断章 アリア
「がっ、あ――」
少女の口から吐き出された血が、赤黒い水溜まりを作っていた。
全身が悲鳴を上げていた。
自分が今危うい均衡の中人のカタチを保っていて、指先で突かれれば崩壊すると言われても信じられるくらいの激痛だ。
分かっていた。覚悟もしていた。
だが一回――たった一回の装着で、このザマなのだ。
「ようやく理解したかな。人の身で僕を使うことがどういうことか」
侮蔑と嘲笑が混じった声に、顔を上げる。
少女を見下ろしていたのは――少女とは一回り歳が離れていそうな子供。
だがただの子供ではない。
その名はディア・ルイン。
歴史上数多の惨劇を彩った、曰く付きの魔剣。
そして先程まで少女が装着していた鎧だ。
「僕は……『鎧の魔剣』は、装着者が契約を結んで吸血鬼になることが前提のシステムだ。人間が使うことは端から想定されていないのさ。だから装着の負荷でこう言うことになる……そう使う前にちゃんと説明したはずだけど、忠告を無視して使った感想はどうだい?」
「……守れた」
「うん?」
「やっと、やっと、やっと……吸血鬼を、倒せた。村を、守れた!」
苦悶に顔を歪ませながらも、少女の目は歓喜の光で溢れていた。
視線の先には、寝静まる集落があった。
少女が間に合わなければ、あそこは吸血鬼によって壊滅していただろう。
だがその未来は回避されたのだ。
「まあ、そうだね。吸血鬼を殺して、あの村は守られた。君の戦いの目撃者もいなければ、讃える者もいないがね」
むしろ、『鎧の魔剣』を使っていることが発覚すれば、迫害を受けるのは少女の方だ。
「別に……それはいいの。そう言うのが欲しいんじゃないし」
「ふぅん……それで? まだ続けるかい?」
「当然。当たり前よ」
血を拭い、少女は立ち上がった。未だに激痛が苛んでいるが、宿屋まではもつだろう。
依然として無数の吸血鬼が夜の闇の中を蠢いている。
彼らを全て倒すまで、少女の戦いは終わらない。
「だから……またよろしくね、ディア。力を貸してくれて、ありがとう」
感謝の言葉を口にした少女に、ディアはしばし目を瞬かせ、はぁと嘆息した。
「まったく……色々な装着者を見てきたけど、ここまで愚かというか……バカなのは君が初めてだよ。アリア・アルメリア」




