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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第五章「アリサ編」
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狼人族の掟2

「親父・・・」


「・・・マキアか」


炎鬼族の集落、その族長が住む最奥部に近いテント

その場所はすでに焼け落ち、炎をその場所に維持するだけの材料と化していた


そのテントのすぐ傍で、かつて族長だった男とその息子が向かい合っている


「・・・みんなは?

・・・母さんは・・・兄貴は・・・姉貴は・・・みんなは!?」


「・・・」


マキアの問いかけに族長は無言で答え、ただ首を左右にゆっくりと振るだけだった


「なんでだよ・・・チクショウ!

なんでよりによって今日なんだよ!?」


マキアの目からは涙が流れ始める

体は地面に膝をつき、両手で支えるように地面に倒れこむ


「マキア・・・」


父親である族長は、ただそれを眺めることしかできない

本来なら彼がいない時に起こるはずであった事態であったが故に、彼は息子がいた時のことを考えていなかった

息子が、目の前の光景を見ることは無いはずであった


「これじゃあ何のために集落を飛び出したんだ!俺は何のために冒険者になったんだ!?

なあ親父!俺は・・・俺は・・・っ!

みんなを殺すために・・・冒険者になったんじゃ・・・無い・・・」


だから族長は、何も言葉をかけることはしない

慰めも、励ましも、今のマキアには気休めにしかならない

いやむしろ、気休めにもならないだろう

それほどに今のマキアは、取り乱し、落胆し、絶望という感情を表に出している


「・・・お前はすぐにここを出ろ

狼人族が迎えに来てくれているはずだ」


「・・・親父・・・イヤだ!親父!俺はみんなを・・・」


「行けっ!」


マキアの言葉を族長は遮る

今は話をしている時間さえもらえないようだ


ザッという地面を踏みしめる音が聞こえた

それは一つではない、二つでも全く足りない、十も超えた数だろう

二人の周辺には、かつては同じ集落の「仲間」だった者たちが囲んでいた

今はその全てが、生気の感じられない表情をした「敵」なのだろう

今にも襲いかかりそうな姿勢で、全員が体の一部を炎と化している


「手紙に書いただろう?

罪は全て、俺が引き受ける」


「親父・・・」


すぐに一人が飛び上がり、全身を炎に変化させながら二人に突っ込んでいく

それに続くようにして、他の者も次々と同様に突撃を開始した


「行けぇ!」


「くそっ!くっそおおおおおおぉぉぉ!!!」


直後、二人は別の行動をとる


マキアはその場から離れ、入口に向かって駆け出す


族長はマキアに伝えた奥技を身にまとい、体に炎を纏う




そして、族長がいた場所は大爆発を起こした



――――――――――



「どういうこったよ!なんで兄貴がここにいんだよ!?」


バスカーが学園へ続く道を走りながら、実の兄に問いかける

兄の姿はバスカーと違い、耳も尻尾もある、体毛さえ存在し、まさに狼人族を示す通り、狼が二足歩行をしているような人物だった


「今はそれを話している暇はない

炎鬼族は強力だ、私もすぐに戻らなくてはならんだろう」


「だったら俺らも・・・」


「それはダメだ」


「舐めてもらっては困りますわ、これでも私たちはそれなりの腕はありますわよ?」


「・・・いや、お兄さんの言う通りだ、我々はこのまま逃げよう」


「グレイ?」


「・・・グレイの言う通りです、僕らは・・・きっと彼らを殺せない」


殺す、という単語を聞いたレディが、ハッとした表情をする

戻る、ということは彼らを殺す、ということに繋がる

きっと自分たちがなんとか殺さないようにしたとしても、狼人族達は殺すのだろう


「・・・そういうことだ、はっきり言って足手まといだ

我々の約束は、彼らの全滅だからな」


それを聞いて、バスカーは走るのをやめた

その顔にはいつもの軽いニヤついた笑顔ではなく、誰も見たことの無い真剣な怒りの表情だった


「殺す必要があんのかよ?」


バスカーの脳裏によぎる、少し前の光景、一人の少女


バスカーの動きを見て、全員が足を止める

そして全員が、バスカーの怒りを受けた

その表情に、誰もが恐れを感じずにはいられない

普段の仲間であるはずのレディ達ですら、その顔の前に何かを言うのは踏みとどまってしまう


だがそれでも、言葉を発するのは、やはりというべきか、彼の兄だった


「殺すしか無い」


その言葉に思い浮かぶのは、血の池に倒れる幼い少女の姿


「どうにかして・・・っ!?」


全てを言い終わる前に、空から何かが降ってきた


それは炎の塊

集落に入るときに一度見た光景

一度目と全く同じように、まるで映像を繰り返しているように、二度目は全く同じ結果を生み出す

前回と違うのが、二人ではなく一人だけだったということだろうか


違いはそれだけではない

生気の抜け落ちたような表情、虚空を見つめる両の目、ゆらゆらと揺れながら動くゆっくりとした歩み

数日前に、凛とした態度でアリサ達を迎えた女性と、同じ人物とはとても思えなかった


「あ、あんたは・・・」


大丈夫か、と聞こうとしてすぐにやめた

なぜなら彼女は、炎と化した腕を思い切り振りぬき、アリサ達に向かって火炎放射機のような攻撃をしてきたからだ


「チッ!」


バスカーが後ろに下がると同時に、間に誰かが割り込んでくる


「フンッ!!!」


その男は全身に炎を纏ってはいるものの、体は人間そのままの状態だった

炎鬼族に伝わる奥技

これを使えるものは、マキアと族長を除いて四人しかいないと聞いている

そう聞かせてくれた本人が、そこに立っていた

つまり、彼女の傍らに立っていたはずの門番の男だった


彼が炎を全て吸収したことにより、炎は誰にも当たらない


「無事ですか?」


「ああ、助かった」


「・・・彼女は私が殺します、ギルデンス殿、ご協力願えませんか?」


「了解した

バスカー、お前達は早く退け」


「待てよ!俺は諦めてねぇぞ!?」


途端、何かがバスカーの脇をすり抜けた

あまりに自然に、あまりに緩やかな流れ、空気という抵抗を可能な限り受け流し、移動したことさえ咄嗟にわからないほどの移動だった

気がつけば、アリサが門番の女性の目の前にいた


「アリサ!?」


「アリサ殿!?」


「おいお前!」


咄嗟に気付いたレディと、前を向いていた門番の男、狼人の男がいち早く気づき、声をかける

だがそのころには、すでにアリサは「やるべきこと」を終え、くるっと振りかえったところだった


「・・・バスカー、ダメよ」


「なんだと・・・何が・・・?」


バスカーはその先を見たくなかった、自分の知っている少女の未来を見るような気がしたから


「・・・彼女は、もう助からない」


次の瞬間、女性は血を噴き出した

胸をエックス字に切られ、体が引き離されるほどではないが、目に見える致命傷を負っていた


「な・・・」


「そうだ、もう殺すしかないんだ

彼女達は、そういう契約を結んでいるんだ」


「なんだよそれ・・・なんで・・・そんなに割り切れんだよ・・・

昨日まで一緒に!飲んでたヤツらじゃねぇか!

それしかねぇからって!なんでそんなに割り切れんだよ!!!」


バスカーは怒り、今にもアリサにその鎚を振るおうと武器を構える


目の前で倒れた女性と、自分が知っている少女が重なって見えた


「・・・彼女が、それを望んでいたから」


アリサはゆっくりと振りかえり、彼女の死体を通り過ぎ、集落のあった方向へと歩き出す

バスカーはアリサが門番の女を通り過ぎる時、倒れた彼女の顔を見てしまった


「あ・・・」


アリサの言葉の意味が、それだけでわかってしまった

きっとその場にいた全員が、同じ行動をしたはずだ

そして全員が、同じことに気付いたはずだった


「・・・ちくしょう・・・」


バスカーは結局、鎚を振るわなかった

力なくその場に崩れ落ち、現実という非情な存在に打ちひしがれている


きっと彼一人なら、このまま何もできなかっただろう

きっと彼一人なら、このまま逃げだしていただろう

きっと彼一人なら、心が壊れて狂っていただろう


だが彼には、仲間がいた


それは素晴らしいことだ


なぜなら、彼が向かったかもしれないその全ての負の道を、遮ってくれたから


「行こう」


最初に行ったのはアレックスだった


「こうなっては行くしかないですね、全く参りましたねぇ」


次はグレイだった、その顔には余裕さえ感じられる


「行きましょうバスカー、私達がやらなくてはなりませんわ」


最後はレディだ、彼女の顔は、真剣そのものだった


バスカーは彼らの言葉に、立ち上がらないという選択肢をとれる男ではない

何より、彼女の顔を見た以上、自分達がやることが、せめてもの救いになると思って立ち上がる


そう、他の誰かにやらせるわけにはいかない


「・・・ブハハ」


いつもの笑い声、小さく弱いが、バスカー独特の笑い声だった


誰かにやらせるくらいなら、自分の手でやる必要がある


「ブハハ!そうだな!すまねぇなお前ら、俺らしくねぇとこ見せちまった!」


立ち上がったバスカーは歩き出す

前に向かって、集落に向かって

その背中に、覚悟というとても重い荷物を背負って


「いい仲間だ」


兄がそう声をかける


「だろ?自慢の仲間だ」


にやりといつもの笑顔をして、バスカーは答えた


「行きましょう」


門番の男に促され、全員が集落に向かって駆け出した



――――――――――



駆け出した直後のこと


門番の男は、かつて相方だった女性をチラりと見る




彼女の顔は、満足そうに笑っていた

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