対話2
「入学試験の日、ここが転機だったんだ」
そこは魔法学園の校庭だった
入学試験を行ったあの日と同じように、たくさんの人間がいる
その中には当然、過去のグラハルトとアリサがいた
「・・・転機・・・?」
「そう、転機だ
ある意味では、この日のために君がいたと言ってもいい
そして、その役目は果たされた」
「・・・ウォードラゴンか?」
「その通り」
「・・・だが俺はあの時」
何かを言いかけて、グラハルトは止まった
またしても景色が移り変わり、あの日のグラハルトを見ているような状況になる
「あの日」
「誰か」はそう言って話し始めた
「君は色んなものに導かれたんだ
それはわかっていたんだろう?」
「・・・すぐにはわからなかったよ、・・・ゲイルにダリアス、リリーまで会って最後に学園長からの呼び出しだ
・・・さすがに気づかないほうがおかしいだろう?」
グラハルトはそう言って過去の自分を見る
そこにはレディの父親であるゲイルがいた
『・・・なぜいる』
『娘の応援!』
「確かにこれだけじゃわかんないよねぇ・・・」
「・・・基本的にバカだからな」
『ファルケンに会いに行こうかと思ってな、一緒に行くか?』
『・・・学園長ならさっき見てきた、・・・必要ないだろう』
『うむ、見たのと会ったのは違うと思うんだがな?
それともあれか、おまえらついに目と目で語り合う領域にっ!』
「うん、バカだね」
「・・・基本的に・・・な」
『そういやダリアスも来てるって話だぞ、もう会ったか?』
『・・・まだだな、・・・何か厄介事か?』
『さぁ?でもリリーも来てるって話だし、なんかあったのかもな』
「精霊の試練を乗り越えた人間、それが四人も集まれば導きどころじゃないよね」
「・・・俺にはわからん、・・・だがこの面子が揃って何もなかったことは一度も無いからな」
『何かあったに決まってるでしょ』
唐突に緑の髪の女性が会話に混ざってきた
特徴的な耳の形からして、エルフのようだ
『俺達が集まるってなぁ、そういうこったろ』
なぜか片手にオタマを持った、屋台の親父にしか見えないおっさんが、リリーの後ろからそう話す
『リリー!ダリアス!久しぶりだなぁ!』
『・・・よう』
『ゲイル、後にしましょう、今は何が起こるかを予想して、すぐに対策するべきよ』
『ってわけだ、今は話してる時間も惜しい』
『え〜っ!せっかくレディと食べるご飯選んでたのに〜っ!』
『・・・まかせた』
『あんたが逃げてどうすんのよっ!』
「なぜ逃げた」
「・・・ろくなことにならん」
『そこまでにしとけファルケンが使いよこしたぜ』
ダリアスと呼ばれた屋台のおっさんが、後ろを振り向く
一人の男が四人へと近寄る
そこでまたシーンが切り替わった
『現在この都市は包囲されておる』
『ファルケン、わかりやすく説明してくれ』
『うむ、報告によると、試験開始と同時に魔族らしい者達が現れたとのことじゃ
現在森につながるこの学園を除いた、東西南北全ての門を監視しているらしい』
『監視?制圧でも侵攻でもなくてか?』
『監視としか言いようが無いんじゃ
遠くからこちらの動きを伺ってるだけで、今のところ何も手出しはしてきとらん
幸い住民には気づかれてないようじゃが、国防隊が密かに配備を開始した
放置もできんが下手に刺激もできん』
『・・・森だな』
『森?』
『じゃろうな』
『説明してくれるかしら?』
『うむ、推測じゃがの
この都市は学園が都市の最外部にある、当然そこに繋がっている森は外に繋がっておる
その森に何の手出しもせず、門だけを狙っても大した意味は無いじゃろう
少なくとも今の時点では、森の中に魔族の姿は確認されておらん』
『あからさますぎやしないか?
森に行けって言ってるようなもんじゃないか』
「・・・この時もお前が手出ししたんだな?」
「ああ、どうしても行く必要があったからね」
一瞬ノイズのように空間がブレて、同じ風景の違う時間に変わったようだった
『・・・俺が森に行く』
『話聞いてたかお前!?』
『・・・知らんな、・・・勝手に行かせてもらう』
『おいこら!』
過去のグラハルトはさっさとドアから出ていってしまう
「・・・強引だったな」
「いやぁ、改めて見ると強引だったねぇ」
『仕方ない、門の警備は我々3人だな』
『すまんのぅ、三次試験までになんとかなってくれればいいんじゃがのぅ』
『まぁ、アイツが行くなら悪いようにはなんねーだろ』
『確かに、でも後始末が大変なのよね・・・』
『ま、うちの娘もいるし大丈夫だろ』
ザザッと再びノイズが走る
「・・・?・・・俺の知らない記憶だぞ」
「あはは、言ってなかったね
これは単純に記憶を辿ってるんじゃないよ
記憶を切っ掛けにして、真実を映し出してるのさ
だからある程度までなら、知らなかった真実も見れる」
「・・・便利だな」
変化した風景は相変わらず学園長の部屋だった
学園長ことファルケンが、通信のマジックアイテムで誰かと話をしていた
『そうか、魔族は退いたんじゃな』
三次試験が始まり、大分時間が経ったようだ、もう外は大分暗くなっている
『少し待て、別の通信が入ったようじゃ』
右手右耳に当てていた通信器を、左手左耳に直しながら通話を続ける
『ファルケンじゃ、どうした?』
『学園長!ガラムです!緊急事態です!』
『落ち着け、何があった』
『ドラゴンです!ウォードラゴンが森に出現しました!』
『なんじゃと!?』
『急ぎ応援を!試験の中止も宣言してください!』
『・・・』
『学園長!』
『・・・試験は続行じゃ』
『なっ!』
『大丈夫じゃ、蒼犬が森に入っておる』
『蒼犬が・・・?』
『万が一もありえる、応援を送るからお主はそれまで待機、受験生の安全を確保するんじゃ』
『りょ、了解!』
通信を終えたファルケンは、再び通信器を持ちかえる
『ライラ、急ぎじゃ、クルーガを連れて森に向かってほしい
わしもすぐに行く、詳しい話は・・・』
「・・・仕事してたんだな」
「学園長の評価低くないかい?」
「・・・まともに仕事しているのを見たことが無いからな」
「うわぁ、学園長かわいそー」
さらに場面は変わり、今度は森の中だった
森の中を、過去のグラハルトが一人走り回っている
「これ迷ってたよね?」
「・・・探してたんだ、・・・迷ってなどいない」
「うん、迷ってたのね」
「・・・夜の森は危険だからな、・・・慎重に行動していたんだ」
「なるほど、どうあっても迷子だったとは認めないわけね」
「・・・」
唐突に地面が揺れ、何かが壊されたような音が響く
『・・・向こうか』
「正直に言えば、もう少し早く行ってほしかったなぁ・・・」
「・・・夜の森は危険だからな」
場面は切り替わり、ウォードラゴンがアリサに突進する直前になる
『ッ!!!』
「かなりギリギリだよねこれ」
「・・・タイミングがいいと言ってもらいたいな」
アリサの鼻先5センチほども無いほどの至近距離、そこでグラハルトはドラゴンを受け止めた
片手だというのに、わずかに体が揺れただけで後退もしない
「転機はここだ」
そしてすぐ後には、過去のグラハルトが蒼い鎧へと変化し、ドラゴンを貫くシーンが映し出される
「この瞬間、あいつの狙いは君に固定された」
「・・・あいつ・・・やっぱりあいつのことか?」
「そう、あいつさ」
姿の見えない男は、十分に間をためてから言葉を放つ
「初代学園長ライアン=ローレンス」