聖騎士の贈り物1
ここから再び連話です
サリアとグラハルトのラブストーリーが・・・・っ!あるわけない
本編をどうぞ
聖騎士サリア=エルトリア
世界でも有数のパラディンとして知られ、「鉄壁」の二つ名を持つ凄腕の騎士
その腕前は二つ名が表す通り、まさに鉄壁
あらゆる攻撃を的確に防ぎ、それが武器であるか魔法であるかなど一切関係なく、あらゆる攻撃から仲間を守る
三十代の後半に差し掛かった年齢であるというのが信じられないほどに、彼女は強く、そして美人だった
そんな彼女は今現在、騎士達が使う訓練場で、ある男と対峙していた
「ふはは!今こそ決着を着けるときが来た!
聖騎士サリアよ!私が真のパラディンであるということを教えてやろう!」
向かい合う男は無駄に豪奢な鎧を身につけ、防御なんてしたらせっかくの凝った細工が削れてしまうような、見事な装飾の盾を構えている
しかも重鎧に重盾を装備しているにも関わらず、取り回しがしづらそうな無駄なゴテゴテジャラジャラキラキラした装飾のついた長剣を持っている
「・・・・それでよく動けるわよね」
彼女の言葉も最もである
そのくらいゴテゴテした装飾で、悪趣味と言われても仕方ないような装備なのだから
残念なのは、それだけ悪趣味な見た目であるにも関わらず、この男は強い、という事実であった
――――――――――
「貫け!ライトニングアロー!!」
男は電撃系の魔法の矢を放つ
電撃系は威力が高く、速度が速いという特徴がある
その分だけ扱いは難しいし、集中に必要な時間も長いことが多い
なにより自分の魔力だろうが変化した魔力だろうが操作性が異常なまでに悪いという特徴がある
狙った場所に着弾させること自体は難しいことではないが、その速度が速すぎるために、放ったあとで別の場所を狙うといったことがほとんどできない
ただしこういう止まっている相手を狙う場合などに限れば、早すぎるという特徴は長所になる
操作できないほどの速度で飛んでいくのだが、それは逆に相手に対処するヒマを与えないということになる
普通であればただ盾で防いで終わり、それもただの盾ならば感電してしまうため、防いだことにはならない
普通であれば、の話であって、鉄壁と呼ばれる彼女にはこの程度でダメージにはならないが・・・
「ふん」
サリアはただ盾で防いだだけのように見えた
だがそれが、瞬間的に魔力で雷の通り道を作り、体より先に地面に雷エネルギーを流したと気づけるものは少ない
「貫け!貫け!貫け!」
男は立て続けに魔法の矢を放つ
一度に飛んでくるのは1本のみ、それも威力は一般人ならショック死できるかもしれないが、そこそこの冒険者なら十分耐えられるレベルだ
「何を狙ってるんだか知らないけど、この程度じゃ消耗さえしないわよ?」
サリアは軽く挑発してみるが、男はそんなことはわかっていると言いたげな顔だ
「ふん!狙いはこっちさ!」
よく見れば男は長剣に魔力を込めている
よく魔法を強化するのに媒介が用いられるが、普通は杖とか魔力を込めた本とかだ
しかし彼の長剣は媒介としての能力が高いものらしい、ゴテゴテした装飾はそのためだった
「雷を司りし精霊よ、我が敵に汝が鉄槌を下せ!サンダーボルト!!」
瞬間、轟音が響き、彼の剣からさきほどより遥かに巨大な雷光が発生する
電気の逃げ道を作るなどという方法では防ぎきれないほどの巨大な雷エネルギーは、彼女を焼ききらんと迫ってくる
「我が盾は完全無欠!シールドオブシールド!!」
シールドオブシールド
魔法攻撃に限り、あらゆる攻撃を数秒間無効化するスキル
パラディンの中でも使える者は少ないスキルで、彼女が鉄壁と呼ばれる理由の一つ
理屈は難しくない、単純に魔力の「擬態」を解除する性質の魔力を作り出し、それを膜状に展開するだけという単純明快なスキルだ
ただしあくまでも「擬態」を解除するのであって、例えば魔力で操っているだけの大岩などは防げない等という制限もある
一応膜自体にもある程度の防御能力はあるが、決して高いとは言えない
さらに言えば消費も凄まじい
なぜなら擬態を解除するという能力そのものが、その能力を持った魔力自身を解除しようとしてしまうために、常にその魔力を生成し続ける必要がある
そのためどんな熟練者でも、持って数秒しか展開できないという難しいスキルだ
しかしこの場合においては絶大な効果を示す
電撃系はそのあまりの速さゆえに、攻撃が持続する時間も極端に短い
一瞬展開しただけで十分に効果はあった
「この程度?」
「それを待ってたんだよ!サンダーボルト!!」
二連発
わざわざ媒介を使った理由はこれだった
恐らく剣には、魔力を一定量注げば勝手に魔法が発動するような仕掛けがあるのだろう
その間に本人が再び同じ魔法を使用し、防御スキルのスキをついて勝負を決めるつもりだったのだ
再び雷光が輝き
サリアに直撃した
・・・・・
「やった・・・か?」
直撃した瞬間に激しく光り輝いた雷光は、彼の視力を一時的に奪った
真っ白な視界のなかで、正面にいたはずのサリアの気配を必死に探る
「・・・やってなかったら負けだな」
弱気な発言をしてしまうのは、視界が利かないという不安からだったのだろうか
それとも自分の後ろから感じた、強烈な殺気のせいだったのだろうか
後ろから感じる殺気と同じ場所から、女性の声が響いてきた
「あら、じゃあ私の勝ちね」
サリアの声は、あの攻撃を防ぎきったと確信するには十分だった
「・・・どうやった?直撃したはずだ」
段々視界が戻ってくる中で、彼はサリアにそう尋ねた
「確かに驚いたわ、でも直撃はしてない
・・・同じスキルを使っただけよ、ただし盾じゃなくて鎧にね」
シールドオブシールドと名がついているため、盾に纏うものというイメージが強いこのスキル
しかし実際には盾じゃなくても使える
言ったように鎧であっても、武器に使うことだってできる
ただし理屈はわかっていないが、なぜか盾以外に使った場合は使ったもの自体にしか効果が発揮されず、周囲に展開することもできないという仕様になっている
盾という存在が、スキルを強化しているからではないかと言われているが、真相はわかっていない
「・・・シールドオブシールドの2連続とは・・・やられたな」
「まだまだ鉄壁を貫くには足りないわね」
「ふん、次は勝つ!」
すっかり回復した視力で、サリアに悔しそうな顔を向ける男
そしてその男はサリアの姿勢を見て驚いた
なんと彼女は盾こそ構えているが、短剣を握っていないのだ
殺気というのは文字通り殺そうとする気持ちであって、それは武器などの相手を殺せる道具を持ったときに顕著に現れる
それを持たずに、いや正確には盾であれほどの殺気を出したということは、彼女が盾をどれだけ使っているか容易に想像できる
彼女にとっては、盾こそが絶対の防御であり、盾こそが最も信頼できる武器なのだ
「・・・次は・・・勝つ!」
同じ言葉を繰り返す男だが、二度目の言葉には強い意志を感じられた
「ふふふ、負けないわ」
歩き出した彼の背を見ながら、サリアは呟いた
「そう、次は勝つわ」
彼の背を見るサリアは、別人の姿を重ねているような目だった
――――――――――
「サリア様!大変です!」
訓練場を離れ、廊下を歩いていたサリアは後ろから声をかけられた
見れば門番の役目をしていたはずの部下が、血相を変えて走ってくる
ただ事ではないと判断するには簡単だった
すぐに表情を引き締め、鷹が睨むように部下を見る
「とりあえず落ち着け、何があった」
「は、ハッ!失礼しました!
城内に侵入者です!相手は一名!見た目からして恐らく蒼犬です!
目標は・・・」
蒼犬、と聞いたサリアは走り出した
部下が何かを続けようとしていたが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりだ
「とうとう来たか、蒼犬っ!」
「王の間に向かってましたよー!」
部下はなんとかそれだけ伝えることが出来た
――――――――――
「蒼犬ーーー!!!」
王の間に繋がる大扉は半開きになっていた
扉を抜け、そこにいるはずの相手に向かってサリアは大声で叫んだ
「・・・む?」
そこには蒼犬がいた、確かにいた、いたのだが何か雰囲気が違う
なんというか、運動会だと思って張り切って出てきたら明日でしたみたいな微妙な雰囲気だ
「・・・あれ?私なんか間違えました?」
「・・・間違ってはいない・・・と思う」
なぜか蒼犬にフォローされてしまうこの状況に、サリアはますます混乱してしまう
何故か国王と王妃まできょとんとしている
状況を説明してくれたのは何故かいた第一騎士団の団長、サリアの上司だった
「ゴホン、あ〜なんというか、結果から言うなら誤報だ」
団長が言うにはつまりこういうことだ
門番を完全に無視して城内に入ろうとしたグラハルトを、門番が拘束に近い形で取り押さえようとしたところ、機敏に察知したグラハルトが殴って気絶させてしまった
それを見ていたもう片方の門番が応援を呼んで回ったのだという
「ん?なぜそれで誤報なんです?普通の対応だと思うのですが・・・」
「まあそうなんだがな、グラハルト殿がアレックスの名前を出すものだから・・・」
「アレックス?なぜ息子のことが話題に?
というかなぜ蒼犬がアレックスのことを知っているんだ?」
「・・・娘の同級生だ」
「同級生?あぁ魔法学園か・・・、え?娘?」
「・・・義理のな」
「え?義理の娘がアレックスと同級生?は?」
「・・・とりあえずサリア、陛下の前だということを忘れてるだろう」
頭の上に大量のハテナマークを出しているサリア
今の彼女を三十代だと言われて信じる人はいないだろう
「かまわないさ、それよりアレックスは元気なのか?
あいつ変なところが真面目だから苦労しそうで心配なんだ」
今さらなのだが、国王はかなり若い
サリアより少し年下の三十歳といったところだろう
第三王子が「不幸な事故」にあってから数年後、正式に王位を継承し、拙いながらも前王の助言の下、国王として立派に生きている
アレックスとは昔から兄弟のように仲良くしていたため、グラハルトが
「・・・アレックスに言われて来た」
という、何をしに、が抜けた言葉に反応して、即座に不審者扱いを解除させてしまった、というのがこの微妙な空気の原因だった
国王曰く
「俺にはワカル!アレックスが選んだ人に悪いヤツはいなぁーい!」
ちなみにこの国王、素の人格はちょっとバカである
「ふむ?つまり戦う必要は無い?」
「無い!サリアもアレックスの話は聞きたいだろ?
戦うならちょっと話を聞いたあとにしよう」
「はぁ、かしこまりました陛下」
何故かすっかり殺気も昔の記憶も、綺麗さっぱりどこかに飛んでいったサリアだった
原因は今と昔のグラハルトから感じる雰囲気の違いだったのか
それとも自慢の息子の話を他人から聞けるからなのか
それとも国王のバカな態度が理由だったのか
サリアはよくわからないまま、そのまま雑談に興じることになった・・・
ちなみに最初に出てくる名前のない彼もパラディンです
いわゆる「普通」はこういうパラディンになるんだよ、というタイプですね
職業紹介もそのうち書かないとなぁ・・・