「彼女」は非常に高い値段が付いたが、それでもと言う人間は後をたたなかった


やがて彼女を買い取られた


買った人間は他でもない


貴族の両親だった


「彼女」は使用人の一人として働かされることになったが、それからが本当の地獄だった


貴族の両親は「彼女」をいじめた

肉体的にも精神的にも

たとえ心が壊れようとも「彼女」はいじめ続けられただろう


純潔を汚されることが無かったのは奇跡といっても良い


その後二年に渡り、いじめは続いた


体も心もボロボロになり、虹色の輝きと祝福の恩恵によってギリギリの精神状態を保ってはいたが、限界が来ていたある日のことだった


その日はたまたま屋敷の人が少なかった、なんでも有名な人が来るらしく、そちらに人手を割いているようだった


今日はあまり殴られないで済む等と思っていたが、ふとあることに「彼女」は気づいた


今なら逃げられる・・・


彼女は逃げ出した、精霊が、動物が、植物が「彼女」を助けた

虹色の輝きが逃げる方法を理解し、助けた


彼女は屋敷を抜け出し、外へと飛び出す


外は雪が降っていた・・・

ボロボロになった布切れを纏っているだけの「彼女」にはつらい寒さだったが、そんなことを気にしている余裕はなかった


屋敷の中では「彼女」がいなくなったことに気づき始める頃だ

いつ追手が来るかわからない。


戦う術を知らない彼女は、追手に捕まったらどうしようもない


「彼女」は雪の中を歩き出した


大通りにはたくさんの人がいた、みんな誰かに向かって何かを叫んでいる


奴隷の自分が出ていっては目立ってしまうが、気になってしまった「彼女」はこっそりと大通りを見る


見えたものは、たくさんの騎士達が揃って歩き、その後ろからゆっくり動く屋根のない馬車に乗った、ごてごての悪趣味なほど輝く装飾のついた服を着た、豚のような男だった


彼女はその光景を見て理解する


あぁ、これがこの世界なんだ

私達はあんな豚に支配されているんだ

私達は豚に逆らえないんだ

例えここを抜け出しても、一生あの豚に怯えて生きていくしかないんだ




「彼女」が人生を諦めかけたとき、一陣の風が吹いた


金の模様をした黒い犬が、大通りを駆け抜けていた


騎士達を吹き飛ばし、重力など存在しないかのように高く跳躍し、豚の前に着地する


犬は豚と何かを話しているようだが聞き取れない

豚がひどく焦っているのだけはわかったが、何をしているのかまったくわらない


そして


豚は犬に殴り飛ばされた


豚は馬車から吹っ飛び、地面を転がり気絶する


周りは静寂が広がり、誰もが何が起こったか理解しようとしている


だが「彼女」は追手が近くにいるのを見つけたため、この後何があったかは知らない


「彼女」は先ほどの光景を思い出しながら逃げる


「凄い、凄い凄い!」


世の中にはあんな人がいるのだと理解する

世の中には権力に屈しない人がいるのだと理解する

世の中にはあんなに強い力を持った人がいるのだと理解する


知りたい、世界を知りたい、「彼」のことを知りたい


そのためには捕まるわけにはいかない

逃げ切って見せる、この街から、あの豚から、私の人生を狂わせたこの場所から



――――――――――



「彼女」は雑多なものが転がる路地裏に逃げ込んでいた。

裸足で走り回ったせいで、足からは血が出ている

体力ももう無い。

回復するまでこのまま隠れてやり過ごすしかない・・・


そう考え、できるだけ身を小さくして縮こまっていた


不意に足音が近寄ってくる、雪を踏みしめる音が聞こえ、こちらに向かってきている


もう動けない


最悪は自殺するしかないかと覚悟を決め、足音のするほうをじっと見つめる




建物の影から、足音の主が現れる


(・・・あっ、・・・この人・・・)


現れた男は、豚を殴り飛ばした犬だった。


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