再出発
おかしい・・・
こんなに長くなる予定じゃなかったハズなのに・・・
ちょっと展開が無理矢理ですがご覧くださいませ
どこかで鶏のような生き物が鳴いているのが聞こえる
この世界にも朝昼晩があり、大きく世界の理が違わない以上、多少の違いこそあれども似たような進化を遂げる生物はいる
不思議な感覚と懐かしい感覚を同時に感じながら、グラハルトは部屋の窓から外を眺めていた
「・・・おはよう」
アリサが昨日のままの格好で起きてきた
まだ寝ぼけているようで、足取りが若干怪しい
「・・・おはよう、アリサ
・・・風呂を沸かしてもらっている、今のうちに入ってくるといい」
「ん・・・、行ってくる」
着替えとタオルを持って風呂に向かうころには、足取りもしっかりしていた
――――――――――
あえて言おう
サービスカットなど無い!!!
――――――――――
「あれ、どうしたのアレックス?」
「あぁ、おはようアリサ
・・・昨日の続きをね」
アリサが風呂から戻ると、部屋にはアレックスが来ていた
すでに鎧を身に付けていて、トレードマークに近い巨大な盾を背負っている
「・・・まだ時間はある、・・・着替えてしまえ」
「ん、じゃあそうする」
言いながら余計なものを脱ぎ始めるアリサ
アレックスが思わず凝視してしまうが、グラハルトの鉄拳制裁・・・いや超鉄拳死罪をくらって気絶したので本人は何も覚えていない
何も覚えていないということにしておかないと再び空中コンボの恐怖があるので、覚えていないということにしておく
「・・・さて、昨日の続きだな」
着替えも終わり、いつもの鎧姿になった二人
アリサはベッドに腰掛け、アレックスは盾を壁に立て掛けて椅子に座っている
グラハルトは窓枠に腰掛け、窓の外を眺めている
余談だがこの世界はガラスがある、なので窓からは朝日が射し込んでいるので早い時間だというのに室内は大分明るい
安くは無いので高級宿でしか使われていないが・・・
閑話休題
グラハルトは二人を一度見てから、再び窓の外に目を向けて話し始める
「・・・俺は異世界の人間・・・というのは言ったな・・・」
二人はこちらを向いていないグラハルトに向けて頷く、見ていなくても伝わるものが三人の間にはできているから、それだけで十分なのだろう
「・・・俺は・・・帰る方法を探していた
・・・・・色んな可能性を・・・試して・・・色んな場所に行った・・・」
言葉が切れ切れになってきたのを聞いていたアレックスは、昨日の光景が頭に浮かぶ
「グラハルトさん・・・まさか・・・?」
すっと片手を上げたグラハルトからは苦しそうな雰囲気は伝わってこない
「大丈夫だ、言葉選びが大変なだけだ・・・」
アレックスはほっとして視線を下げ、そして違和感を感じた
(血の跡が無い?)
「・・・俺は悪魔と同じだ、世界に嫌われている」
聞く前にグラハルトが続きを話し始めた
「・・・大地は俺との接触を拒み、溶岩のようにこの身を焼く
・・・空気は毒のように染み込み、呼吸するだけでも体を弱らせる
・・・この世界の存在は・・・例え血の一滴でさえも・・・俺の肉体を拒絶する・・・
俺の存在を求めるのは死だけだ・・・」
床の状態を見てしまったアレックスは、決して冗談でそんなことを言っているのではないことを理解してしまう
「・・・理屈はわからんが、持っていた装備品を着ている限りは問題なく呼吸もできるし、地に足を着けることもできる
風呂はまぁ・・・修行だと思って我慢だが・・・
そのおかげで「生きた鎧」(リビングアーマー)なんて呼ばれてるみたいだがな」
フッと笑う顔はいつも通り自然な笑顔だった(あくまでも雰囲気だが)
本当に気にしていないんだろう
「・・・当然そんな世界は生きたくない
・・・だから・・・俺は探したよ・・・・・手段を・・・帰り道・・・をな
ふぅ、言葉選びも苦労するな」
一息つきながら窓の外から部屋の中へと視線を移す
気がつけば外は日が登り、朝日がすっかりと顔を出しきっていた
椅子に近づきながらグラハルトは続ける
「・・・だからというわけじゃないが・・・いつかはきっと・・・俺は消える
自分の意思か別の何かによってかはわからんが・・・、いつか俺は・・・この世界から・・・いなくなる・・・」
アレックスの向かい側、テーブルを挟んだ反対側の椅子に座る
「・・・だから・・・アリサ、お前には強く・・・成長してほしかった
Growth・・・俺の願いだ
学園ならきっと・・・俺が与えられなかったものを手に入れられるハズだ
・・・さっそく手に入れた男は、なかなか見所があったしな」
前半はアリサを見ながら、後半はアレックスを見ながらそう言った
「ただし俺より弱いうちはダメだ」
「だからそれ世界最強ですからっ!
何年かかると思ってるんですか!?」
もはや三度目になるやりとりなのだが、アリサは僅かな変化に気づいた
アレックスのセリフを聞いたグラハルトがニヤリとしているので間違いないだろう
「無理って言わないんだ?」
「・・・あぁ、無理とは言わないさ
なにせ・・・」
「「「無理って言うヤツには無理だから」」」
三人が同時にそう言った
彼らは本気でそう思っている、その言葉を疑ったりはしない
グラハルトは身を持って経験しているから、アリサは今正に挑戦しているから、アレックスはグラハルトを信じたから
「フッ」
「ふふ」
「ハハハ」
三人は笑った
言葉にできない何かを伝えあった
言葉にしてはいけない何かを知った
それだけでこの先も生きていける
何があっても、何が起こっても、何かが起こる前に強くなれる確信があったから・・・
――――――――――
三人は学園に向かって大通りを歩いていた
通りを埋め尽くすほどに並んでいた屋台はもう半分ほどしか残っていない
その半分も今から店をたたむようだった
アリサはふと昨晩のことを思い出す
「そういえば昨日のおじさんに悪いことしちゃった」
「ふむ?約束すっぽかしでもしたのか?」
「うん、すぐ戻るって言ったのに結局ね・・・」
「・・・あの店か?」
グラハルトに促されて目を向けると、ぶんぶんと子供のように手を振っている昨晩の店主がいた
グラハルトは目に見えて落胆し、ため息をつきながら心底嫌そうに話す
「・・・知り合いだ」
「おぉーい!嬢ちゃん!昨日は大丈夫だったかい!?」
アリサは店主に近寄っていき、昨日のことを謝りはじめる
「おじさん、昨日はごめんね」
「いいってことよ!それより嬢ちゃん泣きながら走ってたみてぇだが大丈夫だったのかい?」
「・・・変わらんな」
「なんじゃい、お前さんの連れだったのか
あ!さてはお前が泣かしたんだな!?
こんな可愛い嬢ちゃん泣かすたぁ相変わらずふてぇ野郎だ!
ぶっ飛ばしてやる!」
「ちょちょちょっとおじさん、彼は蒼犬って言って・・・」
「・・・心配無い、・・・不本意だが・・・互角だ、・・・不本意だが」
片や世界最強の剣士、片やオタマとフライパンの二刀流屋台の親父
何故かはわからない、わからないが互角の戦いが始まったが・・・
内容はまた別の機会に語ろう
アリサとアレックスの感想は
「「あのおっさん何者?」」
――――――――――
学園の前
三人は学園を改めて眺めている
これからの生活に想いを馳せて、経験という何にも代えがたい大切なものを手に入れようとしている
入り口に目を向けると、そこには仲間達が立っていた
様子を見る限り、アリサ達を待っていたようだ
レディが、グレイが、バスカーが、マキアが笑顔でこちらを見ている
「・・・いい仲間だ」
「でしょう?俺もそう思いますよ」
アリサは仲間を順番に見ていく、そして最後にグラハルトを見る
グラハルトも見つめ返し、二人はしばし沈黙する
「お父さん・・・」
「・・・あぁ」
「あのね・・・私・・・」
目を剃らし、うつむき、泣きそうな顔をしたアリサ
アレックスは空気を読んだらしく、すでに仲間のところへと向かっている
「・・・月に一度は会いに来る」
グラハルトの言葉に顔を上げ、再び目と目が合う
アリサは何かを言いかけて・・・やめた
今言う必要はきっと無いから、今はきっと違う言葉が相応しいハズだ
きっと違う表情が相応しいはずだ
アリサは振り向き、仲間のもとへと歩きだす
「・・・行ってこい」
グラハルトは誰にも聞こえないようにそう言った
兜に隠れた顔は誰にも見えない、だから誰にも聞こえるはずは無かった
気がつけばアリサは振り返り、グラハルトを見つめていた
その両目には虹色の輝きが宿り、彼女が特別であることを証明している
だが今のアリサを見たものは、きっとそんなものが無くても彼女を特別だと思ったはずだ
笑顔
ただそれだけで、彼女は輝いて見えた
虹色の輝きなど引き立て役にすぎない
彼女の見た目など飾りに過ぎない
輝いているのは心だ
内に秘めた想いが輝いている
輝いている彼女は何よりも美しかった
「行ってきます!」
学園へ向かうアリサの後ろ姿は、淡い夢のような弱々しさは感じられない
前を見据えた力強い歩みで、アリサは仲間の下へと進んで行った
お疲れ様でした
この話を持って入学試験編は終了となります
章編集はそのうちしますのでお待ちいただければと思います
しかしおかしい、試験後の話はもっと短く終わらせるハズだったのに何故だ