入学まで
いつも読んでいただきありがとうございます
累計PVは5000を超え、毎日100人近い方々が覗いていただける日々に感謝しております
今回の話で個人的な一区切りと考えております
皆様の暇潰しの手伝いになれば幸いです
「全然わからん!」
「・・・残念だったな」
そんな会話をしているのはアルドラとグラハルトだった
片や魔族と呼ばれる種族の祖先であり、闇魔法を人間に教えた開祖
片やその悪魔を平気で倒せる人間の枠を逸脱した超人間
二人の会話はその存在感を全て無視した、街の酒場で話すような切り出しで始まった
実際に街の酒場で話しているのだから間違いではないのだが・・・
「骨折り損だぜ
人間界どころか魔界に天界、命を賭けて魂界まで行ってきたってのによ!」
ちなみに魔界は悪魔達が住む世界で、天界は天使や神と言われるような存在の住む世界、魂界はどちらでもない存在がいる世界だ
彼らが今いるこの世界と、それぞれの世界の間には空間の壁があり、物理的に干渉できず、しかるべき手段以外での世界間移動は不可能になっている
「五年前を境にしてプッツリ詳細がなくなっちまう!
どこを探しても影も形もねぇってのさすがに参った!
逆にここまで来ると、いきなり現れたってのが現実的に感じられるぜ!」
「・・・」
アルドラはそう捲し立てるが、蒼犬は特に何も言わない
調べている対象である本人に言う台詞ではないのであろうが、それほどに情報が集まらないということなのだろう
そんなことは気にならないとばかりに、蒼犬は話を促す
「・・・で?」
短いが、彼なりに考えた結果の単語だ
余計なことを言って話をこじらせたりしない
単刀直入に用件だけを聞こうというスタンスなのだが、いささか短すぎると感じるのは決して気のせいではない
「あぁ、そうそう
アリサが魔法学校の入学できる歳になっただろ?
万物の才能なら拒否されるわけねぇってか歓迎されるだろうと思ってよ
どうすんのかなと思って聞いてみたかったのよ」
「・・・わざわざ呼び出してそれか」
「そりゃな
俺はアリサの味方になりてぇんだ、アリサの動向くらいは知っておきてぇ」
「・・・」
実際にはすでにアリサへの興味は薄れている
彼の興味は目の前にいる蒼犬に移ったからだ
とはいえ味方として判断されればそれはそれで有利に働くので、気を配ることを忘れない程度には気にしている
だがグラハルトはそんなことを気にして黙っているわけでは無かった
「・・・決めかねている」
アルドラは眉をピクッと動かし、驚いた様子で聞き返す
「なんでよ?魔法学校といやぁエリートの登竜門だろ?
アリサほどの実力と才能がありゃあ道なんて選び放題だぞ
なによりあそこなら魔法が習得できるじゃねーか」
今の時点でアリサは無類の強さを誇る、もちろんこの二人を除いてでの話だが・・・
だがもちろん弱点もある
それが魔法だ
アリサは現在魔法が使えない
もちろん使い方がわからないわけは無いが、使える種類が極端に少ない
しかも本人が強いがために、魔法を使うより直接攻撃したほうが早いという悪循環なのだ
主に使うのは照明代わりや火種を生み出すなどの低級魔法、しかも攻撃系はほとんどなく補助系ばかりだ
魔法学校では、その名の通り魔法を教えている
前衛志望や官僚を目指している人間でも、一定レベル以上の魔法は必ず習得しているくらいだ
グラハルトやアルドラが教えてもいいのだが、アルドラの闇魔法は非常に危険が伴う
もし万物の才能で中途半端に強力な魔法を発動させて暴走でもしようものなら、アリサ自身が危険になってしまう
グラハルトに至ってはそもそも教えられない、と以前に言ってしまっている
事実グラハルトでは細かい説明や詠唱の意味など全てすっ飛ばすので、とても教師として優秀とは言えない
「・・・重要性はわかっている」
グラハルトとしては魔法以外にも気にしたいところがあるのだが、それを言葉にしないのが彼らしいといったところか
「・・・あれか?悪い虫が寄ってこないか心配だってか?」
「・・・」
「もしくはあれか?学生のうちに近づいておいて、利用しようとするヤツがいないかってことか?」
「・・・」
「あぁ!あとはあれか!仲間ができちまって離れ離れになるのがイヤか!?」
「・・・ッ!!!」
最後の一言を言った瞬間、グラハルトから強烈な殺気が放たれた
その気配は冷気と錯覚するほどに強く、何が起こったかわかっていない者でさえも咄嗟に「死」という言葉が頭に浮かぶ
「・・・親バカめ」
そんなグラハルトを気にせずにアルドラは話を続けた
「なんにしても、アリサにとって不利になることはねぇ
今後どうするにしても、アリサにとっちゃ魔法が使えて損はねぇし、考えようによっちゃ対人関係の勉強にもなる
なんなら教師として俺が潜入してやろうか?」
「・・・それはいらん」
「そりゃ残念だ
まあ利用してくるヤツもいるだろうが、どんな手を使ってくるかを知る機会にもなる
男にしたってアリサほどの顔ならいままでごまんと寄ってきてただろ?
最後のは・・・まぁ騙されたんでない限り諦めるんだな」
アルドラとしては入学を薦めるようだ
彼の思惑はわからないが、何かの策略や利用しようとしているわけでなく、単純にアリサのことを思っての発言のようだった
「あとはアリサ次第ってとこはあるが・・・、まぁ直接聞いても断りそうだな
お前さんが言うなら行くってくらいはありえそうだがよ」
グラハルトは考えることを止めた
彼なりに考えたことを実行に移すのだろう
「・・・金は置いていく」
そう言ってグラハルトは立ち上がり、酒場の出口へ向かおうとする
アルドラはグラハルトが背を向けてから声をかけた
「魔法学校で、今ある噂が広まってる」
出ていこうとしたグラハルトは足を止めた
「・・・異世界から来た学生がいるってな」
「・・・」
グラハルトは振り返らずに酒場を出ていった
――――――――――
「・・・というわけだ」
場所は変わり、グラハルトとアリサが泊まっている宿屋の一室
男女が同じ部屋に泊まればいろいろ問題が起こりそうだが、義理とはいえ親子なので問題ない
グラハルトも親として一緒に行動しているので、今まで一度もそういったことにはなっていない
しかし親子の会話としてはいささか短すぎる言葉にアリサは顔をしかめる
「つまり学校に行けってことでいいの?」
そう言われてグラハルトはどこからともなく書類の束を取り出す
ドサッとテーブルに置くが、結構な厚さと種類がある
「・・・必要な書類だ、・・・学園長の推薦書もある」
言われてアリサは書類を軽く確認する
入学願書、学園資料、入学の手引き、試験内容、試験会場案内、推薦書等々・・・
「理由を聞いても?」
アリサとしては急に言われた話なので、考える時間が欲しかった
今まで通りの生活をこれからも当たり前に続けていく、冒険者として世界中を旅していくと思っていただけに頭が追い付いていないのだ
「・・・色々ある、・・・一番は・・・経験だな」
「色々経験してこいってこと?」
アリサの確認にグラハルトは頷く
グラハルトの短い発言の意図を正確に読み取れるのは、長く共に生活してきたからこそだ
だからこそ、アリサはグラハルトが思いつきでこんなことを言い出したりしないことを知っている
グラハルトが言うからには、何かしら考えてのことなのだろう
だったら迷う必要は無い
何かさせたいことがあるならグラハルトは言ってくれる
言わないならそれはアリサが考えることに意味がある、考えて行動したことそれ事態に意味があるのだ
だからアリサは言った
「いつから?」
「・・・半年後だ」
お疲れさまでした、ここまで読んでいただきありがとうございます
これにて第一章とでも言うべき一つの区切りとなります
携帯投稿なので章の編集ができませんが、そういう感じなんだと思っていただければ・・・
次回からはアリサの学園編になります
蒼犬さんはほとんど出てきません(笑)
今後も読みづらい書き方が続くと思いますが、それでも読んでいただける方々には感謝でございます
今後もよろしくお願いいたします