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ソウケンと呼ばれた親子  作者: タリ
第二章「過去編」
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望んだ世界の生き方




「戦い方を教えて」


ここは草原

周りは足首にも届かない、短い草しか生えていない

草原は広く、ずっと先には湖が見える

湖の向こうには森が見える

森の向こうには山が見える

つまるところ、しばらくは歩き続けるしかないような場所

それも何時間、なんてレベルではなく、何日間、下手をすれば何週間というほどに時間がかかりそうな草原


そんな草原のど真ん中で「彼女」は「彼」にそう言った


「・・・それから名前も教えて・・・」


名前すら知らない「彼」は、全身が黒づくめの全身鎧とマント姿で、犬のような見た目の兜を被っている

金色のラインが黒い見た目にアクセントを与えている


「・・・グラハルトだ」


「彼」は自分のことをそう名乗った


「私は」


「・・・知っている、アリサだ」


名乗ろうとしたアリサはグラハルトの言葉に驚く

名乗っていないのに知っているハズが無い、それまでのアリサは屋敷に軟禁されていたようなものだから、偶然知ったというのも考えにくい

思わずアリサは聞いてしまう


「どうして知ってるの?私達初対面のはずよね?」


グラハルトは少し困ったような顔で(兜で見えないが)彼女に答えを返す


「・・・特殊能力だ」


「・・・そう」


そんなバカなとアリサは思ったが、あまり話したくない部分なのだろうと判断して無理に聞き出そうとはしないことにする


「・・・戦いは教えられない」


「・・・そう・・・」


否定の言葉に彼女は目に見えて落胆する

戦う術を知らなければいつまた同じ状況になるかわからない、次も同じように助かるとは限らない、自分で自分を守るだけの力はなんとしても手に入れたい

だからこその落胆も大きかった


「・・・だから盗め」


アリサはハッとする

グラハルトは教えないと言ったのではない

教えられないと言ったのだ

それは教え方を知らないと言い替えても良い

教え方がわからないからそれを伝えることができない、だが彼の戦い方を見て自分なりに学ぶのは構わないということなのかと理解する


「・・・だったらお願いがあるんだけど」


「・・・言ってみろ」


「見えるように戦ってください」


そう、彼は強すぎた

そして速すぎた


彼の剣速は常人には捉えられないほど速い

世の中にはそれを捉えられる達人もいるにはいるのだが、素人のアリサにとっては見えるわけがない


何が起こったかもわからないのでは盗みようもない、いくら虹色の輝きを持っていようとそれは覆せないことだった


「・・・まずは見る訓練だな」


だが一蹴されてしまう


最初の訓練が「見る」こと、しかも達人レベルのそれをというのは、いきなり高いハードルであった


アリサはさっきとは別の意味で落胆してしまうが、教えられないと言われた以上はやるしかないと頭を切り替える


「頑張る」


それは決意


飾らない決意の言葉は時に相手の魂に響く


グラハルトの魂に響いたかどうかはわからないが、彼女自身の魂には響いた


言葉にすることでより強く心が決まる



――――――――――



アリサがグラハルトの剣速を捉えるようになったのは、この日から一ヶ月が経った頃だった



――――――――――



剣速を捉えるようになってからは、グラハルトと模擬戦をするようになった

最初こそ動けなかったが、そこは虹色の輝き、万物の才能である


どうすれば体が反応できるようになるか?体のどこを鍛えればいいのか?自分は彼相手にどう動けばいいのか?


万物の才能はその能力を遺憾なく発揮し、模擬戦をするたびにどんどん強くなっていく


剣速を捉えるようになってから一ヶ月もする頃には、一端の冒険者と同レベル程度まで成長していた



――――――――――



ある日の模擬戦が転機になった


「・・・二刀流か」


アリサは両手に一本づつ剣を持ち、グラハルトの前で構えている


「そう、二刀流。

足りない力は手数でカバー」


この日までの模擬戦からの経験で、アリサはどう頑張っても力でグラハルトに勝つことはできないと思っていた


何せ両手で思いっきり振った剣を片手で防いでしまうほどの力をグラハルトは持っているのだ

男と女ならそのくらいありえそうだが、微動だにしないようではそんなレベルではないことくらい気付く

今のアリサはその辺の魔物程度なら一刀両断であるだけに尚更だ


彼は両手でも片手でも使えるバスタードソードというタイプの剣を使っているので、盾は持っていない

単純に二本あれば、彼の防御は剣一本だからもう一本が当たるのでは?

倒せないまでもいいところまで行けるのではないかという判断だ


この日は結局何もなかったのだが、アリサは何かを感じ取った

手応えを感じることが何度かあった

もう少しこのスタイルでやってみようと考え、改善点を探し始める


そんなときに珍しく彼のほうから話しかけてきた


「・・・剣に振り回され過ぎだ」


珍しい助言にアリサは目を丸くする

驚いてしまって彼の言葉を理解できないでいると、彼のほうから続けてきた


「・・・力で無理矢理振り回すな・・・逆効果だ」


驚きがおさまってくると急に彼の助言が頭に入ってくる


二刀流の最大の利点は手数とバリエーションの多さだ

だが片手で扱う分だけ融通が利きづらい

例えば両手で一本を扱えば、力で振り回すことも難しくない

そうでなくても、振った剣を片手を軸にもう片方の手ででひねることで、剣の勢いを殺すことなく再び切り返すことができる


片方で一本づつ扱う以上、そういった扱い方がやりづらい

二本になったから一本より強い、というわけにはいかないのが二刀流の難しさなのだ


今のアリサは力で無理矢理剣を振り回し、剣の重さが中途半端に強くなったアリサの力で加速され、振った方向に体を持っていかれてしまう

それを制するために重心をずらし、足腰で一瞬踏ん張る

その一瞬が体に負担をかけ、やがて蓄積されていき、一瞬の踏ん張りが一瞬でなくなり、いつしか致命的な隙になる


事実今の模擬戦では、一瞬ではなくなっていた踏ん張りの瞬間を狙われて負けている


「・・・力で抵抗するな、・・・力を乗せて加速し続けろ」


唐突にアリサは答えを見つけた

虹色の輝きが言葉を理解し、意味を理解し、そこから応用を思いつき、急速に戦闘スタイルを組み立てていく

それに必要な鍛え方も、どんな力が必要なのかも、そのスタイルで彼に通用するかどうかもシミュレーションしていく


「・・・・・・何か掴めたか?」


グラハルトの言葉にアリサはハッとしてしまう

どうやらかなり考えこんでいたようだ

だか彼の問いかけには確信を持って答えられる


「うん、掴んだ

明日はあなたに勝つ」


それを聞いてグラハルトは笑ってしまう、もちろん兜で見えないので笑った気がする、と言ったほうが正しいのだが


「・・・気を付けよう」




この日、後に「双剣ふたつつるぎ」と呼ばれる少女が誕生した




しかし「双剣」が「蒼犬あおいぬ」と呼ばれる彼に勝ったことはいまだに無い


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