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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第三章「入学編」
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入学試験2

「僕を誰だと思っているんだ!」


試験会場に響いた無粋な声の発生源は、茶髪をぼっちゃんがりにした貴族らしいぼっちゃんだった


相手は金髪を肩まで流し、両サイドから三つ編みにした髪を後ろで纏めている女性だ

こちらも貴族なのだろう

身に付けているのは鎧なのだが、軽鎧の鉄色に金色で貴族が好みそうな模様の装飾がされている

腰に挿した長剣も気品を感じさせる装飾がされているが、それは決して見た目だけでなく、確かな性能のうえにされていることがわかる素晴らしい剣だ


対してぼっちゃんのほうは同じような模様だが、緑色の生地でできた服にズボン

同じく緑色の下地に金色の装飾の鞘に収まった長剣を挿している

だがその剣が放つ気配は、相対する女性のものとは比べるべくもないほどに弱々しい


彼女はそれがわかっているようで、強気に反論しはじめる


「ええ、聞いていましたわ

なんでも「蒼犬」から推薦を受けたらしいですわね?」


蒼犬という単語を聞いて本人はそちらに顔を向ける

当然その娘もそちらを見るが、二人とも話そのものより会話している人物のほうが気になったようだ


「・・・見覚えのある顔だな」


「泣き虫レディ?」


二人の呟きは聞こえるハズもなく、当人たちは言い争いを続けている


「ハッ!わかってるじゃないか!

その通りだ!その証拠に見るがいい!これが「蒼犬」がくれた剣だ!」


そう言って彼は剣を抜き放ち、それを天高く掲げてこれ見よがしに見せつける


相対する彼女はそれを見てフッと鼻で笑った


「貴様!何がおかしい!この剣を笑うということは「蒼犬」を笑うという意味だぞ!わかっているのか!」


ぼっちゃんはさらに激昂する


彼女はそれに臆することなく、淡々と話始めた


「そんなナマクラを「蒼犬」が授けた?バカ言わないでくださる?

彼が「捨てた」ものを「拾った」って言うならまだ信じてあげますわ

第一魔法学校の推薦は職員以外で出すことはできませんわ

そんなことも知らないんですの?」


ぼっちゃんはその言葉を待っていましたとばかりにニヤリとして、馬鹿にするような声で反論する


「おやおや、剣の良し悪しもわからないようでは剣を見せても意味が無いなぁ?

それに推薦のことくらい知っているさ!だが何事にも例外は存在する!

そして「蒼犬」といえば例外の塊のような存在だろう!?」


女性はぐっと言葉を詰まらせる

そう言われてしまうとその通りであるし、職員に聞けば確実だが試験の直前とあっては職員も忙しくて確認している暇は無いだろう


してやったりという顔をしているぼっちゃんを前に、女性は目尻に涙を浮かべてしまう


「また泣くのね、泣き虫レディ」


唐突にそう声がかけられた


全員が声のしたほうを振り返る中で、女性だけが口答えする

もはや条件反射に近いレベルでの反応に、彼女自身誰に向かって言おうとしているのか気付かない


「うるさいわね!泣き虫って言わないで!いつも言ってるじゃないのアリ・・・サ・・・アリサ!?」


言いながら気づいた彼女は思わず言い直してしまう

ゆっくりと振り返りながら声がしたほうを見ると、すぐに声の主が見つかった

なにせ人だかりが左右に割れて二人の間に障害物がなかったのだから


「な!・・・ななな!なんであなたが!ここにいるんですの!?

それに後ろにいるのは!?」


「・・・昔と変わらんな」


グラハルトはそう言うが、アリサはレディと呼ばれた女性の、ある部分を自分のそれと見比べてから呟いた


「・・・変わった部分もある、っていうか変わりすぎ・・・」


はぁ、とため息をついてしまう

だがそれも仕方ない

レディは女性らしい丸みを帯びたシルエットだが、無駄な肉の付いていない引き締まった体をしている

だがそんな体つきでさえ気にならないほどに、胸にある母性の象徴がこれでもかと存在を主張している

軽鎧で圧迫されているせいでできている谷間が、その大きさを容易に想像させている


対してアリサは小さくは無い、決して小さくは無いのだが、所謂16歳相当というか発展途上というかなんというか・・・

とにかくレディとは比較にならないサイズであるだけに、どうしても落胆してしまう


胸を凝視されていると気づいたレディはバッと両手で胸を隠し、顔を赤くしながら話す


「こ・・・答えになってませんわ!

なんであなた達がこんなところにいるんですの!」


「・・・なんでって」


「私も受験するのよ」


「はぁ?なんでいまさら・・・ってまさかまだ魔法が使えないんですの?」


その言葉にあざとく反応したのはぼっちゃんのほうだった


「ダハハハ!なんだお前!魔法も使えないのにこの学校に入るつもりか!

剣の見分けもつかない女に魔法が使えない女とはいいコンビだ!

ここは僕のようなエリートが入る学校なんだよ屑ども!

そう!蒼犬に選ばれた僕のようなエリートが!!!」


もはやレディは彼の存在を忘れかけていた


あぁまだいたの?と言わんばかりの呆れ顔でため息を吐く


「・・・だそうですわよ?」


「お父さんあんな知り合いいたの?」


「・・・見覚えが無いな」


三人が三人とも呆れた表情で・・・、いや一人は兜で見えないので雰囲気だが、とにかく呆れている


「貴様ら!わかっているのか!蒼犬だぞ!?

災害級特別討伐対象の蒼犬が推薦したんだぞ!?

その僕を馬鹿にするということは蒼犬を馬鹿にするということなんだぞ!」


フーッフーッと息を切らしながらそう言い切ったぼっちゃんだが、目の前の本物を見て気付かないあたり相当な間抜けである


どうしたものかと三人が考えていたとき、どこからともなく声が響いた


「その推薦書なんじゃがのぅ」


その声は会場全体に響いているようだった


「不正が発覚したので無効とさせてもらうことになったんじゃ」


ほとんどの人間が声の発生源を探して周囲を見回しているが、こんなじいさんみたいな声を出しそうな人物は見つからない


「残念ながら今年は同じように推薦書を偽造するものが多かった、これから職員が一人一人に対応していくから心当たりがあるものは覚悟しておくがよい」


言い終わるが早いか職員が来るのが早いかというタイミングでぼっちゃんの前に一人の女性が表れた


「というわけよ、あなたの受験票は剥奪します」


だがぼっちゃんは最初から用意してたであろう台詞を放つ


「ハッ!馬鹿を言うな!

他のヤツらは知らんが僕のは本物だ

おまえらが知らなかっただけだろう?

蒼犬は連絡もろくにしない場合だって珍しくないんだからな」


よどみなく、しかしはっきりと断定した

しかし蒼犬のことをよく知る学園長が勤める学校だ

この手の対応はいままで何度もあった

彼女はいままで通りの話で彼に説明を始める


「ではあなたにもわかりやすいように説明させていただきましょうか

あなたの場合、蒼犬が書いた推薦書があることが問題なのではありません

蒼犬が推薦書を書いた・・・いえ書けたことが問題なんです」


きょとんとした顔をしているぼっちゃんは、何を言われているのか理解できないようだ


「この程度の情報は彼を少し調べればすぐわかることですが・・・

彼が推薦書を書くことはありえません

それは書かないという意味ではなく、書けないんですよ

・・・はっきり言ってしまえば、彼は文字は読めますが書くことはできないんです」


ぼっちゃんはまだ頭が追い付いていないようだ、硬直したまま動かない


「つまり推薦書が本物かどうかというよりも、推薦書があるという時点でそれは偽物なんです

・・・ちなみにあなたと同じような手口を使った方は過去にもたくさんいましたが、あなたのやり方が一番下手ですね」


ぼっちゃんは汗をだらだら流しながら話を聞いているが、もはや何を言われているのかさえわかっていないだろう

追い討ちをかけたのはレディとアリサだった


「一応教えてあげますわ、さっきから目の前にいる彼が正真正銘の蒼犬ですわよ?」


「・・・ついでに言うならあなたが馬鹿にした私は彼の娘よ」


バタンッ


それを聞いて顔面蒼白になったぼっちゃんが、そのまま白眼をむいて気絶してしまった音がした



――――――――――



静かになった試験会場に再び声が響き渡る


「さて、諸君!」


今度はさっきと違い、全員が同じ方向を向いた


その方向には校舎の正面玄関があり、その玄関から一人の老人がゆっくりと歩いてきた


「長らく待たせたのぅ!これより魔法学校入学試験を開始する!!!」


ちなみにアリサは読むのも書くのも出来ます


万物の才能があるので、ギルドの書類等を見ているうちに出来るようになりました


蒼犬が読めるけど書けない理由は・・・、いつか本編で書くかと・・・多分、いや必ず・・・、うんがんばります・・・

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