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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第四章「現在編」
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死神の取引3

「・・・話をしようか」


グラハルトはそう言った


今しがた殺されかけた勇者達は何を言われたのかわからなかったようだが、すぐに言葉を理解して反応する


「・・・!だ、誰があなたみたいな悪人と話すもんですか!」


アイシャが真っ先に反応し、グラハルトを否定する


「そうよ!こっちは殺されかけたんだから!そんなヤツと話なんかできるわけないでしょ!」


リノンが続けるが、支離滅裂なことを言っている


「・・・俺も殺されそうになっていたんだが?」


ぐっと言葉に詰まってしまったリノンはチラりと勇者のほうを見る


ノアが必死に回復魔法を使っているようで、見る見るうちに具合が良くなっているようだ


「勇者様・・・まだ動いては・・・」


「大丈夫だよ、ありがとうノア」


勇者は立ち上がり、グラハルトと対峙する


「・・・もう戦わない、だからそっちも戦わないでくれるか」


勇者はそう言っただけでグラハルトをじっと見る

馬鹿みたいに真っ直ぐな瞳が、きらきらと輝いているように見えている


女が惚れそうな顔と目付きだな、などというどうでもいい事を考えながら、グラハルトはしっかりとしたし答えを返した


「・・・火の精霊に誓おう」



――――――――――



「・・・つまり、昔俺が潰した軍隊がお前らの国の軍隊だった・・・と

・・・それで魔王とは別に倒すように・・・命令されていたと・・・」


「そういうことだ」


つまりは最初からグラハルトは狙われていたというわけだった

見たこともない人間に襲われることなどもはや慣れてしまったグラハルトとしては、そんなことはどうでもいいとばかりに話を続ける


「・・・勇者・・・いや、光輝か

・・・お前は・・・・・無限進化の世界・・・と聞いて何か思い当たるか?」


「無限進化の世界?

それは何かのマジックアイテムか?

残念ながらそういった知識はあまり無いよ

みんなは聞いたことあるかい?」


光輝が後ろで明らかに不機嫌になっている女性陣に聞くが、首を縦に振ったものはいなかった


「だそうだ」


「・・・じゃあもう一つ、・・・光輝がいた世界のことは・・・話せるか?」


「俺がいた世界・・・」


光輝は驚いた表情をしているが、グラハルトはその理由がわからない

なので思ったことをそのまま聞いてみる


「・・・何か変なことを言ったか?」


「あ、いや・・・

なんていうか、こっちに来てからそういうことを聞かれたことが無かったからね・・・

教えてもらってばっかりで・・・」


グラハルトとしては当たり前の質問をしたつもりだったのだが、光輝にとっては意外な質問だったようだ

懐かしい思い出を探るように、自分が何者であったのかを確認するようにしている光輝は、虚空を眺めている

グラハルトは昔の自分を見ているような感覚に、自然と穏やかな雰囲気を出していた


だから光輝以上にこの話に反応している人物がいることに、二人は気づかなかった


「俺は・・・あんたに言っても分からないかも知れないけど、向こうじゃ学生だったんだ

高校三年、もう少ししたら卒業だった・・・」


「・・・高三・・・ガキじゃないか

・・・年上には敬語くらい使うんだな」


「え、あんた・・・いや蒼犬サンは幾つでございやがりますですか」


「・・・わざとか、わざとだな?

・・・もう普通でいい、・・・歳は30・・・だったハズだ」


「30?おっさんじゃねぇか」


「・・・言うじゃないか、・・・何ならもう一回ぶっ飛ばしてやろうか」


ズゴゴゴゴ・・・という効果音が聞こえてきそうな威圧感を放ちながらグラハルトが立ち上がる

殺気ではないだけマシなのだが、人間をはるかに超えた威圧感では大差が無い


・・・だが光輝はそんなこともお構い無しに食って掛かる、別の意味でも勇者だった


「フハハ!真の勇者は一度負けてから勝つのさ!何故ならそっちのほうがかっこいいかぷげらぁっ!!!」


体操選手でも絶対にできないような捻りと回転を組み合わせ、顔面バウンドという必死の技術を用いて、勇者はこの上なく美しい軌跡を描いてぶっ飛んだ


「きゃー!勇者様ー!」

「ちょっ!会話の途中で殴るなんて卑怯よ!」

「そういう問題?」

「死んでないよね・・・?」


「・・・かいしんのいちげき・・・だな」


女性陣とグラハルトの温度差はきっと埋まることは無いだろう・・・



――――――――――



「・・・で?」


グラハルトは顔が泥とホコリと血とタンコブで変形した光輝に問いかけた

ノアが隣で必死に回復しているのですぐに治るだろう


「あぁ、えっとなんだっけ?高三で卒業するとこで?

あぁそうそう、ある日の帰り道でこっちに呼ばれたんだよ

最初はビビったなぁ、ブラックホールみたいなのがいきなり出てきてさぁ・・・」


・・・


・・・・・


・・・・・・・


「・・・というわけで俺たちはあんたを見つけたのさ!そしてチャンスだと思って襲いかかったんだ!」


ちなみに長かったため8割ほどカットさせていただいた、どのくらい長かったかと言えば昼間に会ったハズなのに日が沈み始めているくらいと言えばわかってもらえるだろうか


女性陣四人は懐かしむように話に聞き入り、時折会話に混ざってきていたし、知らなかった真実まで知ったようで仲良くなっている


はぁと溜め息をつきながらグラハルトは核心を突いてしまう


「・・・俺はお前の世界の話をしろと言ったんだ・・・」


「あ」


「・・・はぁ、・・・まぁいい・・・重要な部分はわかった」


話を切り上げたグラハルトは、今日はもうここで野宿でもしたほうがよさそうだと判断した

光輝達はどうするかと考えていると向こうから話しかけてきた


「今日はもうここで休んだほうがよさそうだ、あんたはどうするんだい?」


「・・・同意見だよ」


「じゃあ一緒しないか?食材の確保は手伝ってもらうけどな」


ニヒヒと憎めない笑い方で自然に誘ってくる光輝に、グラハルトは軽く感心してしまう


昨日の敵は今日の友とは言ったものだが、まさかさっきの今でそれをやってくるとは思わなかったようだ


自分も光輝のような性格だったら何かが違っていたのだろうかと、ガラにもないことを考えてしまう


が、ある人物の挙動を見てしまったがために、そんな考えも全て一瞬にして吹き飛ぶ


なんてことのない、ただほっとしたような安堵の表情を浮かべ、安心の溜め息を吐いただけ

だがそれだけで、グラハルトにはわかってしまう

正義が鎧を着て歩いていると比喩されるほどに、彼は敏感にそれを感じとることができるから・・・


だが彼にとっては珍しく、その場ですぐに動くことは無かった


先にやるべきことがあると判断し、それを後回しにすることにした


「蒼犬?」


「・・・「さん」くらいはつけろ

・・・食材は提供してやる、調理は任せたいがな

・・・ついでに寝床も提供してやろう」


グラハルトはそう言いながら、何もない開けた場所にむかって掌をつきだす

そして数秒後には、何もなかったハズの空間にテントが出現した


「うおー!すげー!なに今の!どうやったの!?

・・・ってかテントちっちゃいよ、二人くらいしか入れないじゃんか」


光輝が言った通り、テントは二人分くらいの大きさしかなく、とてもではないがグラハルト含めて六人も入れるようには見えない


「・・・入ってみろ」


「ん?あぁ、そんじゃあ失礼しますよ・・・ってなんじゃこりゃあ!!!」


光輝が驚くのも無理はない

何故なら見た目と違って中には異常に広い空間が広がっていたからだ、仕切りの無い巨大な一部屋のみなのだが(ちなみにニ十畳ほどある、わからなければ10メートルくらい縦横の広さがあると思えばいい)、家具は揃っているし大型のキッチンに風呂トイレ洗濯場、食材の貯蔵庫まで着いている

しかも微妙にテーブルや布団などが使われていた形跡があり、まるでついさっきまで誰かがいたような生活感さえ感じられる


「・・・好きに使え、・・・食材は貯蔵庫のものなら好きなだけ使ってかまわん」


グラハルトはドサッと五人は座れそうなソファーに腰掛け、すでにくつろぐつもりのようだ


試しに貯蔵庫を覗いてみた女性陣だが、その量と種類の多さと鮮度の高さに驚愕していたようだ


「・・・光輝、少し出よう、二人で話したい」


「・・・わかった、俺も確認したいことがあるしな

みんな、ちょっと外にいるから準備のほうよろしく頼む」


「今日は私が!」

「私が当番の日でしょ!」

「私の実力が全て発揮できるから私が!」

「まあまあ、これだけあるんだからみんなで作りましょうよ」


女性陣は豊富な食材を前にして興奮し、光輝の声は誰にも届かなかった


項垂れる光輝の肩にグラハルトがポンと手を置く


「・・・気にしたら負けだ・・・」


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