入学試験7
「まさか双剣がアリサのことだったとは・・・」
マキアが言いながら洞窟を進んでいく
「ブハハ!言われてみりゃ納得だぜ!」
バスカーが頭の上に雷光の照明魔法を輝かせながらそれに続く
「私はアリサに会うまで筋肉ムキムキの男みたいな女性だと思ってましたよ」
グレイが周囲に気を配りながらさらに続く
その後ろにレディが続き、アリサとアレックスが一番後ろについている
「あ・・・あのアリサ・・・さん」
「アリサでいい
どうかしたの?」
先程からアレックスは挙動不審になり、何かを言おうとしては引っ込めるという作業を繰り返していた
やっとの思いで言ったかと思えば、アリサが返事をしたことで再び同じ作業に戻ってしまう
さきほどと違うのはアレックスの顔が真っ赤になっていることくらいだろうか?
「・・・あ・・・蒼犬さんに会わせてもらえない・・・かな?」
汗をだらだら流し、真っ赤に染まった顔でそう言うアレックスは、まるで告白しているかのように真剣な表情だ
それに対してアリサは涼やかな顔で返事をする
「試験が終わったら迎えに来てくれると思うわ」
それだけ言ってすたすた歩いていくアリサだが、アレックスが気合いの入ったガッツポーズを決めているのを見て、思わず小さく笑ってしまう
「そんなに会いたいの?」
「当たり前じゃないか!蒼犬と言ったら「おう!ここならいいんじゃねぇか?」む?」
アレックスが蒼犬について熱く語り出す直前に、バスカーがタイミング良く割り込んでくる
「確かにちょうどよさそうですわね
ではここでやりましょうか」
レディも納得したようなので、アリサも確認しようと前に行く
「あ・・・」
何故か寂しい感覚に捕らわれたアレックスは、無意識に手を伸ばした
伸ばした手を見てから、何故手を伸ばしたのかわからず、掌をぐっと握りしめる
そして掌から前のほうへ視線を移した
そして移った視線の先には・・・「笑顔」のアリサがいた
「後でね」
短く言われた言葉はアレックス以外には届いていない
だがアレックスにとっては何よりもはっきりと聞こえた
今まで聞いたことがないほど甘い声、癒されるような優しい響き、無条件で味方になりたいと思える魅力的な雰囲気
・・・アレックスはアリサの後ろ姿を見つめたまま、彼女の言葉を何度も思い出していた
――――――――――
一行が到着したのは幅広い通路の壁に空いた横穴の中だった
穴の中に入ってみると、何もないだだっ広い空間があるだけで、不自然なまでに起伏のないドーム状の場所だった
ここまで何もないと罠でもあるのではないかと疑ってしまうほどに何もない
「ここは・・・?」
「こりゃあどうやら当たり引いたか?」
「みたいですわね、多分参拝用に作られた洞窟だったのかもしれませんわ」
「確かに魔物の気配がありませんでしたし、納得できる話ですね・・・」
上から順にマキア・バスカー・レディ・アレックスである
グレイとアリサは何をするかわかっていないので、話を聞いているだけだ
「で、何をすればいいんだ?」
同じくわかっていないマキアが聞く
「んや、難しいことじゃねぇよ
とりあえず灯りを消してみようぜ、完全な暗闇にならねぇと意味ねぇからな」
バスカーに促されてそれぞれの魔法を消していく
一つ、また一つと消える度に闇に近づき、最後の一つが消えると真っ暗になる
周囲を確認することもできず、お互いがどこにいるかもわからないほどに暗い空間が広がっている
「これなら大丈夫ですわ、説明しますので聞いていただけますかしら」
レディが闇の中からそう言ったが、不思議なことにどこから声を出しているのかわからなかった
察知能力に長けているグレイやアリサでさえもが、今レディがどこにいるのか把握できない
「ここは既に初代の墓のすぐ近くですわ、特殊な魔法による条件付きの空間と考えていただければよろしいですわ」
レディの言葉をバスカーが引き継ぎ、相変わらずどこにいるかわからない声で話す
「さっきも言ったがやるこた難しくねぇ
この状況の中である行動をすればいいだけだ
残念なことに成功しちまうと、別の場所に行っちまうから俺達は最後にやる」
「で?何をすればいいんだ?」
バスカーの言葉を受けてマキアが質問する
マキアも答えを知らない身であるので、何も見えないこの状況はそれなりにストレスなようだ
「バスカーさんも言っていますが、難しくは無いですよ
ただし本人の感覚による部分が大きいので、できない人は時間がかかるかもしれません
・・・まぁ俺も初めてなので自信はありませんが」
アレックスがマキアに答える
言い方から察するに、ここにいるメンバーなら問題ないということらしい
「あんまり焦らさないでください、他の受験者に見つからないうちに早く済ませましょう」
グレイの懸念も最もだった
他のパーティーが潰し合いをしているとはいえ、いつその状況が終わるかわからない
抜け出すパーティーもいるだろうし、早く終わるだけの強力なパーティーが揃う可能性もある
偶然彼らのパーティーが課題のために近くに来て、こちらを拘束しようとする可能性は無いわけでは無い
「そうですわね
やることは魔力を手に集めて手探りで探す・・・それだけですわ」
「ただし簡単じゃねぇ
気づいてると思うが、この場にいる限りお互いの居場所はわからねぇ
しかも「それ」は魔力で覆った部分じゃねぇと触っても感触がねぇし、すり抜けちまう」
「さらに厄介なことに「それ」はまだ墓では無いので、地面から生えているとは限らないんです
何もない空中にあるかもしれませんし、どんな形なのかも実はわかっていないんですよ」
答えを知っている三人が一気に説明する
要するにこの状況でだけ出現する「何か」を捕まえればいいらしい
「触ったら勝手に転移するからな、俺が一定時間ごとに声をかけるから返事してくれ」
説明が終わると全員が探し始めた
――――――――――
探し始めてから5分ほど
最初にいなくなったのはアリサだった
さすがと言うべきか、あらゆる存在が味方をするというのは伊達ではない
ただ、レディだけが嫌な感覚を感じ取っていた
「バスカー、嫌な予感がしますわ
悪いですけれども先に行かせていただきますわ」
「ん?ああ、わかった
まあマキアは苦戦するだろうからな、向こうでゆっくり休んでてくれや」
「助かりますわ」
そう言ったレディは探し始め、数分としないうちに探り当てたようで、すぐに声が聞こえなくなった
「嫌な予感・・・ね
何もなけりゃいいが、女の勘ってのは当たるからなぁ・・・」
バスカーの呟きは未だに探し回っている三人に届くことなく、闇の中に溶けるように消えていった
――――――――――
「ふぅ、ここはどこかしら?」
転移したレディは、先程まで歩いていた洞窟と同じような通路に出ていた
「おかしいですわね・・・?前にお父様と来たときは墓石の前に出たはずなのですが・・・」
ちなみにレディの父親と現在の学園長は友人である
繋がりは蒼犬ことグラハルトを通じてなのだが、二人はグラハルトに苦労をさせられた者同士ということで、非常に仲がいい
典型的な前衛型と、同じく典型的な後衛型というのも理由の一つである
余談だがレディの父親はアリサと違って完全に魔法が使えない、魔力が無いわけではないので様々なマジックアイテムを使っていたが、魔法が使えないという一点のみが原因で魔法学園の入学を断られたという経緯がある
閑話休題
そんな親を持つレディは何度か学園長とも会っているし、初代の墓も一度来ている
その時と今の状況との違いに戸惑いを感じ、嫌な予感はさらに大きくなってしまう
瞬間
洞窟全体が揺れるような振動がレディを襲う
同時に魔物の咆哮らしい響きが洞窟内の奥から聞こえてくる
「っ!まさか・・・!」
レディは走りだし、魔物の咆哮らしい音が聞こえた方に向かう
「相変わらず!厄介事を!引き付けて!くれます!わね!」
最後の一言と同時に、洞窟の最奥部らしき場所の入り口に到着する
中を見渡せば墓石がある、アリサがいる、できればそれだけで終わってほしかったとレディは思ってしまう
墓石とアリサ以外にその場にいたのは・・・
「GYAAAAAS!!」
轟く咆哮には圧倒的な存在感を含ませ、雑魚ならそれだけで逃げ出しそうな恐怖を感じさせる
太い腕と足は人間の胴より太く、強力な力を秘めているのが見ただけで伝わってくる
指の先に輝く爪は重厚な雰囲気を晒しだし、生半可な武器では返り討ちに会うのが目に見えている
鱗に覆われた体は巨大で、アリサの身長の軽く3倍はある
巨大な体の上にある顔は長い首によってつながり、ズラリと凶悪そうな牙を見せつけるように半開きにしている
その半開きの口からは、炎の揺らめきが見えるのが特徴的だ
そこにいた存在の特徴を一言で言い表すならば・・・
「ド・・・ドラゴン・・・!?」