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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第四章「現在編」
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死神の取引2

「・・・来い」


グラハルトがそう言った瞬間、強烈な殺気が勇者達に襲いかかる

冷気と錯覚するほどの圧倒的な気配、死という恐怖を感じずにはいられない強烈な波動

離れているのに首筋に刃物を突きつけられているような感覚さえしてくる


「う、うぁあ・・・」

「なにこれ・・・これが蒼犬なの・・・」

「足が・・・動かない・・・」

「怖いよ・・・勇者様・・・」


女性四人は完全に恐怖に呑まれたようで、全く動けない

勇者はさすがと言うべきか、恐怖を感じてはいるものの動けないほどではないようだ


「みんな大丈夫だ、俺がついてる!」


言うと同時に駆け出し、グラハルトに向かって真っ直ぐに突っ込んでくる


「うおおおぉぉ!」


何の小細工もないただの振り下ろし、猿でもわかりそうなほど素直な剣筋

しかし言い知れぬ何かを感じたグラハルトは受けずに避けることを選んだ

体を少し横にずらし、ちょうど一人分程度の間を空けるように避ける


避けられたことで地面に衝突した剣は、信じられない結果を出す


ずんっと剣と地面が接触したにしては異常に重い音がした

見ればその場所は剣から先1メートルほどに渡って切れており、その周囲は削ったかのようにへこんでいる


「・・・異世界補正・・・か?」


呟いた言葉は兜に遮られ、勇者には聞こえない

勇者はグラハルトに向けて剣を何度も振るう


さすがにアリサやグラハルトと比べると明らかに遅い剣速なのだが、さきほどの攻撃から察するに何かしら特殊な力があるとふんだグラハルトは、迂闊に手出しせずに防御に徹する


不思議なことに先ほどの攻撃とは比較にならないほど弱々しい(グラハルト基準なので実際にはそこそこ強いのだが)攻撃に、逆に何かを狙っているのかと不安になってしまう


ひょいひょいと軽く避けているような光景に向けて、巨大な炎が飛び込んでいったのはそのすぐ後だった


「炎よ、紅く輝くは汝の鎧なり!焼き尽くせ!地獄の業火!イフリートインパクト!!」


シェリルと呼ばれていたクリーム色の髪をロングにしたエルフの女性が呪文を唱えた

唸りをあげて巨大な火の玉がグラハルトに襲いかかっていく、あまりに大きすぎて回避が間に合うか微妙だ


避けられないわけではなかったのだが、そこはさすが勇者一行といったところ、すかさずその可能性を潰してきた


「ストライクアロー!!」


リノンと呼ばれた茶髪をショートにしている獣人が矢を放つ

衝撃波を纏った矢がグラハルトの行く手を遮るように飛んできたため、大したダメージにならないことはわかっていても条件反射レベルで勝手に避けてしまう


「・・・いい連携だ」


炎がグラハルトを飲み込み爆発する、熱気が周囲に溢れ、中心部ではどれだけの熱量があるのかを簡単に想像させるほどに熱い


「やった!」


火系の上級魔法イフリートインパクト

直訳すると炎魔神の衝撃という意味のその一撃は、純粋に威力を徹底的に上げた魔法だ

シンプルであるがゆえに効果は高いが、対策も多くある

しかし直撃した場合の効果は魔法の中でもかなり強力な部類であるため、普通であれば倒せないにしてもかなりの大ダメージになる

なので直撃しただけで喜んでしまったのは仕方ないだろう


「・・・ッ!シェリル危ない!」


咄嗟にアイシャと呼ばれていたレディ似の女性がシェリルを突き飛ばす


「なにをっ・・・」


次の瞬間


突き飛ばしたことによってできた何も無い空間を、目に見えるほど巨大な斬撃の衝撃波が通過した


「ソニックブーム!?」


勇者達は衝撃波の飛んできた方向を見る


炎が2つにわかれ、道のようになっている

道の先には剣を振った状態のままでグラハルトが立っていた

驚くべきことに傷一つついておらず、目に見えるダメージを負っている気配が全く無い


「そんな!無傷だなんて!」


「強い・・・」


彼らが驚くのも無理は無い、普通の相手なら必殺の一撃を食らったというのに、無傷でたっているグラハルトが異常なのだ

彼らとて今まで強敵と戦ってきたが、この攻撃を食らって無傷だったものは存在しなかっただけに、今回の結果はかなりのショックだったようだ


「落ち着くんだ!強力な魔法防御効果のある防具を身につけているのかもしれない!

シェリルは援護にまわってくれ!アイシャ、行くぞ!」


アイシャは軽鎧に似つかわしくない大剣を両手で握りしめる


「勇者様、気をつけてください

あいつは今までの相手とは比較になりません」


「だとしても倒す必要がある、正義のために!」


二人は同時に駆け出し、グラハルトに飛びかかる


「・・・正義ね・・・」


勇者が斬り込み、隙をフォローするようにアイシャの大剣が振るわれる

合間にシェリルとリノンの援護が飛び交い、ノアと呼ばれた緑の髪をポニーテールにした女性が的確に指示をしながら支援魔法を放つ

普通ならすぐに終わるような激しい攻撃は、普通なら一人で耐えられるものではないし、普通ならもう勝負がついていてもおかしくは無い


その状況にあってグラハルトは耐えていた


耐えていたなんてレベルではない

時に防ぎ、時に避け、時にはあえて受け止めるその姿は余裕さえ感じられる


「強い・・・!」


五対一でも余裕がある相手など世の中そう多くはない、高レベルである勇者達にとってはなおさらだ

かつてない強敵との戦いで焦り始めた勇者達は、だんだん連携が崩れてくる


「ソニックブーム!!」


グラハルトがノアに向けて衝撃波を放つ

崩れた連携のわずかな隙を狙って突いたその攻撃は、予測していなければ防げない・・・はずだった


「させるかあぁぁ!!!」


勇者は恐るべき反応速度で進路上に立ち、盾に全力を込めて防御する


「ぐぅあああぁぁぁ!!」


だがグラハルトの攻撃はその程度で止められるほど弱くは無い、盾ごと真っ二つにされてもおかしくないほどの衝撃が勇者を襲う


「勇者様!」


ノアが何かの魔法で防御したようだが、防ぎきれなかった分で勇者が吹き飛ぶ


「ぐあっ!」


シェリルが素早く駆け寄り、回復魔法をかけ始める

当然のようにグラハルトはそこ目掛けて再び斬撃を放とうとするが


「させるかっ!」


アイシャが大剣を大きく横薙ぎし、グラハルトの行動を妨害しようとする


ズドンと一際大きな音がして、グラハルトに直撃したようだ


「・・・っ!」


だがグラハルトは掌で刃を受け止めており、何もなかったかのようにただ立っている


「・・・どうやら・・・期待ハズレだな・・・」


そのまま大剣を掴み、片手でアイシャごと持ち上げる


「なっ、まずっ!」


大剣ごと勇者の近くに投げ飛ばし、さらに追撃の魔法を詠唱する


エンシャント・ルーン言語による詠唱が呟かれ、グラハルトの前方に魔方陣が出現する


「爆炎!エクスプロージョン!!」


魔方陣は紅く輝き、突然前方に向かって大爆発を起こす

炎の雪崩が勇者達に襲いかかり、まさに絶体絶命の攻撃が彼らを飲み込んでいく


「くっそおぉ!」


瞬間


勇者達の周囲に別の炎が立ち上る

二つの炎は絡み合うようにせめぎあい、結果としてグラハルトの炎は上空へとそのベクトルを変更する


「・・・精霊か」


グラハルトの炎が消えると、その場にはもう一つの炎が揺らめいていた

その炎はやがて人の形に変化していき、男とも女ともわからない中性的な姿になる


「・・・殺シテハダメ」


精霊はそれだけを言った

その目には悲しみが宿り、悔しさを滲ませ、諦めの感情が伝わってくる


まるでアリサの泣きそうな表情を思い出してしまったグラハルトは、一気に戦意を失い、剣も殺気も納めてしまった


「・・・会話は問題無いんだろうな?」


グラハルトの問いかけに火の精霊は一度だけ頷き、勇者達にその泣きそうな表情を見せて消えてしまった


「助かった・・・?」


勇者達は何が起こったのかわからずに呆けている


唯一何があったかを理解しているらしいシェリルが、悔しそうな表情で言葉を放つ


「火の精霊よ!どういうことですか!殺してはいけないとは・・・っ!」


気がつくと彼女の目の前にはグラハルトがたっていた


「・・・そのままだろう、・・・戦いは終わりだ」


体を震わせながらグラハルトを睨むシェリル

視線で人が殺せるならば殺しているだろうその視線は、現実にはそんな力を持たずにただ睨む以上の意味を持たなかった


グラハルトはシェリルを無視して勇者のほうへと歩いて行く、シェリルはその間ずっと彼を睨み付けていた


「・・・話をしようか」


グラハルトは勇者・・・いや、一人の人間「あずま 光輝こうき」に向かってそう言った


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