表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はあなたを纏いたい! ~魔剣と始めるダンジョン攻略~  作者: 悦田半次


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

1億円とお弁当

「1億ゥ!?」


 我ながら声がクソでかい。

 晴瑠野羽衣璃はれるやはいりはそう思いながらんんっと咳払いした。

 場所は学校、時刻は12時46分。

 つまり昼休みであり、早弁をしているせっかちさんを覗けば昼食の時間ということになる。

 羽衣璃もまた、自作の肉野菜炒め弁当(全然美味しくない)を食べている。

 そんな中、素っ頓狂な叫び声を挙げてしまったわけだが、昼休みの教室というのは得てして騒がしいものなので、特に注目を浴びることはなかった。


「一億って……一億って日本円ですか? ジンバブエドルじゃなくて」

「日本円……だったはず、多分」


 テーブルを挟んだ向かいに座り首を傾げている長身の少女の名は我妻あずまキル。

 羽衣璃の幼馴染にして、親友にして最推しの冒険者である。

 冒険者とは10年前に世界各所に出現したダンジョンを攻略する者達のことだ。


 現実離れしたデザインのアバターに変身し、これまた現実離れした武器を振り回しモンスターを次々と倒してい冒険者は、まさに現代のヒーローである。

 彼らの活躍を撮影した動画はインターネットにアップロードされ高い人気を経ている。

 そしてキルもまた、冒険者事務所『スルーズ』に所属している冒険者なのだ。


「だったはずって、相変わらず報酬にドライですねぇキルは」


 冒険者の中にはダンジョン攻略とは関係無い雑談配信や歌ってみた動画をアップするなど、最早アイドルに片足を突っ込んでいる者達もいる。しかしキルはそれらの活動には目もくれず黙々とモンスターを討伐する所謂『攻略専』だ。

 しかもほぼ討伐クエスト専門で宝探し系のクエストには目もくれないという、生粋の『モンスター殺し《スレイヤー》』である。

 そのある種ストイックな攻略スタイルと、バーサーカーとも言われる豪快な戦い方が評判を呼び、大手事務所の冒険者に匹敵する人気を経ている。


「けど賞金をかけられるモンスターは大抵強い。だから、チェックは大事」

「なるほど。でも一億って相当ですよね」

「うん、私も見るのは初めて」

「そんな大金を、剣一本にかけるって中々信じられないなー」

「ただの剣じゃない。『鎧の魔剣』」

「鎧? 剣じゃなくてですか?」

「鎧になる剣、みたい」


 イメージ的には、羽衣璃が毎週日曜に欠かさず見ている特撮ヒーローのようなものだろうか。ちょっとカッコいいと思った。さすがにキルの前では言わないが。


「確か、装着者を吸血鬼にするって」

「おおう……何やらヤバそうですね」


 動画内で吸血鬼と呼ばれるモンスターを見たことはないが、話を聞く限り穏やかなものでは決してあるまい。


「えーっと、つまり使う人が増えれば増えるほど吸血鬼がワラワラ増えるってことですよね……確かに、ダンジョンの外なんかに出て来たら大変なことになりますね」


 もっとも、ダンジョンからモンスターが地上に出てくるなんて言うケースは十年近く前の『ダンジョン災害』以降一度もないのだが。


「自我を持っているし自分で動くことも出来るし、他のモンスターを強化する可能性もある。だからギルドは大金をかけたんだと思う」

「ほあー……それで、その鎧の魔剣を昨日取り逃がしたってことなんですか?」

「……そう」


 ギシギシと、キルの箸が悲鳴を上げた。


「魔剣単体はそこまで強くなかった……けれどすばしっこくて、最終的に見失った。だから次は……完全に破壊する」


 バキリ。


「「あ」」


 破壊されたのはキルの箸であった。

 予備の割り箸をキルに渡しながらも、羽衣璃はふと疑問を抱いた。


「あれ、でも他の人の動画じゃそんな魔剣のこと言われてなかったような」

「……機密情報だった」

「まさかの情報漏洩!?」

「どのみち動画が出ればみんな知ることになるし……あ、賞金については動画出た後も秘密だった。でも羽衣璃なら、いいか」

「よくないですよ!?」


 下手をすればキルの首が飛びかねない。

 キルがしてくれるダンジョンの話は動画には出て来ないものもあって聞く分にはとても楽しいのだが、たまにどえらい爆弾をぶっこんでくるから油断ならない。 


「羽衣璃が黙ってくれれば問題無い」

「いやまぁそうなんですけど……」


 羽衣璃も『スルーズ』公式アカウントから「重要なお知らせ この度弊社所属の冒険者『キル』が情報漏洩により云々かんぬんでクビ」なんて発表されるのはゴメンである。

 どうもキルはそこら辺が無頓着というか、羽衣璃相手にはどうも隙が多い気がしてならないと思うのは自意識過剰だろうか。


「いやはや、とんでもない情報知っちゃいましたねぇ……」


 ダンジョンの情報は全てが全て世間に公開されている訳ではないと言うのは最早常識ではあるが、その一端を知るだけでも胃もたれを起こしそうだ。

 賞金一億円。それだけの脅威たり得ると判断された鎧の魔剣。

 そんな魑魅魍魎が跋扈する場所で、キルは戦っているのだ。


「あまり、無茶しないでくださいね。キルが戦っている姿を呑気に鑑賞しておいて何ですけども」

「気にする必要はない。羽衣璃が楽しんでくれれば私も嬉しい」


 ひとまず爆弾極まりない魔剣の話はさておき、とりとめのない会話をしていると、キルのスマホが震えた。

 キルはスマホを手に取り電話に出る。


「……了解」


 キルはすぐに電話を切ると、残った弁当をかき込み、帰り支度を始めた。


「呼び出しですか?」

「うん。救援依頼が来たから、行く」


 学生と冒険者の二足の草鞋を履くキルは、今のように早退することもままある。

 それでもテストの成績は悪くないのだから恐ろしい。(明らかにキルより時間がある自分が似たような点数であるのが情けないところだ)


「あ、じゃあこれどうぞ」


 羽衣璃は制服の内ポケットから取り出した羊羹を、キルに渡した。

 羽衣璃は一口サイズの羊羹を最低三つは忍ばせている。キルがダンジョンに出かける時は、お守り代わりに渡しているのだ。

 あまり霊験あらたかなお守りとは言えないが(味は折り紙付きだ)、キルが喜んでくれるのでよしとする。


「今日は抹茶味です」

「ありがとう」 


 キルは羊羹をポケットに入れると教室から去った。

 羽衣璃はキルを見送った後、再び食事を再開するが、


「やっぱり美味しくねぇ~……」


 一緒に食べる相手がいれば、どんな食事もそれなりにはマシになる。

 その相手すらいなかったら最早どうしようもない。

  3ヶ月前、両親が仕事で海外に行ったことで始まった一人暮らし。

 最初の頃はあれもこれも自由だー! と思ったが、自由には代償が付きもので、羽衣璃の自由には家事全般がくっついてきた。


 洗濯や掃除は最初は大変だけどまあ慣れた。

 が、料理だけは未だに底辺レベルの技術で固定されたままなのであった。

 充分な生活費は両親から貰っているが、そう頻繁に外食に行くのは申し訳無い。

 そんな訳で、本来テンションが上がるはずの食事の時間が、なんとも残念なことになっている羽衣璃であった。


 おまけに自分以外誰もいない一軒家というのは寂しいことこの上ない。

 不出来な料理をモヤモヤとした気持ちのまま書き込んだ羽衣璃は、その後睡魔と戦いながら午後の授業をこなした。そして放課後。


「さーて帰りますか……まあ家には誰もいないんですけど」


 ただいまも行ってきますも言わなくなって久しい。返答がないのに言うのは虚しいのだ。

 とは言え、これが羽衣璃の日常ではある。

 不満こそあるが、他人に相談する程のものではない。

 ましてや、十年前のダンジョン災害で天涯孤独になったキル相手に、家に誰もいないから寂しいなんて言えるはずもない。


 そんなものだと受け入れて、夕食兼明日の昼食の内容を思案する。何にするかは決まっていないが、残念な出来になることは想像に難くない。

 それが日常。そんな日々の繰り返しがずっと続く……

 その筈、だった。



「……うっそお」


 羽衣璃はダンジョンの中にいた。

 整地なんてされているはずの無いゴツゴツした地面。

 血とカビが混じり合った異臭。

 気休めに周囲を照らしている青白い鉱物。

 いつも液晶越しに見ている景色の中に、羽衣璃は立っていた。


「いやいやちょっと待ってくださいどーゆーことですかコレ場面切替おかしくないですかどーなってんですかホントにコレ!?」


 先程まで羽衣璃は家までの道を歩いていたのだ。

 それがいつの間にか、こんな場所にいる。

 整合性も何もあったものではない。

 まるで時間をすっ飛ばしたかのようだった。


「とにかくここにいたらマズいですよね。携帯……は、圏外ですか。とにかく早く出ないと……!」


 ――モンスターに殺される。

 十年前、キルの両親がモンスターに殺害された瞬間の記憶が鮮明に蘇る。

 その時だった。


「――おや、生身の人間は久しぶりだね」


 人の心にするりと入ってくるような、心地のよい声だった。

 振り向くと、自分よりも小柄な少女がいた。

 いや、少女と判断していいのかと羽衣璃の本能が警報を鳴らす。

 薄暗いダンジョンの中で煌々と輝く紅い瞳と、透き通るような白い肌。

 そして触れるものを切り裂きそうな銀髪。

 アバターではない。

 少女は本物の肉体を有し、羽衣璃と相対している。


「あなたは……」

「初めまして。僕の名はディア・ルイン。ディアで結構だ。君の名前も聞かせてくれるとありがたい」


 芝居がかった言い回しで、少女――ディアは優我に礼をして見せた。

 かくして、少なくともこの時までは普通の高校生だった羽衣璃は、奇妙な少女と出会ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ