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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第一章「ソウケンの記録」
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双剣(ふたつつるぎ)

気がついたらお気に入り登録していただいた方がいらっしゃいました・・・

こんな駄文でも登録していただけてありがたいことです

楽しんでいただけたらと思います

続きをどうぞ


まさに廃墟と言わんばかりにボロボロの廃墟があった。


いつもならば周辺を荒らす盗賊団のねぐらになっている廃墟。


いつもならば戦利品を勘定している場所。


いつもなら酒を飲んでだらだらしている場所。


いつもならさらってきた人間を閉じ込めておく場所。


いま、それらの場所には誰もいない。


そうなった原因は廃墟の建物の前、人が踏み鳴らして草が広場のようになった場所に「いた」。



――――――――――



複数の男が青い髪の女性に襲いかかる。

文字で書くと限りなく卑猥なのだが、男達にとっては笑い話にもならない。

なぜなら・・・


「ぎゃぁぁぁっ!」

「ぐっ・・・はっ・・・」「馬鹿な・・・」


男達は瞬く間に斬られてその命を手放すことになってしまった。


彼らを切り裂いたのは青いロングの髪を肩まで伸ばした女性の、その両手に一本づつ持たれた剣であった。


人を殺したというのに彼女の表情は特に変わらず、それを証明するかのように両手にある剣も血が付着すらしておらず、鋼鉄の輝きを放っている。


表情の変わらない顔から黒い目が覗いているが、その黒目の部分のまわりには虹色の輝きがあった。


細身で一般的な長剣よりもやや短く、取り回しを重視しているのであろうその2本の剣。

その剣こそが彼女の名を表す、即ち・・・


「なんっで「双剣ふたつつるぎ」がこんなとこにいやがるんだ!」


おそらくリーダーなのであろう男がそう叫ぶ。

・・・叫ぶが返事が帰ってくることは無い。

なぜなら彼の仲間は、さきほど切り捨てられた男達で最後だったのだから。


顔面蒼白になっている彼は何故かフッと笑い、口を開く。


「へ・・・、へへ・・・

いいさ畜生、やってやる。

どうせ盗賊なんざやってればいつかはこうなったんだ!

「親子」揃ってむかっ・・・」


彼の言葉が最後まで続くことは無かった。


目にも止まらぬ速さで剣が振られ、血が付くよりも早く彼の顔を横に両断したからだ。

怒声をあげる表情のまま固まり、やがて斬られた部分から顔がズルりと滑り落ちる。

それを切っ掛けに体から力が抜け、男は地に倒れる。

「・・・息が臭い」


誰に向けてでもなく彼女は呟き、誰かが返事をすることもなく、一つの盗賊団の歴史は幕を閉じた。



――――――――――



場所は変わり大きな街の中、冒険者ギルドの建物に「双剣」と呼ばれた女は来ていた。

壊滅した盗賊団には懸賞金がかかっており、その代金を受け取りに来たのだ。


「お待たせしましたっ!これが今回の報酬金ですっ!」


元気いっぱいに明るい声で話す女性はギルドの職員だ。

金髪をポニーテールにして男ウケがよさそうな顔立ちをしている。


「・・・ありがと」

「相変わらず懸賞金クエストは受けてくれないんですね〜、今回は臨時チームが明日には出発する予定だったんですよ?」


言葉少ない「双剣」に対して普通に話しかけているのは、それだけ「双剣」がよくくる馴染みだということだ。

もちろん職員の性格もあるのだろうが。


「クエストボード見ないから・・・」


「あなた「達」はほんとに冒険者ですかっ!?」


もはやいつもの光景になりつつあるやり取りなのだが、「双剣」は律儀にコクンと頷いて肯定している。


そのやり取りはこのギルドによく来るものならいつもの光景なのだが、今日に限ってはその「いつもの光景」に割って入るもの達がいた。


「おいおいおぃぃい!?

なんだその大金はよぉ?

嬢ちゃん誰かの代理で受け取りに来たのかぃ!?

だったら俺が渡しといてやるから貸してみな!」


スキンヘッドにぎょろりとした目の剣士風男が話しかけてくる。

回りには魔導師風の男、弓を携えた男が寄り添い、ニヤニヤと馬鹿にした笑みを浮かべている。


「・・・私のお金」


「はぁぁぁ!?

おい聞いたかよ!こんな嬢ちゃんがこんな大金もらえるクエストこなしたってよ!?

ダハハ!なかなか面白ぇジョークだ!」


品のない笑い方に合わせるように後ろの二人も笑う。

だが笑っているのが彼らだけだと気づくことはなかった。


回りはひそひそ話を始めているが、彼らの耳には届いていない。


「・・・おい、誰だあの馬鹿は」

「あぁ〜、確か西のほうでちょっと有名なヤツらだ。

ただしガラの悪さで、な。」

「最近ここにきたってことかよ・・・、ご愁傷さまだな」

「おい、いいのかよ?助けないと死ぬぞ。

あいつら殺されそうなツラだし・・・」

「おいおい、馬鹿言うなよ。

ソウケンに殺されるってことは悪いヤツってことだろ?

そうじゃなきゃ何があっても死にゃしねぇよ。

手出すだけ無駄だ。」


・・・主にスキンヘッドの男達が心配されていた。


彼らも決して弱いチームではないし、ガラの悪さだけで有名になったチームではない。

むしろガラの悪ささえなければ・・・とまで言われる残念なチームなのだが、今回ばかりは相手が悪かった。


「・・・ッ!!」


それに気づいたのは弓を持った彼だけだった。

咄嗟に半歩ほど身を退き、そしてそれが全く間に合っていなかったことに驚愕し、冷や汗が流れる。


「ダハハ!!どうした嬢ちゃん!怖くて動けねぇか!?

安心しなって!金さえよこしゃあ何にもしねぇからよ!」


言葉を言い終わると同時に弓の男はまたそれを見る。今度は意識していたからか、さきほどよりははっきり見えた。

だがそれを自分がかわせるとはとても思えない。

彼の顔はすでに蒼白で、汗がだらだらと吹き出している。


そして一瞬見えたそれの結果が出始める。


ブチッという音がして、スキンヘッドの男の鎧が鈍い音を伴って床に落ちる。


「あぁ?いかれちまったかぁ?最近メンテしてなかったからなぁ。」


続いて弓を持った男の弓の弦がピンッとピアノをひいたときのような音をたてて切れる。


「・・・」


弓の男は汗をかいたまま動かない、動けない。


「お前もメンテ不足か?珍しいな、お前がメンテしていないとは」


違う、と言う前に再びそれが見えた。

思わず体が強張ってしまい、口を開いたまま情けない顔をしてしまう。


そして今度は魔導師がつけていたネックレスが床に落ちる。


「・・・なんだ?」


さすがに不穏に思ったらしい魔導師が口にする。

そしてさきほどから黙っている「嬢ちゃん」のほうをじっと観察する。

唐突に弓の男は叫んだ。


「あぶなっ・・・!」

「・・・っ!!!」


魔導師の男もそれに気づいたらしく、弓の男が声を出していなかったら死んでいたかもしれないと理解する。


回りからフォローが入ったのはそんな時だった。


「よぉ、兄ちゃん達!

そのへんにしといたほうがいいぜ!?

ハゲの兄ちゃんは特にな!」

「そいつの剣が見えてねぇみてぇだしよ!

それじゃ死んだのも気づかないぜ!」

「おいおい、「双剣」の剣が見えるヤツなんて世の中にどんだけだと思ってんだ?」

「ちげぇねぇ!」


ドッと笑いが起こるが、「双剣」という言葉を聞いて三人の顔がひきつる。


「ふ・・・「双剣」・・・?」

「その目・・・虹色の魔眼・・・?「万物の才能」・・・!?」

「・・・マジで?」


上から弓男

魔導師

ハゲである。


「「「マジで」」」


回りが一斉にに頷くのと同時に「双剣」が動く。


・・・ほんの数分後には武器も鎧も無惨に切り刻まれ、土下座で詫びを入れている三人の冒険者がいるのだった。


「よかったな兄ちゃん達、殺されなかったってこたぁそれほど悪いヤツらじゃねぇんだな?」

「まあみんな通る道だ!生き残った以上は同じ拠点の仲間だ!仲良くやろうぜ!」

「ちげぇねぇ!」



――――――――――



終わりがあれば始まりがある。


一つの盗賊団が歴史を閉じたこの日に、一つの冒険者チームの歴史が始まった。


彼らのチームは後に素晴らしい功績を残し、ギルドに名を残すほど有名になる


今の彼らにその影を見ることはできないが、彼らの伝説は間違いなくこの日から始まった。




・・・だがそれはまた別の話。


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