入学試験10
「お父・・・さん・・・」
英雄染みた状態で立っているのはグラハルトだった
恐るべきはドラゴンを片手で止めている圧倒的なパワーであろう
その突進に正面からぶつかり合っていたアレックスが一番に呟く
「ありえない・・・」
さらにグラハルトはその片手でドラゴンをがっしりと固定し、思い切り足で蹴り飛ばした
「GA!?」
顎を真上に蹴り抜かれたドラゴンは、上体を仰け反らせながら後方に吹き飛んで行く
今度はアレックスだけでなく、それを見ていた全員が呟いた
「「「「「ありえない・・・」」」」」
――――――――――
グラハルトは腕の中にいるアリサに視線を向けた
宝物を扱うような慎重な手つきで抱え、そのまま地面に横にさせる
慈しむような、それでいて成長した姿を嬉しく思うような雰囲気でアリサの顔を覗きこむ
「お父さん・・・、まだ・・・できなかったみたい・・・」
アリサはグラハルトにそう言った
恐らくは先ほどの攻撃のことを言っているのだろう
「・・・まだ早い」
返すグラハルトの言葉は相変わらず短い
だが雰囲気を感じ取れるアリサにとっては、その言葉だけでも十分だった
グラハルトから伝わる雰囲気は温かく、無理をするなと言いたいのだろうというのが伝わってくるのだから・・・
「・・・手本を見せてやる」
そう言って立ち上がり、肩越しにドラゴンを睨み付ける
瞬間
周囲は冷気に包まれる
正確には冷気ではなく殺気
恐怖、という名の物質を直接ぶつけられたかのような圧倒的な殺気
気の弱いものならそれだけで気絶しそうになるほどの重圧
どこぞの海の盗賊キングを目指す人達が使う覇○色の覇○みたいなゲフンゲフン
「形態変化!デュエルナイト!!」
グラハルトの声とともに、魔方陣が幾重にも重なりながら球体の形になっていく
やがて姿は変わり始め、黒だった鎧とマントは青く、蒼く、空の色よりも暗く、海の色よりも黒く、深海のような青色に変化してゆく
金色のラインだけが美しい輝きを保ち、悪を連想しそうな青い姿に正義の印象を与えている
鎧は簡素化されていき、重鎧だったそれはすでに軽鎧と言える
二の腕、太ももを覆っていた装甲は消え、胸こそ残っているが腹の部分は無くなった
もはや面影はフルフェイスの兜しか無いが、その兜も下顎にあたる部分が無くなり、口元が見えている
何よりの特徴として、持っていた剣が変化していた
バスタードソードは魔方陣と融合し、二つに別れていた
その形状は日本人なら誰もが見覚えがあり、男性なら一度は憧れたであろう伝統的な武器
二振りの日本刀だった
「なんじゃありゃあ?
あんな魔法見たことねぇぞ」
遠巻きに見ていたバスカーが驚愕の声をあげる
だがその言葉に返事をできる者はこの場にいなかった
「独特な武器の二刀流・・・?蒼い鎧・・・?
もしかしてあれって・・・」
アレックスが独り言のように呟き、蒼犬の姿をじっと見つめる
「全盛期・・・いや、初期の蒼犬ですか
蒼犬が蒼犬と呼ばれる由縁ですね・・・」
グレイが言葉を続け、アレックスと同様に蒼犬を見つめる
「蒼犬・・・あれが・・・」
マキアはただ目の前の光景に唖然としている
何か思うところがあるようで、睨むような視線をグラハルトに向けている
「・・・少し離れましょう、彼が本気なら見境がなくなりますわ」
レディが唯一落ち着いているが、それは蒼犬以上にアリサのことが気になっているからだろう
蒼犬ではなくアリサのほうをじっと見ている
そのグラハルトはドラゴンを睨み続けていた
低く腰を落とし、両手を左右に開いている
刀身だけがドラゴンに切っ先を向けており、今にも飛んでいきそうな威圧感を放っている
緊張の時間が過ぎ、見ているだけのレディ達でさえ冷や汗を流し始める
誰かの汗が流れ落ち、音とも言えないほど小さい・・・小さすぎて聞こえないハズの音をたてた
ポトッ・・・
「GAAARUUAAA!!!」
ドラゴンは目を見開き、意を決して突進した
――――――――――
「急ぐぞ!」
「わかってま〜す」
「あなたの場合はわかってなさそうなのよ!」
森の中を走り抜ける三人がいた
獣人の教師・エルフの教師・一次試験の時の女教師だ
木々が密集する森の中を危なげもなく、かなりのスピードで駆け抜けていく
「それにしてもウォードラゴンとは・・・、一体どうしてこんな場所に?」
「さぁ〜?
ま〜でも〜、心配は〜いらないんじゃ〜ないですか〜?
彼が〜行ってますし〜」
「万が一ということもありえる
・・・とにかく急ごう、考えるのはあとだ」
三人は考えを中断し、先を急ぐ
馬なみの速度が出ているはずなのだが、三人は木にぶつかるどころか、木が避けているのでは無いかと思うほどにスイスイ進んでいく
「見えた!あそこだ!」
ドラゴンの巨体を確認した三人はその場まで飛び込むように走り、その光景を目撃した
ドラゴンが蒼犬に向かって思い切り突進しているところだった
――――――――――
蒼犬は呟くように言葉を紡ぐ
呟いた言葉は普通であれば誰にも聞こえないような音量だった
だが何故か、その言葉はその場にいた全員が聞き取ることが出来た
「鬼神四刀流・・・」
途端に膨大な量の魔力が流れとなって周囲に吹きすさぶ
その場にいた人間は戸惑い、何が起こっているのか理解さえできない
「人間」は・・・だ
魔力の暴風をものともせず、食い破らんとばかりにさらに突き進むドラゴンは見てしまった
グラハルトの肩、肩甲骨の辺りから左右に一本づつ
都合四本の腕と、それぞれに剣を構えた姿
明らかに人間ではないその姿を見て、ドラゴンは初めて後悔した
相対した時点で逃げなかったことを・・・
「四刀鬼神光剣!!」
瞬き(まばたき)の間と書いて瞬間と呼ぶ
まさにその言葉が示す通り、瞬きを一度する間に無数の青白い光が飛び出す
アリサが放ったものと似ているが、より力強く、より早く、より多く、なにより正確にドラゴン目掛けて飛んで行く
光はドラゴンにぶつかると、突き刺さる等という生易しい結果で終わることは無かった
抉るように肉も骨も全て吹き飛ばしていく
鉄のような硬さも、岩のような厚さも、物理的な攻撃の範囲も全て無視して貫かれる
わずか一歩を進むことさえ許されず、ドラゴンは見る見るうちにその強靭な肉体を失い、抵抗という言葉を考える暇さえ与えられない
わずか3秒、ドラゴンという巨大で強力だった存在はもはやいない
残っているのは恐怖という感情を目に宿らせた、顔が半分吹き飛んでいる肉の塊だけだった・・・
「これが蒼犬さんですか〜」
「・・・瞬きの間に一人を殺し、それを見ている間に隊を潰す
状況を確認している間に全滅させられる・・・」
「戦場で蒼犬を見たなら何を持ってもまず逃げろ・・・か、有名なセリフだな
・・・冗談だと思ってたんだが」
三人の教師が目の前で起きた光景に言葉を漏らす
一騎当千と言われる彼らをもってしても、蒼犬の存在はとても信じられない相手のようだった
――――――――――
「うむ、確かに受け取ったぞ!合格じゃ!」
学園長がそう言って、アリサから課題のアイテムを受け取った
「うむ、以上を持って今回の定員15パーティー九十名が通過した!
よって試験は終了とする!」
学園長の宣言により、通過者は一斉に声を張り上げる
「合格したものは気を引き締めよ!まだ出発点にたったばかりじゃ!
合格できなかったものも気を引き締めよ!自らに足りなかったものをしっかりと見定めるのじゃ!
・・・ま、それも明日からでいいからのぅ
今日はちゃちゃっと帰ってしっかり休むといい
そんじゃ解散〜」
学園長の宣言に従い、各自がバラバラに散っていく
アリサ達はすぐには動かず、お互いの健闘を称えあっていた
それも長くは続かず、最後に「また明日」と言って別れていく
やがてアリサもグラハルトの元へと行き、宿へと歩き始めた・・・
「・・・合格おめでとう」
「うん、ありがと・・・
それに・・・助けてくれてありがと・・・」
グラハルトは試験会場に向かっていた時と同じように、明後日の方向を向いたまま歩いていった
――――――――――
以下余談
「そういえば、推薦書って意味なかったような気がするんだけど?」
「・・・筆記試験が免除される」
「筆記試験なんてあったんだ・・・」
「・・・バカほど推薦書を欲しがる」
「それってつまり偽造した人達は・・・」
「・・・頭の使い方を間違えたバカさ」
お疲れ様でした
ここまで読んでいただけるとは感謝の限りでございます
この話にて第二章とも言うべき入学試験編は終了・・・と見せかけてもう少し話がつながります(笑)
もちろん携帯投稿なので章編集しておりませんが・・・
いずれパソコンから編集しないと・・・
読んでいただける皆様にはこの場を借りて感謝をさせていただきます
ありがとうございます
まだしばらくは話がストックしてありますので、お付き合いいただければ幸いでございます