鎧の魔剣
咆哮に押されたのか、リザードウォーリアの動きが遅れた。
その時には既に、羽衣璃の拳が腎瘻の頬を砕いていた。
骨が軋み、牙が砕ける。
鎧は一見武器らしい武器を持っていないが、なんら問題はない。
鎧そのものが、最大の武器なのだから。
羽衣璃の攻撃には型もセオリーもない。
あるのは殺意と、新たに生まれたもう一つの衝動。
それらに導かれるように、羽衣璃は戦うのだ。
爪が肉を抉り、脚が骨を砕く。
一撃一撃が速く、重い。
リザードウォーリアも反撃せんと爪を伸ばした腕を振り下ろすが受け止められ、肩口に鎧の牙が沈められた。
血と絶叫が迸る。
リザードウォーリアは暴れるが、羽衣璃はぴくりとも動かない。
やがて、バキンと顎が閉じられる。
右腕を食いちぎられたリザードウォーリアは後方に跳躍した。
羽衣璃は追撃せず、リザードウォーリアの腕を貪り始めた。
リザードウォーリアは残った左腕を構えて槍を放つ。
放たれる槍の威力は、分厚い装甲板を難なく貫く威力を持つ。
直撃を食らえば、あの漆黒の鎧も無事で済むかは分からない。
だがその心配も杞憂であった。
羽衣璃はそれを、片手で掴んだのである。
火花が散り、煙が立ちのぼる――しかし槍の穂先は羽衣璃の頭部ギリギリの位置に止まっていた。
続けて襲い来る槍の群れを、羽衣璃は掴んだ槍で次々と薙ぎ払う――!
もう一度撃とうとしても、指の再生が終わっていない。
本来であれば、左指を右指を交互に撃つことで弾切れの隙を無くすことが出来ていたが、片腕をもがれた今、致命的な隙に繋がる。
それを見逃す羽衣璃ではない。
投擲された槍がリザードウォーリアの右肩を射貫き、壁に縫い付けた。
偶然か、はたまた意趣返しか。それは数分前の構図の再現であった。
双方の立場が完全に逆転していることを以外は。
捕食者と被食者の逆転――不幸にもそれを自覚してしまったリザードウォーリアは、窮地から逃れんと暴れる。
しかし槍は肉だけでなく、骨ごと貫いていた。
無力な人間を弄んだ怪物の命運は今、ここに決した。
腎瘻の腕を見せつけるように完食した羽衣璃は、右腕をかざした。
「……第三拘束、解除」
鎧に存在する拘束は、契約を交わしたことで既に解除された頭部の第一拘束を含め、胴、両腕、両脚の計六カ所。
拘束解除された右腕の〈顎〉から魔力が溢れ出し、拳が紅の輝きに染まる。。
リザードウォーリアは一層激しく暴れるが、時既に遅し。
「ハァッ――!」
地面を蹴り、繰り出されるは正拳突き。
それは胸の中心に突き入れられ、肉を破り骨を砕き、心臓を破壊した。
瞬間、魔力がリザードウォーリアの体内を蹂躙。
体の穴という穴から紅の輝きが溢れ出し――爆散。
砕け散った肉体は魔力に変換され、展開した第三の〈顎〉の中へと取り込まれた。
右腕を再び拘束した羽衣璃は、己が勝利を誇示するように再び吼えた。
これが羽衣璃の最初の狩りであった。




