聖騎士の贈り物8
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この話にて連話「聖騎士の贈り物」は終わりです
ちょっと急展開すぎたかな~?と思わなくはないですし、話も中途半端ですけど終わりなのです
マンガにこういうシーンありそうだな、というイメージで作ったんですが、自分のイメージが読者様に伝わればいいなと思います
それでは本編をどうぞ
一瞬の出来事だった
ブローチから剣が飛び出し、グラハルトの胸を貫く
貫いた剣を手にする男が現れる
血を吐き出すグラハルトを男が見る
その男が、狂ったように笑い声をあげる
全ては
一瞬だった
――――――――――
地面に落ちたブローチに描かれた犬のような紋章、それがグラハルトを見て笑った
その笑顔は不気味で、いじめをしている人間がいじめられている人間を見下している時のような、自分が相手よりも上位の存在なのだと確認しているような笑顔だった
グラハルトはスキルの影響で、もはや一歩も動くことができない状態にある
その不気味な笑顔を見ていることしかできなかったが、それでも動かなければいけないというのだけはわかった
懸命に体を動かそうと脳から命令を出すが、まるで他人の体のように、その命令が実行されることはなかった
ブローチを見ることしかできないグラハルトは、その後起こったことに驚愕することになる
黒い煙のようなものがブローチから立ち昇る
それは蛇のように動き、一本に収束していった
やがてそれは集まった先端の部分から剣のような形に変化し、煙のような見た目は鉄のような見た目に変化していく
完全に剣の切っ先に変化したかと思えば、それはグラハルトに向かって飛び込んできた
まるで蛇が獲物を狙ったときのように、一瞬で素早く、正確に胸を目指す
そして
グラハルトの胸を貫いた
グラハルトの鎧は強力なものだ
ゲーム上での最終クエストを達成して入手したこの鎧には、様々な特殊効果もさることながら、基本的な防御力がとても高い
生半可な攻撃など一切通さないし、普通の武器では傷一つつかないほどの性能を誇る
その鎧が、あっさりと貫かれた
刺さった、のではなく、貫いたのだ
胸を貫通し、背中から刃が飛び出している
例えグラハルト自身が使っている最強の剣を使ったとしても、ここまで見事に貫くことはできない
ありえない、と言ってもいいだけの状況に、グラハルトは驚愕し、逆に冷静に状況を理解できた
物理的なダメージを受けていない
この剣は恐らく物理的な攻撃力を持っていない
なぜなら自分がまだ死んでいないということに気づいたからだ
実際にはどうなるかはよくわからないが、今の状況でグラハルトが物理的ダメージを受ければ、例え些細なダメージだったとしても即死しているはずだ
以前このスキルを使ったあとに、自分のステータスを確認して、自分のHPが1になっていたのを確認している
その状況で死んでいない、ということはこれはHPにダメージを与えるものでは無いというのが理解できた
何が起こっているのか確認しようと、ステータス画面を開こうとした
だがグラハルトは結局ステータスを見なかった
なぜなら、その剣の後方部分
いまだに蛇のように動く煙が、さらに形を作り始めたからだった
煙は完全に剣の形に完成する
特に何か特徴があるわけでもない、普通の長剣
しかし煙は、それで湧き出ることをやめなかった
剣のときよりも大量に、新たな蛇が出現し、その剣に絡まりながら新たな形を形成していく
剣に絡まっていた部分は、人の手のような形状になっていく
そこからさらに腕を形作るように絡まりあい、肩・胸・頭・反対側の腕・下半身へと集まる
人間のような形を作り出すころには、腕の形ははっきりとした人間の形に変化しており、煙のような曖昧な存在などではなくなっていた
人間
一人の人間が、その場に現れた
黒い髪を肩まで伸ばし、黒い瞳をしている日本人のような姿
その姿はグラハルトにそっくりだった
グラハルトの姿をそのまま黒目黒髪にしたような見た目の男
剣を握り、完成した人間の顔から、グラハルトに向けて言葉が放たれる
「いただくよ、蒼犬」
瞬間、グラハルトは全身から「何か」が抜けていくのを感じた
それが何かはわからないが、自分にとって大事なものだというのがはっきりわかる
まずい
これを奪われるのはまずい
抵抗しなくてはならない
だが抵抗することができない
「・・・ぐっ・・・かはっ・・・」
抵抗すればするほど、全身が壊れていくのがわかる
物理的な攻撃ではないはずの貫かれた胸からは、傷を受けたかのように血を噴き出す
口からも血を吐いているはずだが、そんなことはどうでもいい
グラハルトは咄嗟にステータス画面を呼び出し、自分のHPを確認する
減っていない
きっとこれは幻覚か何かで、血を出しているように見えるだけだ
グラハルトはそう判断し、無理矢理に体を動かそうとする
剣を持った男は、それを見て声をかけた
「ふん、なかなか大変だなぁ?「死ねない」ってのも辛そうだ」
「・・・なん・・・だと・・・」
「知らずにここまで来たとはな
まぁいいさ、どちらにしろ「全て」もらうつもりも無い」
「ッ!」
ズルッと肉と剣がこすれる不快な音がして、剣が引き抜かれる
貫いていないと思っていたグラハルトの胸は、彼の予想を大きく外れていた
貫いた、という現象でここまで綺麗に穴が開くとは思えないほどに、剣の形に合わせて穴が開いていた
それは物理的に「破壊」したというよりも、「消滅」したといいたくなるほどに、綺麗に開いていた
男は唐突に笑い出し、グラハルトの驚いた姿を見ている
「アハァーハッハッハッハァ!意外だったか!?それはそうだよな!胸を貫かれて死んでないんだもんなぁ!?」
グラハルトは信じられないような雰囲気で、自分の胸を見ている
穴の空いた胸からは大量の血が流れだし、大地に赤い水溜まりを作っていく
グラハルトの血に濡れた剣を持つ目の前の男が、高らかに笑っていた
狂ったような笑いだけが、周囲に響いていた
「アッハッハッハッハッハ!やはり世界は私の味方だ!
全てが都合よく動いた!全てが最高のタイミングで重なった!
クククッ!そしてこれからも、全てが私のために動くんだ・・・アハハハハハハ!」
「グラハルトぉ!」
サリアが叫び、二人のいる場所に向かってくる
「あぁ、そうだった、貴様にはまだまだ死んでもらうわけにはいかないんだった」
「・・・き・・・さま・・・」
「心配しなくていい、手は出さないさ
ついでだ・・・あいつらも始末しといてやる」
サリアがグラハルトに駆け寄り、その状態を見て言葉を失う
「・・・そ・・・そんな・・・グラ・・・」
「・・・大・・・丈夫・・・だ、・・・勝手に・・・殺す・・・な」
息も絶え絶えに、だがはっきりと口に出してグラハルトは無事を知らせるが、サリアにはそんなことが信じられない
「その通りだ、まだ生きてるよ
早く連れて行くんだな」
「貴様っ!」
「おおっと、止めといたほうがいい、君でかなう相手じゃないよ?」
「なんだ・・・と・・・」
サリアは男と会話しながら、彼のある部分を見てしまった
彼の顔、そこにある片方の目
そこには、普通ではないものが存在していた
「馬鹿な・・・それは・・・」
ありえなかった
それは一つの時代に一人しか存在しないから
生まれ変わりのように、必ず一人だけしか存在しないはずのものだった
彼の片目には、虹色の輝きが環を作っていた
万物の才能
サリアの目の前に立っている男は、その証拠である輝きが片目に存在した
――――――――――
「消えろ、雑魚ども」
その男は魔物達に向けて、片手を振った
それだけだった
それだけに見えた
それだけで、魔物達は吹き飛んだ
「なっ!!!」
ありえなかった
手を振っただけで、衝撃波が発生したらしい、ということしかサリアには認識できなかったようだ
グラハルトが放っていた魔法のような範囲が、その衝撃波によって吹き飛ばされ、そこにいた魔物達を吹き飛ばしたのだ
その本人は、まるで消耗した様子がない
ニヤニヤとした顔を浮かべたまま、当然といった顔をしている
「片付けはしておいてやるさ、さっさとそいつを連れて引っ込むんだな」
サリアに向けてそう言い放ち、彼は魔物達のところへと歩き始める
「ま、待て!貴様は一体・・・!」
サリアが男を呼び止める
男は振り向こうともせず、だがはっきりと聞こえる声で、返事を返した
「初代学園長、ライアン=ローレンス」
ライアンは、それだけ言って魔物達に突っ込んでいった
目にも止まらないその速さは、サリアでさえ捕らえることができない
「待っ・・・!」
次の言葉を言おうとするころには、すでに彼の姿は無くなっていた
代わりに、魔物達の軍勢が次々と弾け始める
あれが全てライアンのやっていることだと、サリアには信じることができなかった
「初代・・・だと?300年前に死んだ人間がどうして・・・」
何が起こったかわからないが、わかっていることが一つだけある
「まずは、治療だ」
グラハルトを背負い、サリアは砦へと急いだ
え~、ジャン○系とかのマンガならこういう終わり方もよくあるかな~なんて思ってもらえたら嬉しいです
一旦この話で連話は終了し、新たな短めの連話が少し入ります
その後アリサ編に戻ると思われます
当初の予定よりも話数が多くなってきていますが、最後までお付き合いいただけたら感謝でございます
累計PV6万件突破の記念として、また何か設定集のようなものを作る予定ではあるのですが、なにぶん本編に関係あるもので語らないものって何かあったかな・・・?という状況でして、あまり期待しないでいただきたいでございます
とりあえずサリアのステータスは書きます
今後ともソウケンをよろしくお願いします