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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第五章「アリサ編」
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学園生活二年目・異世界の学生

「・・・僕は異世界の人間なんだよ」


普段は誰も使わない教室の1つ


日本人的な黒目黒髪で、日本の学生が一般的に着ている紺色の制服を着た青年はそう言った


彼の目の前に立っている、アレックスに向かっての発言だった


「異世界・・・ですか」


「あんまり驚かないんだね?ってことは蒼犬さんから何か聞いてるのかな?」


「っ!グラハ・・・蒼犬がどういう存在か知っているんですか?」


「まぁ全部ってわけじゃないけど・・・」


教室の真ん中に立っていた青年は、手近にあった椅子を引き寄せ、そこに腰掛ける

背もたれを体の正面に持ってきて、行儀の悪い感じの座り方だった


「君も座りなよ、長い話だし」


あごでアレックスのいるあたりを示し、座るように促す青年

その表情は人当たりの良さそうな、それでいて怪しい雰囲気を感じさせる


「・・・では失礼します」


「ああ、そんなに堅苦しくならなくていいよ、僕は前世でも今世でもそういうのはあまり気にしないからね」


「いえ、癖みたいなものですから、気にしないでください」


「そっか、じゃあそうしよう

自己紹介、まだだったよね?

僕の名前は・・・こっちではケビンって名前だよ、ケビン=デュラス

向こうの名前は・・・いるかい?」


「アレックス=エルトリアです

必要ならお聞きしますが?」


「じゃあいいや、関係ないし、向こうの話はするつもりもないしね」


にこにことした顔のままでそう話すケビン

だがアレックスには、どうしてもその笑顔が信用できなかった

不安、という言葉しか思いつくことができない


「それで、どういった用件ですか?」


一応の警戒をしつつ、すぐに動けるように体の力を抜いておく

緊張状態では筋肉が固まってしまい、咄嗟に動くことができないことを知っている

それくらいの感情を抑えることは、アレックスにとって容易いことだ


「話っていうのは・・・まぁぶっちゃけてしまえばアリサさんのことだけどね

・・・そう怖い顔をしないでくれよ、別に何かしようってわけじゃないんだから」


「信用できません」


青年が言った通り、今のアレックスは睨むような視線をケビンに向けている

アリサの名前が出た瞬間、咄嗟に盾を構えようとしたくらいだった


「はっきり言うね、どうしてそんなに信用できないんだい?」


睨むような視線のまま、アレックスは返事を返した


「理由はいくつかあります

あなたは僕らを、正確にはアリサをよく見ていますよね

でもあなたから近づいてきたことは一度もない

アリサは万物の才能持ちです、アリサにとって得になることなら、あなたにどんな理由があろうと一度は接触しているはずなんですよ」


ケビンは納得したように頷く


「なるほどね、万物の才能にそんな能力があったとは知らなかったな」


「一度も接触していない、ということは、アリサの得にはならないということです

そうであるならば、あなたが避けていれば接触することはまず無いでしょう」


「ふむ、確かに僕は避けていたね、理由はもちろんあったけども」


「さらに言えば、あなたは入学時、成績トップグループの一人として入学している

万物の才能持ちであるアリサには、そういった人間はほとんどが一度は接触しています

接触していないのはあなたと、あなた以外ではあと二人しかいないんですよ」


今度は驚いたような表情をして、少し考えてから返事をした


「それは驚いたなぁ、っていうか君よく覚えてるね?

・・・ん?そんだけ知ってるってことは、よく一緒にいるってことかな?

もしかしてアリサさんのこと好きだったりする?」


今度はアレックスが驚いたような表情をする

この流れでそんなことを言われるとは思っていなかったようだった


「そ・・・そんなことは関係ないでしょう!」


「照れるなよ、若いっていいねぇ~」


見た目20にも満たない人物に言われるのもどうかとは思うが、茶化すように彼は話した


「こっちは前世から数えて36歳、もう青春できるほど若くないからなぁ~、羨ましいわ~」


ちなみに彼は16歳で入学しているので、3年生である現在は18歳である


「いや・・・まぁ・・・好き・・・ですけど・・・」


アレックスは言い終わると同時に、ボッと言う音が聞こえそうなほどに顔を真っ赤になってしまった


「・・・もう少し世間話とか恋話コイバナもしたいところだけど

そろそろ本題に入ろうか」


そう言ってケビンはニヤニヤ顔をやめた

それと同時に緊張感が漂う

アレックスも真顔に戻り、真剣に話を聞く体勢になる

しかし不思議なことに、先ほどまでの不安な感じをケビンから感じることは無くなっていた


「聞かせてください」




彼が語ったのは、なぜ自分がここにいるか、という話題だった

もちろん彼が最初に言った通り、前世の話は全くせず、彼が何を知って何をしようとしているのかだった




「僕は・・・前世の知識が残っていてね、おかげでこの世界では天才として生きてきたよ

万物の才能が出ていないのが不思議なくらいだってよく言われたなぁ

前世でも格闘技とかはやってたから、戦闘方面もそこそこ強かったし、良い師匠にも恵まれた・・・あぁ、こんなこと聞いてもしょうがないよね」


軽く雑談をしながら話す彼だが、その表情はどこか他人事のようだった


「まぁこの学校に来るのは10歳くらいのころには決めてたよ、家もそれなりに裕福だったし、冒険者も経験してたしね

その冒険者時代に・・・15歳のときだね

ある施設を見つけたんだ」


「ある施設・・・?」


「そ、はっきり言ってこの世界にはありえない施設だったよ

そこの奥には特殊な装置があって・・・まぁ君には関係ない話だけども、もう二度と元の世界には戻れないんだなって理解しちゃったんだよね

そしてそこで僕は、色々と知っちゃったんだよ」


他人事だった表情は、だんだんと生気を取り戻してきたように明るくなっていく

まるで自分の人生がそこから始まったとでも言いたげな表情だった


「きっと何人もそこには来てたんだろうけど、誰もその装置をちゃんと動かせなかったんだろうね

ちゃんとした操作がされた形跡が無かった

おかげで僕はちゃんと情報を調べられたわけなんだけど・・・

あぁ、ごめんごめん、また脱線しちゃったね」


悪い癖だなぁ、と言いながら笑う

苦笑いを浮かべ、手を顎に当てて器用に肘を背もたれの上部に乗せる


「結果から話せば・・・装置の使用した履歴が残ってて、そこに誰が何を使ったかが全部記載してあったんだ

今から5年前・・・いやもう6年前か、ある人物が蒼犬ことグラハルトを召喚したこと

300年前に初代学園長が特殊なシステムを組んだこと

そしてそれぞれが・・・確立計算システムに何を計算させたのかの全てが・・・ね」


「初代・・・?」


「そう初代さ

君はこないだ魔物の大侵攻があったって話は知ってる?」


アレックスは険しい表情をして、なんと答えるべきか悩む

大侵攻の件に関しては、親であるサリアから手紙をもらっていたので、周囲より先に知っていた

もちろんグラハルトと一緒に戦うことも書いてあったので、特に心配はしていなかった

そして世間一般では、グラハルトが死んだことは報じられていても、魔物の大侵攻があったことはあまり知られていない

もちろん知っている人物は知っている、程度の情報ではあるが、自分の国が公にしていない以上、自分からあまり話したくない内容でもあるのだ


「・・・言い方を変えようか、蒼犬が死んだと思われた原因を知っているかい?」


「・・・いや」


これは本音だった

原因については徹底的とも言えるほどに、あらゆる情報がつぶされている

現状その事実を知っているのは、グラハルトと共に戦った砦の騎士団と、その騎士団を抱える国の王とその側近だけだ


「恐らく、初代が復活したのが原因だろうね

少なくとも履歴からの情報を整理すれば、そういう考えになる」


「・・・何が言いたいんですか」


「初代の目的は・・・恐らく魔王の復活、そしてそのためには、アリサさんを何らかの形で利用しようとするはずだ

・・・正直に言えば、僕はアリサさんなんてどうなっても良いと思ってる

でもそれをやらせてしまうと、僕の周りの僕の大切な人たちを守れないんだ

だから僕は抵抗したい、アリサさんを初代の手に渡したくはない」


「・・・もう一度、質問させてもらえませんか」


「なぜアリサさんに近寄らなかったか?ってヤツかい?」


「そうです」


「・・・結果から言うなら、アリサさんには不利益になるから・・・かな?」


ケビンは非常に難しい表情でそう言う


「不利益・・・ですか?」


「僕の考えた通りに事態が進めば、恐らくそうなる

だから僕は、自分の決心が揺らがないように彼女を避けていた

恐らく万物の才能も、その辺を感じ取っていたんじゃないかな?」


「それは一体どういう・・・」


ケビンは険しい表情になっていく

何かを言いたそうで、それが言いづらいことのようだ


そして意を決して、大きく息を吸い、その言葉を口から出した


「・・・僕の予定通りなら・・・アリサさんは・・・」


その一言は、アレックスにとって衝撃だった

聞いたあとで後悔してしまうほどに、なぜ聞いたのかと考えるほどに、未来というものを知らないほうがよかったと、アレックスは人生で初めて思った




「消える」




その言葉には、嘘や冗談など全く感じられなかった


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