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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第四章「現在編」
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閑話・聖騎士サリア=エルトリア

毎度読んでいただきありがとうございます


今回はアレックスのおっしょー様のお話です


けっこう無理矢理1話分にまとめたので、説明不足感がひしひしと伝わってきます・・・、自分でそうなんだから読者様におかれましては更に感じられてしまうと思いますが、そこは一つご理解いただければ・・・何をとは言わないでください


それではどうぞ

聖騎士パラディン


鉄壁の守りとも、戦場の魔剣士とも、はたまた騎士の姿をした魔導師とも呼ばれる職業クラス


その中でも有名な人物、聖騎士サリア=エルトリアという人物がいる


赤茶色の長い髪をポニーテールにし、鷹のように鋭い目つきをしている

三十代も後半に入った年齢というのが信じられないほど美しい顔立ちは、男女を問わずに人気がある

身長は女性にしては高いが、それよりも自身の二つ名を表すような断崖絶壁の胸が若干コンプレックスらしい


だが実力は世界でも有数のパラディンとして有名な人物だ


二つ名はそのまま「鉄壁」


歩く盾とも呼ばれる彼女は、まさにパラディンの最大の特徴を、最大限活用する高レベルの存在なのである


防御に徹した場合に限り、蒼犬の攻撃でさえも防ぎきると噂されるほどに、鉄壁の防御を誇る


そんな彼女が有名になるのは自然なことなのだが、実は有名になったのは最近のこと


ほんの4〜5年ほどで有名になった


しかもそれ以前の彼女を知る人物達は、全員が彼女のことを弱かったと言う

さらに詳しく言われていたことを説明するならば、以前の彼女は防御より攻撃を重視しており、パラディンとしての役割を軽視するような態度だったらしい


それが4〜5年前にあったある事件の後で、急にその方向性が変わった

三十代を過ぎた体の衰えを感じ始める年齢であったというのに、目覚ましい成長を遂げていき、戦場においては必ず生き残り、任務においては必ず仲間全員を無事に帰還させた


彼女に何があったのかを知る人物は、同じ任務についていた者だけ


そして事件を起こした張本人である、「蒼犬」と呼ばれる男だけだった



――――――――――



サリアはその日、護衛任務についていた


護衛対象は王族の一人で、第三王子という微妙な立場の人間だ


王位継承権はそのまま第三位なのだが、第二王子は病弱で実質上には継承権を放棄している


第一王子はなかなか良くできた人物だが、野心が無く国民第一主義、国民からの支持は高かった

国の重鎮達にとっては、自分達の思うように動いてくれない相手ということで、あまり人気が無い


それに対して第三王子は野心家で、国民よりもむしろ国自体、はっきり言ってしまうなら自分がいい思いができれば後は知らないというような人物だった


当然金と権力に溺れた国の重鎮達は、第三王子を祭り上げて王位を継がせようと躍起になっている


そんな微妙な立場と時期に行われたこの護衛任務


実は第一王子派の、サリアが所属する第二騎士団の団長と副団長を殺害するための罠だった


道中に盗賊が王子を狙う形で襲い、時間稼ぎをしているうちに大型の魔物を投入

逃げるふりをした盗賊がスキをついて両名を暗殺・・・・という筋書きだった


そして事実、その通りにことは運び、両名は暗殺されてしまう

咄嗟にサリアが指揮を代理したが、強力な魔物と盗賊達の巧妙な戦術の前に苦戦していた


彼女と蒼犬が出会ったのはその時だ



――――――――――



それは突然だった


離れた場所にいた盗賊の一人が急に倒れたのだ

まわりの人間はそれに気づきさえしないほど、あまりにも突然倒れた


やがて一人、もう一人と倒れていくのだが、誰もそれに気づいていない


サリアだけが、唐突に頭が「無くなった」盗賊を目撃していた


「ッ!?全員下がれ!防御陣形!!」


サリアがそう指示をだし、王子を乗せた馬車を囲むようにして、騎士達は盾を構える


その直後


青白い光が中空を走ったのを、サリアは見た


その光は盗賊の一人にぶつかり、頭を正確に貫き、絶命させた


騎士達が一ヶ所に集まったことで、邪魔が無くなったかのように、その光は幾度も見えた


正確に盗賊達を捕えるその光は、天罰と言いたくなるほどに美しく、清らかな青白い光だった


盗賊達が7割ほど肉の塊になったあたりで、唐突に大型の魔物が暴れだした

恐らく操っていた者が殺されたのだろう、全部で五体いた魔物は全て暴れ、ある一ヶ所を目掛けて襲いかかった


鼻が無くなった象のような魔物は、あるいは口から炎を吐き出し、あるいは巨体に見合わぬ速度で突進していく


全ての攻撃がぶつかり、炎が立ち上る中、自らも火の中にあるというのに、象のような魔物は動かなかった、突進したままの姿勢で立ち止まっている

正確には、壁にぶつかってその壁を突き抜けようとするように、前に前にと力を込めている


炎の中から何かが象を押し返し始め、その全容を明らかにしていく


蒼い鎧、金の装飾、犬のような兜


腰には片刃らしい細く、長く、反りのある武器が2本挿してある


突進していた二体の象を、片手で一体づつ抑えている

抑えているというか


「バカな・・・あの魔物を押し返している・・・?」


魔物はいまだに前へと進もうとしているのだが、まるで荷車を押すようにどんどん押し返される


この魔物は普通なら、人間十人と引っ張り合いをしても余裕で勝てるだけの力がある

それだけにこの状況に対して、驚きの言葉を出してしまうのは仕方ないことであろう


「鬼神光剣!!」


その場にいた全員がその言葉を聞き取った直後、再び青白い光が幾つも走る


象の魔物は瞬く間にただの肉塊と化していき、ついでに盗賊達も同様にしていく


数秒もたつころには、騎士団以外に生きている者はいなかった



――――――――――



サリアが目の前の光景に呆けていると、その男はこちらに向かってゆっくりと歩いてきていた


敵ではないようだが、味方でもないと判断したサリアは声を張り上げる


「止まれ!」


男は素直に止まる


「貴様は何者だ!名を名乗れ!」


「・・・グラハルト」


男は以外に素直な受け答えをする

悪い人間では無いのだろうかと、サリアが考え始めたが、次の言葉を聞いて一気に血の気がひいた


「・・・そいつを殺しに来た」


そう言って指差したのは、後方にあった馬車、その中から顔を出しておもちゃを見つけたような顔をしている、バカ王子だった


バカ王子はそのセリフが聞こえなかったように、ずんずんと前に出てくる


「王子!危険です!」


サリアの忠告を完全に無視して、王子は男に話し始める


「貴様!気に入ったぞ!部下にしてやるからありがたく思え!」


王子のニヤニヤとした顔は、まるで自分の言葉は絶対服従が当たり前と言いたげだ

自分に使えることが平民の幸せとでも言い出すかもしれない


不穏な気配を察したサリアが動く


「・・・寝言は寝て言え」


サリアが王子の前に立ち、巨大な盾で庇うように構える


甲高い金属音が聞こえ、盾と剣が擦れあう不快な音が響く

ハンマーで叩かれたような、ありえないほどの重い衝撃を感じつつ、両足でなんとか踏ん張る


「・・・弱いな」


男はそう呟き、サリアを見つめる


「貴様・・・!騎士を侮辱するかっ!」


今まで積み上げてきたものを否定されたサリアは、目に見えて怒る


「・・・後ろを見ろ」


「なに?」


言われて後ろを見てみると、そこには衝撃の光景があった


ニヤニヤ笑いのまま、頭と体がお別れをしている第三王子が転がっている

男が言った通りに寝てしまったようだ、二度と覚めることの無い眠りへと


「な・・・なんで・・・」


サリアは第三王子が死んだこと自体はどうでもよかった、むしろ死んだほうがいいとさえ思っていた

周りの騎士も同じ考えのようで、王子が死んだことより、どうやって防御を抜けたのかに驚いているようだった


「・・・仲間を守れないパラディン・・・ただの的だな・・・」


「貴様・・・っ!」


「・・・心配しなくていい、・・・お前は殺さない」


「どこまで・・・どこまで侮辱する気だ!」


「・・・殺す相手がいなくなるまでさ」


言い終えた瞬間


再び甲高い音が鳴った


音と同時にサリアの右側から何かが飛び散った


それが血だとすぐに気づいたものはいない


「・・・え?」


「・・・あと六人だな」


「や・・・止めろ・・・」


「・・・鬼神光剣」


「やめろおおおぉぉ!!!」


サリアは持てる全ての力を使って、男に魔法を放った



――――――――――



後日、殺された七名は、この事件の内通者であったことが判明した

金を握らされ、成功すればそれなりの権力を与えられる約束があったらしい


だがサリアにとってそんなことはどうでもよかった


手も足も出なかった、という事実だけで彼女は打ちのめされていた

積み上げてきた全てが通用しなかった、どんなに魔法を打ち込んでも、あの男は止まらなかった

どんなに力を込めて攻撃しても、微動だにしなかった

自分にできたことは、ただ一撃を防いだだけ

それも自分を守ったのであって、自分以外は誰一人として守れなかった


彼女は・・・弱かった・・・


弱い自分が許せなかった


自分の弱さを悔いて泣いていた


だから彼女は、入り口から入ってきた人物に気づけなかった


「師匠・・・」


そう話し始めたのはアレックス、彼女の義理の息子


昔彼女がまだ若いころ、戦争に巻き込まれた村で唯一生き残った赤ん坊


いまではもう13歳になり、自分のようになりたいと言ってくれる自慢の息子


「アレックス・・・私・・・弱かった・・・誰も守れなかった・・・

私は・・・弱い・・・」


涙を流しながら語る彼女


その彼女の重い言葉を受け止めたアレックスは、しっかりと言う


「師匠は弱くなんかない!」


アレックスの言葉に、サリアは顔をあげる


「師匠は弱くなんかない!だって・・・だって・・・っ!

お母さんはいつだって俺を守ってくれたじゃないか!」


守る、という言葉にサリアは反応する


そして思い出す


『仲間を守れないパラディン』


自分はなぜパラディンを目指したのか、どうしてわざわざパラディンという道を選んだのか


自分の人生は、目の前にいる涙を流す少年のため


彼を守り抜くためにパラディンになったのではなかったのか


自分より弱い誰かを守るために、命を懸けて救いたいと思う何かのために


国という金と権力のためでなく、国という場所に住む一人一人の人間のために、自分はパラディンになったのではなかったのか


「師匠は強いんだ・・・っ!もっともっと強くなるんだっ!

だから・・・だから・・・泣かないで・・・お母さん・・・」


涙を流し続けているアレックスを、サリアはそっと抱きしめた


「ごめんね、アレックス・・・・、ちょっと弱気になってたみたい

私は負けないわ、もっともっと強くなる・・・、次は負けない」


サリアの目から涙は消えた


新たに宿った意思は強く、優しく、母としての力強さを感じさせる


次は負けない


勝つことができないとしても、次は簡単にはやらせない


誰一人として、二度と目の前で殺させたりはしない


肉体は強い意志に引っ張られる


三十歳という年齢の壁を超え、衰えという言い訳をするのは辞めた


彼女が「鉄壁」の二つ名を手に入れるまで、時間はかからなかった

お疲れ様でした


ちなみにアレックスは10歳の時点で正式にパラディンを目指して修行していました、なのでこの時点でサリアは師匠であって、普段はそう呼ばせていました


なぜこの時点でサリアの話を出したかは・・・次回以降で説明していこうと思います・・・


今後ともよろしくお願いします

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