死神の取引6
累計PVが4万件を突破!
ありがとうございます!
記念としまして何かまた人物紹介とかその辺を書こうかな?
この連話が終わるころに合わせて投稿しようかと思います
着々と増えていくお気に入り登録件数と1日のユニークアクセス、毎日覗いてくださる皆様に感謝でございます
それでは本編をどうぞ
無限進化の世界オンライン
よくあるネットゲームのよくあるMMORPG
よくある設定でよくある世界観でよくあるストーリーのゲーム
そのゲームのなかでよくいる、普通よりもちょっと強いボスモンスターと呼ばれるモンスター
その中でもある特殊イベント限定でしか沸かず、再出現時間が長いわりにはレアアイテムをたった一種類しか落とさないというボスモンスターがいた
しかもそのアイテムは他のボスモンスターからわりと高い確率で入手できるため、倒すうまみがないわりには強すぎて倒す理由が無いという何のためにいるのかよくわからないボスモンスターだった
その名を剛龍アレクタリウスという
設定上では、精霊王アレクタリウスという存在を飲み込みその力を得たとされているドラゴンタイプのボスモンスターで、実際クエストでは精霊王を助けるという名目で戦うことになる
だがドラゴン系は総じて強く、特にボスモンスターともなると非常に強力な個体が多い
そのうえ精霊王を飲み込んだというその設定にしたがって、強力な魔法をがんがん撃ってくるのに本体もありえないくらい強いという、公式が生んだチートだと噂されるほどの強力なボスだった
そのアレクタリウスは現在、あるパーティーと死闘を繰り広げていた
そのパーティーは10人以上の大所帯で、後方の支援人員まで含めると30人近くいるんじゃないかと思われるほどの大パーティーだった
その先頭で一番激しく戦闘しているキャラクターは、グラハルトというキャラネームだった
「エクスプロージョン!!」
爆発が龍を飲み込み、少なくないダメージを与えるが、残りのHPがどれくらいかわからないのでどれほど効いているのかわからない
少なくとも画面に表示されるダメージ上ではそれなりのダメージを与えているようだが、このモンスターのHPは桁を1個間違えてないか?と言われるほどあるらしいので、あまり期待はできない
「っか~!どんだけつえーんだよこいつ」
画面上に文字が表示され、味方の誰かがぼやいているのだとわかるが、グラハルトは操作とスキル選択に忙しいために文字入力をしている暇がない
「形態変化ディバインナイト!!ディバイドシールド!!」
「イフリートインパクト!!」
「アブソリュートゼロ!!」
「ナーガ・オブ・ライトニング!!」
グラハルトが展開した防御魔法の後方で、炎が・冷気が・雷が龍に襲い掛かる
画面上の数字はグラハルトよりも明らかに高い数字を表示し、決定打にはならなくとも目に見えるダメージを与えたことを証明している
「タゲ移りそう!グラ!」
「おk!回復よろしく!」
グラハルトはそう言ってさらに一歩先へと踏み出す
「形態変化デュエルナイト!!鬼神四刀流!!」
グラハルトは都合4本になった腕で龍をやたらめったら斬りつける、剣士系にはかなわない威力ではあるが手数が多い、その手数も盗賊系にはかなわないがそれよりは威力がある、かゆいところに手が届くその攻撃は龍に集中し、龍の意識がグラハルトのほうへと向く
「タゲこっちきた!あとよろしく!」
「おk!まかしれ!」
グラハルトは支援を受けながらとはいえ最前線で戦い続けている
他のメンバーは回復や補給のために何度か後方の部隊がいるところまで下がったりはしているが、後方の部隊から送られてくる交代要員のおかげで戦闘はずっと続いている
かれこれ1時間近くこの状態で戦闘をしているのだ
「グラ!ダメージ量的にそろそろ後半の後半!たぶんそろそろ倒せる!」
ボス狩りを提案した仲間の一人がそう叫ぶ
グラハルトはこの状況でダメージ計算なんてやっている彼の脳みそは一体どれだけ凄いんだと関心してしまうが、そんなことはあとになってから聞けばいいだろうと思い、戦闘を続行する
「最低限の予備人員残して全員で攻撃しよう!俺がしんどい!」
「おっけい!全員攻撃だ!後方も参加!一気に行くぞーーー!!!」
全員が一気に参加したことで一気に形勢は傾き、激戦はさらに激戦になっていった
――――――――――
戦いは唐突に終わった
画面で動き回っていた剛龍アレクタリウスは不自然に動きを停止し、死んだことを意味する暗い色に変化していき、これまた不自然に周囲にアイテムが突然出現する
奇妙なファンファーレが流れ、一部のボスモンスターを倒したときに出る宝箱が出現する
「・・・倒した?」
「終わった・・・終わったぜ!!!」
「うはwwwまじかよwwwやっちまったよwww」
わぁーと一気に画面に文字が溢れ、戦いが終わったことを実感する
「アイテム拾えーw記念アイテムだぞwww」
全員を代表してグラハルトが一つ一つ拾っていく
「ま、特に珍しいもんもないわな」
「宝箱の中身はなんだった?」
「いや、まだ空けてないよ。せっかくだから帰ってから空けようかと思って」
グラハルトは全員で戦い、そして勝ったこの戦いを胸に刻みつけた
そしてこの旅をし始めた理由を確認するために、ステータスウィンドウを開いてみる
「あれ・・・、レベル上がってる」
「まじかよ!じゃあ150達成!?」
「うはwwwまじでwww派手なあがり方だなおいwwwww」
「150?エフェクト出てないぞ?」
このゲームはレベル150を達成するとそれの証明代わりにエフェクトが表示される
キャラの周囲にキラキラが出現し、若干キザったらしいエフェクトだ
漫画やアニメに出てくる美形キャラが纏うアレだと思ってもらうのが一番わかりやすい
もちろんプレイヤーによってオン・オフが切り替えられるので、別に表示されていないこと自体は問題ある状態ではない
しかし150達成した後でしかその切り替えはできないため、何か異常がない限り150達成直後は必ずそのエフェクトが発生しているはずなのだ、これが150を達成したことの証にもなる
「バグでもあったか?」
「いや違うっぽい、なんかクエスト発生してる、ちょっとみさして」
「帰ってからでいんじゃね?記念撮影してからにしよーぜ」
そう言って後方部隊の人間も集まり、グラハルトにお祝いの言葉をかけようと近寄るが・・・
「待って、なんか怖いクエストなんだけどこれ」
「どゆこと?説明してみそ?」
「・・・えーっと要点だけ話すわ」
グラハルトが確認した内容は以下のものであった
クエスト名「覚醒」
あなたは見事剛龍アレクタリウスを討伐しました、さらにアレクタリウスを倒したことで最高レベルを達成しましたので、最終クエストが発生しました
あなたは最高レベルに達しましたが、その真の力を解放できていません、剛龍アレクタリウスの中にいた精霊王があなたの力を認め、あなたにそれを使いこなすための試練を与えます
このクエストを達成したとき、あなたは真の転生をすることができるでしょう
剛龍を倒すほどのあなたならきっと達成できるはず、さぁ仲間とともに最後の冒険をしましょう!
「・・・っていう内容だな」
「・・・つまりあれか、まだ続くってことか?」
「ちょっと待てwwwなんだそのクエストwww聞いたことねーぞwww」
「まぁ150をアレクタリウスで終わらせようとするやつはいないだろうな・・・」
「もしかしてこのボスってこのためにいたんじゃねー?レアアイテムの割りに経験値やたら高いし」
様々な憶測が飛び交う中で、グラハルトは一言呟く
「・・・内容やばいな」
全員がその言葉に反応したのだろう、グラハルトの次の言葉を待つために、画面上に大量に表示されていた文字は全て消える
「・・・ゲーム内にいる全てのNPCと会話・・・
ついでにイベントとクエストの全クリア・・・
しんどいわこれ・・・」
「ちょwwwww」
「しんどいwwwそれはしんどいwww」
「うはwwwしかも手伝えることすくねーwww」
再び画面に大量の文字が並び、グラハルトへかけられたはずの祝いの言葉は、全て残念な彼を慰める言葉に変わった
――――――――――
ボス狩りツアーを決行してから2ヶ月、剛龍アレクタリウスを倒してから1ヶ月
グラハルトは最後のNPCの前にいた
そのNPCは引退した友人がお気に入りだったNPC
このゲームを始めたときに一番最初に知り合うキャラで、その後もメインストーリーが進むと何かと関わり合うキャラだった
このキャラに話しかけることで全てのNPCとの会話、という難関が終了する
全てのイベントとクエストのクリアは難しくなかった
そもそもこのゲームではモンスターと戦う戦わないを問わずイベント・クエストは割と早く展開し、さくさく進められるようになっている
相変わらず協力してくれる仲間達がいたので、そういったものは前半でほとんどが終わってしまった
NPCのほうは大変だった
なんせ全てのNPCということは、普段入り込まないようなダンジョンの奥地にポツンといるだけのNPCも含まれていたし、度重なるアップデートのおかげでグラハルトも知らない情報サイトにも載っていないNPCの存在というのも意外と多くあった
結果的に世界中全てを歩いてくまなく回ることになったため、非常に時間がかかった
さすがにNPCを探す程度に友人の力を借りるわけにもいかないと思い、一人で回っていたのも悪かったのだろう、みんなで回ればもう少し早く終わっていたはずである
「ま、みんな十分協力してくれたしな
あとはルーンナイトになったことを報告して・・・報告して・・・?
報告したら俺・・・何すればいいんだろう」
ルーンナイトになったのは友人に頼まれたからであって、ルーンナイトになって何かがしたいと思ったわけじゃない、レベル150になったからって何かをするためになったわけじゃない
突然、あまりにも突然気づいてしまったその事実
グラハルトにとってそれは気づきたくない・・・今までずっと目を逸らし続けていた事実
自分の進んできた道は、どこにも繋がっていない行き止まりを目指す道だったのではないかという漠然とした不安と虚無感
グラハルトは最後の一歩を前にして、立ち止まってしまった
進むのは簡単だ、ただクリックすればいい
右手をちょっと動かして、マウスを操作するだけだ
それだけなのに、それを行うことをひどく躊躇ってしまう
たったそれだけのことができないまま、時間だけが過ぎていく
――――――――――
画面に文字が現れたのは、そんなときだった
「すみません」
グラハルトがその文字に気づき、画面を見てみる
グラハルトのちょうど目の前、画面中央から少し上のほうに一人のキャラクターがいた
「どうしました?」
見れば初期キャラでまだ職業を選択する前の無職状態だ
数秒ほど返事まで時間がかかったので、おそらくネットゲーム自体が初めてなのだろう
「どこにいけばいいですか」
「チュートリアルはやりましたか?」
・・・・・
「やりました」
「ではまずそこのNPCをクリックして会話してみるといいですよ、色々ヒントをくれます」
・・・・・
「ありがとう」
非常に短い文章を打つのにこれだけ時間がかかっているのを見て、グラハルトは何か穏やかな気持ちになってしまう
自分もこんな時代があったなと思い出してしまう
まぁ仕事でパソコン使っていたからタイピング速度はそれなりに速かったが、ネットゲーム初心者なんてタイピングが早くてもこんな感じの会話しかできない
昔の自分と重なってしまう初心者を見て、昔の自分とその隣にいた友人を思い出す
そういえば自分も最初にこんな風な会話をしたっけななどと思い出していた
そのすぐあと、さらにもう一体キャラが出現した
「おー、きたか」
「おまたせ、これからどうすればいいの?」
「そこのNPCに話すんだって」
初心者二人、男キャラと女キャラ
リアルと中身が違うなんてよくある話だが、そんなことはどうでもいい
二人の初々しい姿を見ていたグラハルトは、さっきまでの自分の悩みが恐ろしくどうでもいいことに気づいてしまう
この二人の初心者のように、ただ楽しむだけでいいじゃないかと、全てのNPCと会話し、全てのイベントをこなし、全てのボスを倒した
だがそれが本当に全てだったのかと聞かれたら、そんなことは無いはずだ
この世界にはたくさんの人がいる、たくさんのプレイヤーが増え続けている、たくさんの仲間がいる
それだけでもまだまだ楽しめることがいっぱいある
だというのに、こんなことで悩んでいても意味がない
たったそれだけのことに気づくのに、自分はなんて時間をかけたんだろう
グラハルトは決めた、そして行動した、二人の初心者にそれを見せるために、二人の初心者がこれから目指すべき高みを見せるために、世の中にはこんな人間もいるんだということを教えるために
グラハルトは最後のクリックをした
「あら、久しぶりですね。なんだかとても立派になったような気がしますね?いつかお仲間さんにも合わせてくださいね」
いつも通りの台詞、いつも通りの内容、いつも通りのグラフィックが表示され、グラハルトのことなど何の関係もないと言わんばかりにいつも通りの対応をするNPC
いつも通りなら何も無く表示が消えて終わりのその光景がいつも通り行われた
いつもと違うのはその後で、グラハルトの画面にポンと表示されたクエスト終了を知らせる表示だった
クエスト「覚醒」
おめでとうございます!
あなたはこのゲームの全てをクリアしました
ですが全てをクリアしたあなたならわかっているはずです、このゲームはまだ終わっていません
あなたが終わらせたこのクエストも通過点に過ぎません
きっとあなたなら気づいているはずです、仲間と一緒にいることそれ自体がこのゲームの全てだということに
あなたが得た新しい力を使って、仲間と一緒に新たな冒険の旅へと出発してください
クリア報酬を得ました
限定装備入手:ルーンナイト専用装備一式を入手しました
内容を確認したグラハルトはアイテム欄を見てみる
本当に全ての装備品が一気に増えており、その一つ一つがとんでもない性能を誇っている
確認するのも面倒だったので、とりあえず一式装備してみると・・・
「おー」
「わー、なんか輝いてる」
レベル150を達成したキャラだけが発する、独特のキラキラエフェクトが発生した
「それなんですか」
「カッコいい!どうやってなるんですか!?」
「君たちが目指す目標さ、自分達で探したほうが楽しいよ」
グラハルトは自分の姿を確認し、初心者二人にそれだけ言ってその場を去った
――――――――――
「うおーーー!とうとうなったか!!!」
「まじおめwww」
「お疲れ様」
「ありがとう、みんなのおかげだよ・・・それはともかくとして、この二人なんだけども・・・」
グラハルトは仲間に報告するために戻ってきたのだが、なぜか初心者二人がくっついてきてしまった
「初心者さんらしいんだけどさ、なんというか・・・」
「よろしくおねがいします!」
「初めまして、こんにちわー」
友人達は彼らの初心者っぷりに保護欲をかきたてられたようで・・・
「「「まかせろ」」」
何をとも言わずに何かをまかせることになった
きっと大丈夫だろう、多分、きっと
――――――――――
「・・・終わり?」
「・・・終わりだ」
ここは荒野のど真ん中、すぐ近くには小さいのに中は異常に広いテントがあるだけで、他は廃墟になった建物ばかりの場所
瓦礫に腰掛けているのは画面越しではない、生身の肉体を持ったグラハルトと、勇者としてこの世界に召喚された光輝だった
「え?どうやってこっちに来たとかは?」
「・・・何も覚えていない、そこで俺の記憶が途切れてる
・・・寝ておきたような感じじゃなく、気づいたら目の前にこっちの世界が広がっていたんだ」
「テンプレ的な神様に会ったとかは?」
「・・・神なんて向こうでもこっちでも会ったことないな」
グラハルトの過去はなんとも言えない、不思議な力によってこちら側に来たということしかわからなかったが、グラハルトの強さの理由はおそらくその辺なのだろう
「つまり、そのゲームのキャラがそのまま肉体になったってこと?」
「そうらしいな、少なくとも見た目とか装備品は向こうで持ってたものだ」
「・・・なんていうか・・・あれだな」
「・・・無理に何か言わなくてもいい、・・・理不尽なのは俺が一番よくわかってる」
グラハルトの告白が終わり、二人は沈黙する
何もしないままそうしていると、後ろから声がかかる
「勇者さま~ご飯できましたよ~」
二人は振り返り、そういえばまだ晩飯を食べていなかったことを思い出す
唐突に空腹を知らせる音が二人の腹のあたりから聞こえ、二人はお互いに笑い出す
「・・・ふっ、まずはメシか」
「はっはっは、確かに
考えるのは後だな!」
二人は星空が美しい夜の空を見ながら、テントに戻っていった
というわけで、グラハルトの強さの秘密でした
補足を再び、本編では恐らく言わないであろう部分です
ルーンナイトは特化した能力を持っていませんが、この話で語られている通りに、非常に柔軟な戦闘が可能になる職業です
なので「生き残り続ける」能力、言い換えるなら「戦い続ける」能力に関しては非常に高い職業です
しかしその能力はパーティーで戦うことが前提であり、しかもこういった大規模で長期戦になるようなな戦闘でない限りは特に目立ちません
少数パーティーでは役割分担をして、それぞれに特化した職業で構成されるのがゲーム上では基本だったので、ルーンナイトの真価がよく理解されていなかった・・・という裏設定があります
私の経験上、どんなネタ職業でもそれをMAXレベルまで上げている人間というのはいたものですが、ルーンナイトの150が達成されていなかったのは、そういう理由もあったんだ、ということをご理解いただければと思います
この辺の設定を一度まとめたいと思いますので、4万件突破を記念してそういった部分の紹介話を作ろうかと思います
もちろんネタバレしない程度にするつもりですので、説明不足な部分は多くなるかと思いますが・・・
今後ともソウケンをよろしくお願いいたします