学園生活二年目・共同実習
いつもお読みいただきありがとうございます
アリサの学園生活編に戻ってまいりました
少しばかりのんびり系な進行になりますので、グラハルト編との落差が激しいですが、お付き合いいただければ幸いです
この話は特に話の大筋には関係ありませんが、次回の連話までのクッションとして執筆させていただきました
気を抜いて見ていただければと思います
本編をどうぞ
グラハルトが魔物の軍勢と戦った日から一年
アリサは無事に2年生になっていた
進級試験も一応はあったが、アリサ達の学年は優秀だったようで、一人も落ちることなく進級できたようだ
進級試験の少し前の話だが
グラハルトの死亡という報告が届いた時があった
アリサは驚きこそしたが、何かの勘違いだろうなと冷静に判断した
むしろアリサ以外の人間が大いに取り乱したため、滑稽とも思えるその光景が、アリサを落ち着けたのかもしれない
数日後には誤報(生き返ったという報告だったが)が届いたため、それはそれで騒ぎにはなったものの、アリサは特に驚かなかった
しかし周りの人間は、試験なんてそっちのけでグラハルトの話に夢中になっていたため、試験では大変苦労したようだ
アリサ達の学年ではいなかったが、上級生の中には落ちた生徒もいたようで、泣く泣く追試という名の難題を遂行する羽目になったようだ
だがそれも全て過去の話
そんなこともあったなぁ、で済むような内容に過ぎない
いま現在のアリサ達にとってはどうでもいい話だ
アリサ達が2年生になったということは、当然新入生が入ってくるということだ
そして今日は、その新入生との共同実習の日
アリサ達も去年体験した、先輩からのありがた〜〜〜〜〜い洗礼をいただける日なのだった
何がそんなにありがたいのかと言えば・・・
「おらぁ走れ走れ一年どもがぁっ!
そんな速度じゃ追い付かれちまうぞ!」
「せんぱっ!ちょっ!たすっ!無!理!」
「死ぬーーーーー!」
「ひぃ!死んじゃうよぉ!誰か助けてぇ!」
「はっはっは!それだけ元気ならまだまだ大丈夫だな!
グレイ!追加だ!」
バスカーとマキアが新入生を応援しながら、森の中を颯爽と走っている
新入生は必死な顔で走っているのだが、それもそのはず
彼らの後方、わずか10メートル程度の距離を、地響きが聞こえそうな勢いで追う魔物がいるからだ
「BURUAAA!!!」
「ひぃっ!もう来たぁ!」
その魔物はブルタイガーと呼ばれている
見た目は黒豹をまず想像してもらいたい
そしてそれが無駄な筋肉を無駄につけまくって、特徴でもある瞬間的な速度を台無しにしてしまっている姿をしている、と思ってもらえばわかりやすいだろうか
四肢はゴリラ並みに太く、体も当然太い、顔にいたってはもはやゴリラそのものである
それが一般人の全力疾走並みの速さで迫ってくるのは、新入生にとっては恐怖でしかない
さらにタチが悪いことに、この魔物は決して単体では行動しないことで有名である
つまり
「了解だ
ほら、行きな」
グレイが魔法を解除する
緑色の不思議な光で拘束されていたブルタイガーが、自由を得て仲間の元へと駆け出す
5匹ほど、と言う必要があるが
「5匹放ったぞ!これで合計10匹だ!がんばれよー!」
「「「鬼いいいぃぃぃ!!!」」」
つまるところ、これが先輩からのありがた〜〜〜い洗礼だった
毎年恒例の通過儀礼で、アリサ達も例外無く受け取った洗礼だ
ちなみにこの魔物はゴリラ並みのパワーを持ってはいるが、魔物なんて総じてゴリラ並みどころか象並みのパワーがあるので、大して強い存在ではない
一般人なら脅威だが、冒険者や騎士になろうという人間が相手をできない魔物ではない
2年生以上は、パーティーで戦えば負ける相手では無いため、最悪の場合は手助けをするので、この儀式によって死者が出たことはないらしい
しかしそんな事情を新入生が知るはずも無く、出来るのは精々「逃げる」という行為を全力で行うことだけだった
「お、終点が見えてきたみたいだぞ」
「ブハハ!あそこまでがんばりな新入生!」
マキアとバスカーが言って見た先には、二人の女性が立っていた
日光が彼女達の後ろから射しているため、新入生達にとっては女神のように見えただろう
「は・・・はひっ」
「・・・」
「・・・」
「うん・・・まぁ一人だけでも返事があっただけマシか」
もはや返事もできないほど疲労した新入生にとっては、その姿を見るだけで精一杯だった
「修行が足りないわね」
「そうですわね、修行が足りませんわ」
「僕らが異常だったっていう発想は無いんですかね?」
ちなみにアリサ達のパーティーがこの通過儀礼を行った時だが、全滅という結果を出した
もちろんブルタイガー側が、と言うのを忘れてはいけないのだが
普通はアリサ達が見ているような「逃げる」が正解だし、倒せても逃げるのが暗黙の了解のようなものとして定着している
残念と言わざるを得ないのは、アリサは若干空気が読めないことだった
ついでに言えば全員が全員、単体でブルタイガー5匹くらいなら簡単に相手をできるほどに強かったのも原因だ
見敵必殺
片っ端から倒してしまったせいで、上級生からちゃんとした説明をされてしまったほどだった
「あまりいじめるのも可哀相ですし、助けてあげますわよ?」
「了解」
チャキッというどうやったら出るのか作者的には未だによくわからないありがちな音を出し、二人は自分の武器を構えた
アリサは入学時から使っている双剣を、レディは細身で装飾の美しい片手剣を
二人は飛び出し、新入生達を飛び越え、ブルタイガーの前に立ちはだかる
「新入生、見といたほうがいいぞ
我らが女神様の戦いは参考になるからな」
マキアが珍しく建設的な意見を述べる
だが新入生にとっては貴重な意見であることに変わりはないので、言われたとおりに後ろを振り返る
振り返った先には、確かに「女神」が二人いた
片や流れるように動き、風のようにひらひらと舞う女神
彼女が振るう剣に触れた魔物は、例外なく切断されていく
血が吹き出し、見たくないものが見えているというのに、そんなものが気にならないほど彼女に目を奪われる
片や魔法という戦いを象徴するような現象を纏い、嵐のように敵を蹂躙していく女神
氷の塊が彼女の周囲を回転しており、魔物達は近づくことさえできずに潰されていく
ぶつかった瞬間に凍結していき、彼女が歩いた道は繊細な美しさを感じさせる氷の道と化していた
「すげー・・・」
「綺麗・・・」
「・・・強い・・・」
「「「でも」」」
新入生は声を揃えてそう言った
何が言いたいかわかってしまうだけに、バスカーとマキアはすでに苦笑い状態だ
「「「参考にはなりません」」」
「ですよね」
「だよなぁ」
「だな」
「マキア、適当なこと言わないように」
残念なことに、レベルが違いすぎた
新入生にとって、全く参考にならなかったようだ
しかし全く効果が無かったかと言えばそういうわけでも無い
「でも俺!あんな風になりたいです!」
「私も!先輩、ご指導よろしくお願いしますぅ!」
「二度と逆らいませんので殺さないでください」
一人だけ明らかに方向性の違う新入生がいたが、実は間違いではない
この通過儀礼は、縦の関係を明確にするために行われる意味が強い
即ち自分たちでは敵わない相手をぶつけさせ、必死になって生き延びようとする、そしてそれを最後に2年生が倒すことで、2年生の強さを明確にするのだ
自分たちで倒せなかった相手を倒せるという事実が、自分たちと2年生との実力差を明確にさせる
つまり逆らってはいけない相手、として、上級生としての認識をしっかりと持たせるのだ
それがこの通過儀礼の役割であり、過去からずっと続いている理由だった
(ちなみに教師も、この通過儀礼を知っているが、その必要性を理解しているので黙認している)
「・・・調教完了・・・?」
「言葉が悪いですわ、教育と言いなさい教育と」
「・・・・・しつけ?」
「犬かっ!」
「犬がなんだって!?」
「アレックスうるさいですわよ」
「・・・シクシク」
なんだかコントがあったような気がするが、きっと気にしたら負けだ
こうして見事に、アリサ達は新入生からの信頼を手に入れ、通過儀礼を無事に終えた
来年はきっと彼らが同じことをするはずだ
そうやってこの儀式は毎年行われていく
この儀式のおかげで、新入生達は一緒になった2年生に絶対の信頼を抱き、その関係は卒業するまでずっと続いていく
この森は昔はちゃんとした名前があったが、今は誰もその名を呼ばない
この儀式のおかげで、そちらの名前のほうが定着してしまったから
今では誰も古い名を知らない
この森は、今はこう呼ばれている
「絆の森」と
この森で告白すると、必ず結ばれる、という都市伝説まで存在する
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完全に余談
アリサ達は自分たちだけで解決できてしまっているので、彼らと一緒に行動した2年生は信頼を得ることはできなかった
ただし今でも良い友人関係は築いている、らしい
お疲れ様でございます
内容がないよ・・・やめとこ
親父ギャグしか思いつかない貧相な頭の作者ではございますが、今後ともソウケンをお楽しみいただければ幸いでございます
今後ともよろしくお願いいたします