狼人族の掟3
ちょっとご都合主義的な展開に加え、駆け足での説明、さらには後付けっぽくなってしまったバスカーの怒りの理由の説明でございます
説明回なので面白い内容ではありませんが・・・
本編をどうぞ
「兄貴、詳しく聞かせてくれ」
炎鬼族の集落へと続く道を走りながら、バスカーは見た目が全く違う兄に問いかけた
「契約について、だな?」
それに対して、兄と呼ばれた狼が二足歩行したような、青い体毛の男が答える
「我々も聞きたいですね、契約はもちろん、我々が何をすべきかを」
グレイが聞きたい内容を補足する
「少し長い話だ、要点だけ話すぞ」
「頼む」
風のように走りながら、アリサ達は彼の言葉に耳を向ける
――――――――――
かつて炎鬼族は、滅亡の危機にたたされたことがあった
実に現代から数えて300年前
人間に謂れのない罪を押し付けられ、一つの国と戦争をしていた
炎鬼族の強力な特殊能力を持って、最初こそ善戦していた
しかし人間達の膨大な数と、炎鬼族が抱える水に弱い(正確には水を被ると炎鬼化できなくなるだけで、水系の攻撃に弱いというわけではない)という決定的な弱点が致命的となり、いつしか炎鬼族はその人数を劇的なまでに減らしたのだという
最後に生き残った人数は、世界中全てに散らばった数を合計しても、2桁を超えることは無かったという
さらに人間からの迫害は消えることなく、炎鬼族というだけで殺され、捕らえられ、隠れるようにひっそりと生きるしかなかった
そんな時代、ライアン=ローレンスが現れた
彼は炎鬼族の者達に救いの手を差し伸べ、世界中の人間達から彼らを守った
ついには炎鬼族の罪を謂れのないものである、と確固たる証拠と、その罪の模造を行った者達を世間に公開した
それによって人間達と炎鬼族の仲を取り持ち、やがて炎鬼族が世間に認められるまで尽力したという
当時の炎鬼族の長を務め、現代に残る全ての炎鬼族の祖先となる女性はこれに感謝した
感謝してもしきれないほどの感謝として、彼女はライアンとある契約を交わしたのだという
それは彼女達からすれば当然と言えるものであった
彼女達でなくとも、同じような境遇になったものなら必ず同じような内容を言ったであろうという約束
何も返せない者達が、唯一約束できる未来への契約
「あなたが私達を必要としたならば、我々は全力であなたを助けます」
受けた恩を返す
だが今すぐに返せるような何かを持っていない
ならば未来へ
恩に値するほどの何かを手に入れたならば、そのときこそ返すという約束
彼女は当然のごとくそれを約束した
それが間違いであったと、考えることさえ無く
ライアン=ローレンス
それは万物の才能を持つ存在
その力を持ってすれば、あらゆる計画は成功へと導かれる
彼はこの時、すでに未来への計画を整え、それを実行している途中だった
炎鬼族の滅亡と、自分がそれを救ったという事実
それは彼の計画の一部でしかなかった
未来への約束は、彼の魔法によって明確化された
肉体に魔法を刻み込み、ライアンの呼びかけに答えて必ず実行するようにと
ライアンへの従属と、同じ契約をしたもの達への無条件での協力、それが魔法によって明確に刻み込まれる
それは親から子へ、子から孫へと受け継がれ、決して消えることのない呪いとなって炎鬼族を捕らえた
そして月日は流れる
――――――――――
「なんじゃそりゃ、普通にいいヤツじゃねぇか」
話の途中で、バスカーが兄に声をかけた
かけずにいられなかったというのが正しいだろう
なぜならもう炎鬼族の集落は目の前にまで迫ってきているのだから
「最後まで聞け・・・と言いたいが、言ってる暇がないな」
もう数十秒も走れば、門をくぐって集落の中へと入る
そうなれば戦闘が否応無く始まり、会話などしている余裕など無いだろう
それを察してか、バスカーの兄は速度を緩める
「・・・初代族長の死後、次代の族長がその話に違和感を感じて調べたらしい
その結果・・・」
言いよどんだ兄を見て、バスカーが怪訝な表情をする
彼はこういう大事な場面で言いよどむ癖がある、ということを知っている
重要なことをはぐらかす、というよりも、自分が答えを見つけることを望んでいるかのように答えを待つ
そしてこちらが答えを言い当てると、にやりと笑って褒めてくれる
昔と変わらない癖だった
だがバスカーには、答えることができなかった
情報が少なすぎる
答えを考えているときに、門番の男がバスカーの代わりに言葉を紡いだ
「騙された、日記にはそう書いてあります」
「騙された?」
「日記には、『騙された、ライアン=ローレンスこそが、我々を滅ぼそうとした元凶だったのだ』
次代の族長が残した日記にはそう記されています」
「それってどういう・・・」
バスカーは最後まで言い切ることができなかった
なぜなら彼らの前に、炎鬼族の者達が立ちはだかり、一斉に炎の球を投げてきたからだ
「ちっ!」
「そのまま走れ!」
回避をしようとしたバスカーに、後ろから声がかかる
アレックスがバスカーの後方から加速して、追い抜くように前に出て行く
愛用の巨大な盾を体の前に構え、そのままさらに加速して走っていく
「我が盾は完全無欠!シールドオブシールド!!」
アレックスの前方に薄い膜が展開され、移動に合わせて前方へと進んでいく
炎の球はぶつかった瞬間に爆発するが、その爆発も完全に遮断する
「アリサ!」
アレックスの後ろからアリサが飛び出し、一瞬で炎鬼族の者達との距離を詰める
甲高い金属音が響き、アリサの剣が鞘から引き抜かれ、振りぬかれたことを伝える
振りぬかれたということは、一人を殺したということ
だがそれに気づいたものは少ない、それほどに自然に剣を振り、人を殺した
「『我々の契約は正に呪いだ、我々は時が来れば、再び人間を相手に争うのだ
ヤツはそのために、我々を救い、自らの配下においたのだ
呪いが効果を発揮すれば、我々にはどうすることもできない、ただ意思の無い人形として、戦い続けるしかできなくなる
私は悔しい、ヤツの呪いをどうしようもできない自分が、ヤツの計画にただ使われるだけの自分が
何より我々と種族の壁を超え、共に歩むと決めた人間と再び争うことが、私には悔しくて仕方が無い』」
目の前で死んだ仲間を見ながら、門番の男は日記の内容を口にする
「『願わくば、我々が人間の敵となる前に滅びを迎えることを祈る』
・・・日記にはそう書かれていました」
周囲に聞こえるように語りながら、門番の男はゆっくりと歩みだした
門の周囲にいる炎鬼族は、そちらに体を向け、炎と化した体で襲い掛かってくる
「この日記を見た次代の族長が、さらにその次が、そして今の族長になるまで、様々な対策をしてきました
そして現代にあって、実を結んだのがたったの3つだけ
その一つが・・・」
門番は体を炎鬼化させず、人間と変わらぬ肉体に炎を纏わせる
「この奥技です」
襲い掛かってきた男の顔を片手で掴み、力を込めて握り締める
掴まれた男は声こそ出さなかったが、苦しそうに体をジタバタと動かし、なんとか逃れようとする
その奮闘も虚しく、数秒もすると顔が焼け爛れ、ただの人間となった男が現れた
門番は今にも泣き出しそうな顔をして、腕の力を抜き、襲い掛かってきた男を地面に落とす
「燃やす、その力は形があるか無いかさえ無関係に効果を発揮します
呪いでさえも燃やすほどに、強力な奥技なんです」
だからこそ習得できるものは才あるものだけだった
習得し、発動した瞬間に呪いを燃やす
だからこそ、マキアや現族長、そして門番の彼が普通にしている理由だった
それだけの惨状を生み出したというのに、周りにいた炎鬼族の者達は気にしている様子もない
再び別の人間が飛び上がり、門番へ攻撃をしようとして
「そしてもう一つが」
そして斬られた
体を炎と化すことで、あらゆる物理攻撃を無効化するはずの炎鬼族
しかしその体を横に真っ二つにし、人間となんら変わりない死体を生み出したのは、バスカーの兄だった
見ればその手にはいつの間にか大きな剣が握られていた
青白い光を淡く発光するその剣は、明らかに魔力が込められた一品であることがわかる
「我々狼人族との契約だ」
剣についた血を振り払いながら、バスカーの兄はさらに続ける
「バスカーは伝える前に出ていったから知らんと思うがな
150年ほど前から我々はそういう契約を結んでいる
・・・炎鬼族にその時が来たら、彼らを全滅させよ、とな」
アリサとアレックスが二人の場所まで下がり、再び武器を構える
「ブハハ・・・」
バスカーは笑っていた
弱い笑い声だったが、確かにそれは聞こえた
「何でそんなことしたんだか、わかんねぇな・・・
ライアンってのは一体何を企んでやがんだよ」
そう言いながら、バスカーは手に持った鎚を構える
その目には、迷いなど浮かんでいないが、別のものが浮かんでいた
薄っすらと、よく見なければわからないほどにほんの少しだけ
涙が浮かんでいた
「許さねぇ!ライアンってヤツだけは!ぜってぇ許さねぇ!!!」
バスカーは手に持った武器で、炎鬼族の集落へと突撃していった
その脳裏に、昨日の出来事を思い浮かべながら・・・
本当ならバスカーの理由はマキアの炎鬼族の掟編で入れるべきだったんでしょうが・・・内容的に短い文になりそうだったので、後回しにしました
ご都合主義的な展開というか後から考えて付け足したみたいな感じになってしまったのが悔やまれます
こんな感じですが今後ともソウケンをよろしくお願いします