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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第二章「過去編」
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災害級特別討伐対象6

「ブヒャアアアァァァ!

たす!助けろ!誰か助けるんじゃあ!」


豚が醜い姿で地面に転げ回っている


「・・・誰か?周りに誰かいるのかしら?」


そう言ってゆっくり豚に歩み寄るのはアリサだ

冷静に見えるその顔は、これから人を殺すとは思えないほど美しい


「ブヒャ!

おおおお前!ワシを助けるんじゃ!

金ならいくらでもやる!そうじゃ!お主の目を買ってやろう!

いくらならいいんじゃ!?

一生遊んで暮らせる金を払ってやるぞ!」


「・・・そうね・・・じゃあ」


アリサの反応に助かったと豚は安心する

自分の金と権力を使えば言うことを聞かないものなどいない

王族でさえ自分には簡単に意見できないのだから、こんな小娘が自分の言うことを聞かないハズがない

何かを勘違いしていた豚はそう思っていた




自分の腕が無くなっていることに気づくまでは


「ブヒャ?ヒャ!ヒャアアアアアァァァ!!?」


腕が無くなった豚を見てアリサは先ほどの続きを話す


「まずは人間の言葉を覚えてもらいたいわね、豚語で何を言われてもわからないわ」


豚が這いずり回りながらアリサに向けて抵抗の言葉を言い始める


「ブヒャッ!おおお主らが何をしたかわかってるのかぁあ!

ワシに手を出すとは!貴様らは指名手配だ!

特別討伐対象にしてやってもいいんだぞ!

ブヒャアァァ!痛い痛い痛いいいぃ!

イヤなら早く助けろこのマヌケがぁ!」


「・・・ふむ」


唐突にグラハルトが表れる

彼の手に持つ剣は、両手で扱うはずの幅広の剣に戻っていた


「特別討伐対象ねぇ・・・」


気づけばアルドラも近くに来ている


さきほどまでいた騎士団や豚の手下で立っているものはいないようだ


「悪魔はもともと指定されてっからな、今更なんにも意味ねぇな」


アルドラはそう話す

そもそも単体で屋敷を吹き飛ばせる時点で、指定されていないのがおかしい話だ


お前はどうなんだと言いたげにアルドラはグラハルトのほうを見る


「・・・豚語はわからん」


アリサと同じ対応に、思わず彼女は笑ってしまう


(・・・あぁ、やっぱりこの人と一緒にいてよかった

・・・それとも私が影響されたのかな?)


グラハルトは何の感情も読み取れないフルフェイスの兜から、豚を値踏みするようにじっと見ている


「・・・どうしたの?」


グラハルトの視線が気になり、アリサが訪ねる


「・・・俺には殺せないな」


グラハルトが漏らすようにポツリと呟く

アリサはその言葉に心底驚いてしまう

彼は正義が鎧を着ているような人物だから、悪が服を着て豚の皮を被ったようなこの男を殺せないという話はかなりショックだった


「・・・だから、・・・アリサが決めろ」


グラハルトが殺すような人物は大概悪人だ

だが「例外」がある

悪人に見えない人物や、巧妙に隠している人物でさえも、彼にとっては意味がない

悪であるか否かだけしかない

少なくともアリサはそう思っていたが、例外があったことを思い出す


過去に二度

一度目は今回と同じく明らかな悪人が死ななかったこと

二度目は罪という意味さえ知らない十歳の子供を殺したことだ


いまだに共通点はわからないが、今回も恐らく「例外」なのだろう・・・


そう思うと急に殺気が薄れていく


今ではないいつか、どこかで彼と再び会うのだろう

そのときに敵か味方かはわからない


グラハルトが殺さないと言うならば、きっとこの豚は何かの役目をするのだろう


「・・・今は・・・殺さない・・・」


絞り出すように、自分に言い聞かせるようにアリサは言う


「・・・でも・・・次は・・・無い!」


言葉を言いきると、騎士団長から奪った剣を地面に突き刺す


豚を睨み、すぐに振り替えってその場を離れる


「・・・運が良ければ生き残る」


グラハルトは誰に言うでもなくそう言い残し、アリサのほうに歩いていく


「だそうだ、利用されたのはムカつくが、まあ俺が気づかなかったのが間抜けってことで殺さないでやるよ」


アルドラもそう言って離れる

豚はいまだにもがいているが、助けてくれる人物は周りにはいなかった


「ブヒャ・・・ブヒャァ・・・!

許さんぞ蒼犬・・・!

あの女も、悪魔も、全員許さんぞ・・・!」



――――――――――



「なぁ、蒼犬」


唐突にアルドラはグラハルトにそう声をかけた


「・・・なんだ」


「お前いったいなんなんだ?

失伝したエンシャント・ルーン言語にルーンスペル、武器を瞬時に出したのは空間魔法の「倉庫アーカイブ」だろ?

おまけにディバインナイト・・・いやルーンナイトか、まあそんな職業クラスに着いてるなんて普通じゃねぇぞ

お前さんほんとに人間かよ?」


グラハルトは明らかに不機嫌になる

どうやら彼にとって聞かれたくない部分だったらしい

だがその不機嫌も、アリサからの視線を感じて緩んでしまう

アリサはそれを見てから口を開いた


「・・・もしかして」


グラハルトというよりアルドラに向かって言っているようだ


「・・・グラハルトって普通じゃなかったの・・・?」


ガクーンと両膝を地につけ、両手も地面につけて所謂OTZの形になるアルドラ


「わかるだろ・・・、悪魔と単体でガチ合える時点でわかってくれ・・・

俺が普通みてーじゃねーか・・・」


アリサはグラハルトが強い部類の人間だとは思っていたようだが、あくまでも人間に可能な範囲の中での「強い」だと思っていた

もちろん最強の座を争うような強さだとは理解していたが、人間の範囲を逸脱しているとは思っていなかったようだ


グラハルトは項垂れているアルドラと、驚いた表情のアリサを横目に話す


「・・・俺からは話せん、・・・自分で調べろ」


アリサはあまり興味が無いようだがアルドラが食いつく


「話せない?話したくないんじゃなくてか?

・・・っていうかそれ調べてわかることなのかよ?」


「・・・それも話せん、・・・そういう話は全てな」


チッと短く舌打ちするが、どうやら彼の興味はアリサからグラハルトに移ったようだ


「そういうことなら調べ尽くしてやる、お前が生まれた時間まで調べてやる

なんならお前が覚えてねぇことも調べてやるから、聞きてぇことがあったら言っておきな」


軽口を叩くアルドラだが、真剣にそう思っているようだ

顔はニヤついているが目が笑っていない


「・・・ノーコメントだ」


「のーこめんと?どういう意味だそりゃ?」


グラハルトは完全に黙りこむ

話す気はないということらしい


「・・・アリサ」


急に呼び掛けられてアリサはビクッとしてしまう

今まで一緒にいた自分にとっての第二の親とも呼べる存在が、実は全く得体の知れない人物だったということに軽くショックを受けていたのだ


「・・・えっと、なに?」


おずおずとそう訪ねるが、グラハルトは気にしていないようだ


「・・・お前はどうする?」


後ろではアルドラが何かブツブツと唸っているが、二人にはまるで聞こえないようだった


「・・・私は・・・」


アリサは迷う

もう戻る場所も無くなったというのに迷う

選択肢など一つしかないのに、それを選択するという行為に迷う


自分はなぜ剣を握ったのか?

自分はなぜ戦うことを選んだのか?

自分はなぜここまで来たのか?


違うやり方があった筈

違う道があった筈

違う居場所があった筈


自分がここまで来たのは・・・

違う道を選ばなかったのは・・・


「親がいなくても生きていけるように手配する、一生不幸が起こらないように守ってくれるヤツも紹介する

・・・お前が普通を望むならそうしてやれる」


グラハルトは迷いなくそう言った

いつもなら言う前に必ずはいる、一度考えるための間が無い


きっとこの言葉を言うまでにたくさん考えたんだろう、考えて考えて選んだ言葉なんだろう


言ってしまったことを後悔しているのだろう、言わなければアリサに他の選択肢は無かった筈だから


アリサはそれをわかっていた

グラハルトの顔は兜に隠れて見えない

だが彼の雰囲気は明らかに後悔と、悲しみが混ざったような状態だ


だからアリサは言った


「普通なんていらない、私が普通じゃないのは私自身が一番わかってるわ」


凛とした声が響き、確かな決意が感じられる


「守ってくれる人なんていらない、私は強くなったし、まだまだ強くなりたいから」


その声にはもう迷いなど感じられない

最初から選択肢は一つしかなかった

それを選んだだけだ


「・・・それに、親ならいるわ

・・・そうでしょ?」


いつのまにかアルドラまで話をじっと聞いている


グラハルトはアリサの答えを聞くたびに、目に見えて雰囲気が明るくなっていくのがわかる


アリサはそれを感じて、クスッと笑いをこぼしながら最後の言葉を言った


「お父さん」



――――――――――



この後、結局生き残った豚によって三つの特別討伐対象が追加される


蒼犬・グラハルト

双剣・アリサ

悪魔・アルドラ


三つとも特別討伐対象としては最高ランク、世界そのものを破壊しかねない存在として「災害級」の名をつけられることになった・・・


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