狼人族の掟4
※注意
この話には残酷な描写が入ります、R18まで行くのかな?R15でいけるだろうかな?意外と平気な感じかな?程度ですが入ります
そういった部分が苦手な方は、軽く読む程度にしてください
そういう方も、がっつり読んでやるぜ!な方も本編をどうぞ
「おじちゃん大丈夫?」
開け放たれた窓からそんな声がした
活火山の麓にあるこの集落は暑い
暑さに弱いバスカーは客室用のテントの中で横になっていた
マキアの奥技伝授の儀式まで時間があるため、少しでも涼しい場所で休んでいたのだ
そんな時に、その少女は現れた
見れば赤い髪をした10歳にも満たないであろう少女がいた
マキアと同じ赤い髪を頭のてっぺんで纏め、炎のように真上に向かって立てている
その髪が少女の顔の動きに合わせて左右に揺れているのが可愛らしい
「あ゛~、ダメだ
おりゃぁ暑さには弱くってよぉ・・・
あと俺はおじちゃんじゃねぇ、まだ20・・・21歳になったばっかだ」
屈託の無い笑顔をバスカーに向けて、少女は歌うように話す
「21歳~♪
私はえーっといち、にぃ、さん、しぃ・・・8歳!
だから~えっと~いくつ離れてるのかな?」
少女は終始笑顔のままで話し、子供特有の無邪気さを全開にしている
将来は美人というより可愛いと言われそうな、少し丸みを帯びた顔立ちだった
「13だろ
・・・っつか何のようだ?」
「えっとね!あのね!キラキラを集めてたの!
そしたらね!おじちゃんが見えたの!
みてみて!きれいでしょ?」
「おじちゃん言うな・・・気にしてんだよ」
「きゃー怖いかおー」
きゃっきゃっという擬音が聞こえてきそうな少女の態度
それがバスカーには不思議と心地よく感じられた
思えば子供と触れ合ったことなどどれだけあっただろうかと思い出そうとしてみる
そしてそんな記憶が全く無かったことを思い出し、軽く落ち込んでしまった
つまり、どうすればいいかわからない
しかし少女はそんなことは知らないとばかりに、全く物怖じせずにバスカーに話しかけてくる
「・・・バスカーだ」
「うぬん?」
「俺の名前はバスカー
バスカー=ギルデンスだ・・・
うぬんってなんだよ」
「ばすかーさん!」
まだ日が昇りきっていない午前中
何気ないただの会話
バスカーが覚えている限り、人生で一番穏やかな時間だった・・・
――――――――――
「ぬうぁああぁっしゃらぁああ!!!」
巨大な鎚が振るわれ、一人の男を弾き飛ばす
魔法によって水を浴び、炎と化すことができなくなった男がそれをくらう
骨が折れる嫌な音をたて、地面を転がる男が立ち上がることはなかった
今の男で五人目
バスカーはすでにそれだけの人数を殺していた
戸惑いはある、躊躇もある、殺さないで済む方法があるなら今すぐに飛びつくだろう
だが冒険者として鍛え上げてきた己の肉体は、無関係に全力でその鎚を振るっていく
語られた過去を思い出しながら、それでも手を止めることはしない
『ライアンはこの世を滅ぼそうとしている』
レディが水の魔法を放ち、広範囲にそれを撒き散らす
『そのためには人数が必要だ、それもとんでもない数がな』
一番近くにいた者に近づき、鎚を振るう
『特に炎鬼族のように強力な種族は、彼にとって好都合だったんだ』
鎚にぶつかった者が吹き飛び、地面を転がりながらぐったりとして動かなくなる
『きっと世界中の色んな種族が、同じようなことをされているはずだ』
「許さねぇ・・・」
バスカーの殺気が膨れ上がる
それに惹かれるようにして、周囲の炎鬼族がバスカーに近づいていく
「ぜってぇ許さっ!?」
振り返り、その鎚を振り下ろそうとした瞬間
目の前にいた人物を見て動きが止まった
そこに立っていたのは、一人の少女だった
他の者達と同じように、虚ろな目をしてふらふらと歩いている
頭のてっぺんで纏めていた髪はおろされている
だらしないと言えるほどに服は乱れ、ふらふらと歩く少女の姿はまるで浮浪児のように見える
「あ・・・あ゛ぁ・・・?」
バスカーの口から声にならない音が漏れ、それが自分の口から出た音だとさえわからない
「あ・・・あああ・・・うあ・・・」
「バスカーっ!今たすけっ「待て」・・・止めるなグレイ!」
「アレックス、ダメ
・・・あの子はバスカーじゃないとダメ・・・」
動きの止まったバスカーを助けようとしたアレックス
しかしその動きはグレイに止められる
アレックスはそれでも向かおうとするが、アリサの言葉に止められ、やっと動きを止める
「お・・・俺は・・・俺が・・・殺すのか・・・?
お前は・・・俺が・・・俺が?なんで俺が殺すんだ?
俺は何を・・・何で・・・」
自分を見失いそうになるバスカーだが、それも一瞬だった
少女が口を動かしたからだ、ほんの少し、一瞬だけ、一言だけ・・・
「コ・ロ・シ・テ」
気がつけばバスカーは鎚を振るっていた
全力で振り下ろした一撃
少女の体では、到底耐えられない攻撃
鎚の能力によって、雷を纏い、クレーターを作り出すほどの強力な一撃
鎚の下にははみ出した手だけが彼女がそこにいた証をたてている
血が流れ、水溜りを作り、この鎚を持ち上げればそこには凄惨な死体が一つできているのだろう
「う・・・あ・・・あああ・・・ああああ゛あ゛あ゛!!!!!」
バスカーは泣いた
誰もそれを止めなかった
彼を守るように、この瞬間を邪魔されないように、ただ誰も近づかないようにするだけだった
「ありがとうおじちゃん」
きっとそれは幻聴
あるいは自分の罪を正当化させるための、バスカーの妄想
だがそれは、門番の女性がそうだったように
周りで倒れている死んだ者達のように
笑顔で死んでいった彼らのように
きっと今の彼女が言葉を出すことができたなら、きっと言ったはずの言葉
バスカーには、その言葉が届いた
「馬鹿野郎・・・だからガキは・・・どうすればいいかわかんねぇんだよ・・・」
やがて涙は枯れ、瞳は別の輝きを放ち始める
白目は赤く染まり、目は夜の獣のように金色に見える
ざわざわという音と共に、体に体毛が生え、兄のように狼の姿へと変化していく
「ガルル・・・」
顔が狼の顔に変化し、その口からは獣の唸り声が聞こえてくる
やがて完全に狼人と化し、存在していなかった耳と尻尾が生えてくる
「ウオオオォォーーーーーン!!!」
完全な狼人と化したバスカーが立ち上がる
青い体毛が、パチパチと電気を纏い、それに呼応するようにして鎚が淡く発光しはじめる
「バスカー・・・?」
兄はそれを見て、思わず呻く
過去に起こったそれを思い出し、最悪の事態を想像してしまったために、声をかけずにはいられなかった
バスカーの兄の態度から、一番最初に察したのはグレイだった
「まさか・・・暴走ですか?」
「・・・前はそうなった」
言った瞬間
バスカーはギロリと二人のほうを睨み、殺気を二人にぶつけてくる
とっさに身構え、最悪殺す必要があるかとさえ考えたときだった
「暴走しちゃいねぇ」
いつもどおりのバスカーの声だった
顔が変わったせいなのか、ただでさえ低い声がさらに低くなったような気はするが、それでもバスカーの声だった
「・・・が、力を抑える自信がねぇ
わりぃが少し離れててくれ」
バスカーはそう言って、前方を見る
集落の祭壇があった方向、つまり洞窟の奥
すぅっと息を吸い込み、気合を込めて鎚を構える
そして
気合の掛け声と共に鎚を振るい、技の名を言う
「おおおおおおおりゃああああああ!!!トオォーーールハアァンマアアアアーーー!!!」
雷撃が体中から放たれ、それが鎚に吸い込まれていく
鎚は振り下ろされると同時に、その雷を一気に解き放ちバスカーの向く方に飛び出していく
まるで雷が落ちるように、一瞬で全てを焼き尽くしていく
縦ではなく横に落ちる雷
圧倒的なエネルギーが洞窟内を走り回り、全てを終わらせていく
「ブハハハハ!雷撃のバスカー!炎鬼族の願い、この俺が受けてやる!」
青い体毛の狼人が一人、泣き顔を誤魔化すようにして高らかに笑っていた
「・・・マキア忘れてるでしょ」
「あ゛」
的確な突っ込みを入れたのは言うまでもなくアリサだった
ここまで読んでいただきありがとうございます
バスカー覚醒のお話でした
唐突なお話で後付けっぽい内容なのですが、以前からやろうとは思っていたんです、ええそうなんです
思ったよりも炎鬼族の掟編が文字数多くなったので入れなかったんです、はい
文才が欲しい
若干グダグダになりはじめた(前からか?)こんな作者ですが、今後ともソウケンをよろしくお願いします