聖騎士の贈り物7
毎度お読みいただきありがとうございます
物語全体が佳境に入ってまいり・・・そうでもないか
フラグが続々回収できてきまし・・・うん、そうでもないな
うん、なんといいますか・・・うん、すいません・・・
本編をどうぞ
魔法学園の一室
偉い人がいそうな部屋の、偉い人が座りそうな椅子、その前にある偉い人が使いそうな机
そこにいる偉そうな格好をした年寄り
つまりはこの学園の長という立場にある、偉い人がいた
その偉い人は、ある報告書に目を通している
読み終わったその書類を机に置き、溜め息をひとつはく
「はぁ~・・・、思ったより厄介じゃのぅ
どうしたもんかのぅ」
すっとお茶が差し出される
女性の教師がにっこりと微笑み、机をはさんで向かい側に立っていた
「お疲れ様です、学園長
・・・その書類は例の事件の報告書ですか?」
女性の教師は書類を軽く見ながら、学園長に質問する
「あぁ~、そうなんじゃよ
ど~~~も嫌~な予感がするのぅ・・・」
学園長は椅子の背もたれによりかかり、軽く伸びをしながら返事をした
どうでもいいがその椅子、ものすごく座り心地がよさそうである
「嫌な予感ですか?内容を伺っても?」
「むぅ・・・長いぞい?」
お願いします、といって自分の分のお茶を用意する教師
応接用のソファーに座ったのを見てから、学園長は語り始めた
「初代・・・ライアン=ローレンスのことは知っておるじゃろ?」
「ええ、この学園に勤めるものなら当然です
万物の才能を持っていたらしい、ということまでは存じています」
初代学園長ライアン=ローレンス
学園の創立者にして、学園の初代学園長を勤めた稀代の魔導師
経歴のほとんどが不明で、ある日突然現れたように有名になり、世界各地で冒険者として活躍していた
あるときこの学園の設立を宣言し、各国の王族・貴族・権力者から協力を得た
万物の才能を持っていたらしい、ということくらいしか情報が残っておらず、彼自身についての話はほとんど知ることができない
「彼の目的が何なのかよくわからんから、推測でしか話せんがのぅ
どうにもあの墓石は・・・召還の媒介になるようでなぁ
それだけならいいんじゃが、何かをどこかに贈るような能力もあったみたいじゃ」
「召還の媒介で、何かをどこかに贈る・・・?」
「・・・例えば戦闘の記録とかじゃな」
「戦闘の記録・・・じゃああのウォードラゴンは・・・」
「恐らく記録をとるために召還されたのじゃろうな
あの場で戦闘をした6人・・・それに蒼犬の分も含めて、どこかの誰かが彼らのことを知ったのは間違いないじゃろう」
「そんな能力を一体どうして?ライアン=ローレンスは300年も前に死んでいるんですよ?」
「さてのぅ、調べるにはあまりにも年数が経ちすぎておる・・・
しかしどうにも嫌な予感がしてのぅ、なんかできんかのぅ?」
学園長の問いに、女教師は答えることができなかった
――――――――――
「ぬぅうううぁあああああああああ!!!」
グラハルトは魔物の軍勢に再び突っ込んでいた
今では敵の数も目に見えて少なくなっている
当初の4分の1もいないだろう
とはいってもそもそもの数が万を遥かに超えていたので、まだまだ多い状況ではある
この突撃でグラハルトは都合4度目の突撃になる
一度の突撃で4分の1ほどづつ倒しているので、単純計算ならこの突撃で終わると考えられる
だが現実として、相手が都合よく固まっていてくれるわけもない
物量を活かして拡散し、一気にやられないようにしている
通り抜けて後方を叩こうという策略が無いのが、魔物達の悲しさであろうか
魔物達は目の前の脅威であるグラハルトを排除することに躍起になっており、全ての魔物がグラハルトを狙っている
グラハルトにしてみれば都合がいいのだが、一気に排除できない状況にはさすがに苦労しているようだった
全てを殲滅することは不可能ではない
だがこのまま方々に広がった状況では、あと数回はこの無茶を繰り返さねばならないだろう
時間切れが来れば些細なことで死んでしまう
味方の消耗も大きくなってきている
奇跡的に死者こそ出ていないが(B貴族の部下を除く)、このままでは厳しい状況であるのは間違いない
砦に搭載された兵器の数々も、今では半分以上が使い物にならなくなってしまっている
持ってあと2回
それが恐らく限界だった
今を含めてあと3回の突撃で、魔物達を全て倒さねばならない
「ぬぅうううぁあああああああああ!!!」
剣から迸る光が、目の前の魔物達を消滅させていく
ちなみに前回から読んでいる方なら気づいてるかもしれないが、グラハルトは剣を振るときの掛け声が全く同じである
これは別に彼の叫び声のボキャブラリーが少ないわけではない
実はこれスキルなのだ
剣士系職業の基本スキル「パワースイング」
MPを消費することで、瞬間的に筋力をあげ、強く振ることができるスキル
転生するたびに、その上位である「フルパワースイング」「マキシマムスイング」「オーバードマキシマムスイング」となっていく
そして最上位の剣士系だけが使える「オーバーロードスイング」
グラハルトはこれを使って攻撃している
ゲームだったときには、普通スキル名が画面に表示されつつ発動するのだが
なぜか、このスキルだけは違った
画面に表示されるのがこのかけ声なのだ
パワースイングから順番に
「ふん!」
「ぬぅん!」
「ぬぉりゃああ!」
「ぬぅぅおおおおおおお!」
「ぬぅうううぁあああああああああ!!!」
製作者の何かがこもっているということだけはわかる仕様だった
途轍もなくどうでもいい話なのだが、グラハルトは叫びたくて叫んでいるわけではなかった
閑話休題
「崩落!アースクエイク!!」
グラハルトは剣を地面に突き刺す
剣から前方に魔方陣が浮かび上がる
その魔方陣は緑色の光を放ち、すぐに消えてしまった
だがそれは失敗したわけではない
突然剣を刺した部分から、大地に亀裂が入る
その亀裂は剣を中心に150度近く開いた扇状に入っていく
次の瞬間
大地が爆発した
岩が柱状になって、地面から次々と突き上げてくる
大地震とも呼べるほどの振動を起こしながら、数百メートルにわたって次々と飛び出していく
エクスプロージョンよりも遥かに広い範囲、長い距離を突き進むそれは、味方でさえも戦慄を覚えた
だが、その攻撃のおかげでさらに魔物達は減った
一気にたたみかけようと、グラハルトが剣を上段に構える
フォースディストラクション
まさにその詠唱が詠う通り、必ず殺す剣
黄金の光が、あらゆる存在を消滅させる
グラハルトが使える中で、恐らく最強の一撃
その一撃を放つための準備に入った
グラハルトのブローチに刻まれた犬の模様
その犬が、再び笑った
――――――――――
サリアはグラハルトの後方にいた
前方には、黄金の光をドーム状に展開させたグラハルトが見える
あれを使っているということはそろそろ時間切れだなと判断し、サリアはグラハルトの近くへと走り出した
黄金の光の柱が出現し、それが倒れ、再び魔物達を消し飛ばす
もはや魔物達の数は目に見えて減っており、この分なら次の突撃で決着が着くだろうと予想できた
急いでグラハルトの元へと駆け寄る
グラハルトの近くまで行ったとき、サリアは驚いてしまった
なぜならグラハルトの目の前に、一人の男が立っていたからだ
何もかもを消滅させてしまうあの光が放たれたあとで、グラハルトのすぐ傍に誰かがいる
はっきり言ってそれは、かなり危険な状態だった
サリアは直感で、あの男はまずいと判断した
なぜならその男は、笑っていたから
狂気を感じさせる笑みだった
サリアはさらに驚く
なぜならグラハルトの体に、ありえないものが見えたからだ
自分の攻撃で、傷ひとつつかなかった鎧から、ありえない物が見えている
はっきり言って、かなり危険な光景だった
サリアは直感で、あれはまずいと判断した
なぜならそれは、剣だったから
グラハルトの体を剣が貫いていた
「グラハルトぉ!」
――――――――――
少し前
光が空へと昇っていき、それを魔物達に振り下ろした
まだ少し時間があると判断したグラハルトは、今のうちにサリアのところまで下がろうとした
その瞬間、グラハルトの全身から力が抜けていった
その状況にグラハルトは違和感を感じる
体感時間とはいえ、まだ1分以上時間は残っていたはずだ
力が抜けていく感覚も、どこかおかしい
力を奪われているような、「何か」から干渉されているような感覚だった
ふと、グラハルトは自分の首下に違和感を感じた
そこには、別空間にしまったはずのブローチ
これだ、と直感的に気づくが、すでに遅い
力が奪われただけでなく、スキルの残り時間も無くなったようだ
立つことさえできなくなり、膝を地面につく
倒れなかったのは意地だろう
こんな危険すぎる状況を前に、倒れるわけにはいかなかった
ブローチを外すだけの動きさえできないが、それでも倒れるわけにはいかなかった
だが、外す必要などなかった
勝手にブローチが外れたからだ
グラハルトの元を離れたブローチは、地面に落ちて転がる
犬の紋章がグラハルトに見えるように倒れる
そして、その犬の紋章が、グラハルトを見て・・・
笑った
しまった、回収できなかった
あれですよね、気になるところで切るのは連話の基本ですよね?そうですとも、ええそうです、決して才能が無いわけじゃない
「やっべ、これ思ったより長くなる、いいか2話に分けちゃえ♪」なんて決して思ってはいません!
こんな自分が本性ですが、今後ともよろしくお願いいたします