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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第三章「入学編」
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閑話・アリサとレディ

読まなくても問題はありませ・・・無いよね?


多分無いはずです

レイディアント・クラース・フォルナス


一流貴族と呼ばれるには一歩足りない、二流貴族フォルナス家の長女である


フォルナス家が二流といっても、あくまで立場上の意味である

代々フォルナス家の当主は、武勲を持って統治を行ってきた家系である

それゆえに書類仕事や貴族同士の付き合いといったものへの比率が下がってしまい、結果的に貴族の中での立場は下がってしまう


ただしその戦闘能力に関しては個人・団体を問わず非常に高い

ゆえに国の騎士団が派遣されてくるのを待つことなく、私設兵団や当主一人で荒事のほとんどを解決してしまう


そんな経緯もあって領民からは非常に支持を受けていたし、貴族の中でも戦闘に関しては頼りにされていた


レイディアントはそんなフォルナス家の長女として産まれた

後に弟が産まれたが、間には実に7年もの年の差があったため、当主としての英才教育が始まってしまっていた


4歳で剣を持たされ、才能を発揮した彼女は将来当主に相応しいと噂された


7歳のときに弟が産まれた

自分が弟を守るんだと思い、ますます剣の腕に磨きをかけた


10歳のとき、両親が魔法学校へ入学の予定を伝えてきた

だが彼女は弟や両親と離れるのは寂しかったがために、その話を断った


剣の鍛練はかかさなかったが、その後はどこか空虚な気持ちのまま月日が流れていった


そして14歳


運命の出会いが訪れる



――――――――――



その日は屋敷に客人が来ていた

屋敷の使用人達がなにやら浮き足立っている

レイディアントは客人が誰なのか気にはなったが、父が自分を呼ばないということは何か理由があるんだろうと思い、いつもの鍛練をしようと中庭に向かう


剣を二〜三度振り、いつも通りの感触なのを確かめてからまず素振りを始める

それが終われば訓練用案山子に向かってさまざまなパターンで打ち込みをしていく

やがて自分が戦うイメージが固まってくると、今度は敵をイメージしてそれと戦っていく

イメージするのは父親だ


何もない空間に向かってまるで敵がいるかのように戦うレイディアント

端から見れば子供のチャンバラごっこなのだが、遊びというにはレベルが高すぎた


戦っている相手が見えるような錯覚を覚えるほどに、彼女の剣舞は生々しく、実用的な動きだった


・・・とはいえまだまだ子供であるがゆえに未熟者

次第にイメージは薄れ、強い相手とどう戦うか?よりも、どういう技が決まったら楽しいか?という方向に変化していく


次第にイメージの相手は弱くなり、錯覚するほどに流れが見えていた戦いは、もはや遊びのレベルまで落ちている


そんなことを続けていると、突然後方から声をかけられた


「・・・ねぇ」


レイディアントははっとしてそちらに振り返る

見れば屋敷の中庭に出入りするドアは開いており、そこから一人の女性がこちらを覗いていた


「あなたは誰ですの?」


レイディアントは言ってから客人の連れかもしれないと思った

だがそれを確認する前に、レイディアントにとって痛い言葉が発せられた


「アリサ・・・

それよりあなた、どうして中庭で踊ってるの?」


「なっ!踊りですって!?これは・・・っ!」


言いかけて思う

自分は何を考えていたのかを


「・・・もしかして戦い方の鍛練?

・・・だとしたら実用性に欠けてるんじゃないかしら」


「ッ!」


図星を射された


レイディアントは自分の悪い癖だとわかっている


わかってはいるが子供は子供

自分のやりたいことを優先してしまう


だからこそ飾りなく言われた言葉は彼女の心に響いた

響いた言葉は悔しさに変わり、やがて悲しみに変わり、彼女の目には涙がいっぱいに溢れてくる


「・・・泣き虫」


アリサが追い討ちをかけるようにそう言ったが、レイディアントはその言葉で逆に踏みとどまった


「泣いでなんがい゛まぜんわ゛!!!」


明らかに泣いているがそれでも気丈に振る舞う


赤いルビーのような瞳からはぼろぼろと涙がしたたっている


「・・・やっぱり泣き虫」


アリサはさらに言うが、レイディアントはそれ以上涙の量が増えることはなかった

代わりにアリサに対する敵意がどんどん増えていく


「大体あなたはなんなんですの!?

いきなり現れて人の鍛練はけなすわ泣き虫呼ばわりするわ!

失礼ではありませんこと!?」


アリサは気づいたような顔をしてから、何かを考えるような顔に変化し、時間をかけてから口を開いた


「・・・冒険者?」


「なぜ疑問系ですの?」


むむむ、と唸りながらアリサは考えるが、しっくりくる答えが出なかったようだ

答えを諦めて話題を逸らす


「それより、鍛練なら相手してあげようか?

相手がいたほうがわかりやすいでしょ」


「望むところですわ!」


一も二もなくレイディアントは頷いた

雪辱を晴らすつもりなのだろうが、雰囲気や立ち振舞いからして、相手にならないことはわかっている


しかしそれでも父や弱い魔獣を相手にするよりいい鍛練になるはずだと思ったようだ


「・・・痛くても泣かないでね・・・?」


アリサは軽く挑発してみるが、レイディアントは思いっきりひっかかる

怒りのままに突っ込んでくる


この流れでアリサはレイディアントのことを気に入ってしまった


子供らしい素直な態度に、アリサは感じるものがあったようだ


二人の鍛練は長く続いた・・・



――――――――――



「そんでよぉ!その馬鹿に俺はこう言ったわけよ・・・」


「・・・待て」


「そう、待て!ってな!あいつ犬みてーに大人しく・・・なるわけねーだろ!

ちげーよ俺が言っ・・・、ん?」


フォルナス家の屋敷の廊下を歩く二人は、窓から見える中庭の景色に目を止めた


片方はフォルナス家現当主、ゲイル・イシュゲンスト・フォルナス

もう一人は冒険者の蒼犬ことグラハルトだった


「おぉっ!我が愛娘のレディじゃないか、まだ鍛練してたとは気合い入ってるな!さすが我が娘!」


ちなみに親バカである


「・・・アリサか」


グラハルトはアリサをじっと見つめている

その目の優しさは、仲のいい人物ならすぐわかるほどに穏やかだ


隣にいる当主のように


「我が娘は完璧にして天才だ!

・・・だがそのせいでちょっと友達が少なくてなぁ

・・・お前らしばらくこっちにいるんだろ?

あの子の相手をしてやってくれないか?」


グラハルトはすぐには答えず、ゲイルを一瞬見てから再び中庭の二人に目を向けた


「・・・なんなら指導してやってもいいぞ」


「ハッ!そりゃ嬉しいねぇ

完璧な我が娘が歴代最強の当主になるってのも悪くない!」


ゲイルはグラハルトから提案してきたことに驚いたが、すぐに喜びの表情に変わる

蒼犬の強さは誰よりもわかっているつもりだっただけに、この提案にはすぐに乗ってきた


「・・・お代は寝床とうまい飯がいいな」


「ハッハッハッ!

相変わらずだな!

ついでに風呂もつけてやる!」


二人は話を切り上げ、中庭に目をやる


そこにはアリサに負けたらしいレディが、必死に涙を堪えながら再戦を申し込んでいた



――――――――――



この日から実に一ヶ月

グラハルトとアリサはフォルナス家に滞在した


その間レディがアリサに泣かされた回数は・・・


たくさんとだけ言っておこう


ちなみにレディは頑なに断っていた魔法学校への入学を即効で決めた

自分が井の中の蛙であったことに気づいたらしい



――――――――――



「・・・泣き虫レディ」


「泣き虫って言わないで!いつも言ってるでしょアリサ!」


アリサとレディの出会いでした


時期的にはアリサが二刀流になって少ししたあと、帰郷するまでの空白期間にあったお話になります


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